歴史の教訓、2

『歴史の教訓』から、もう一つ考えたことを。
著者は、「第6章 予測」で、次のように書いています。
・・さらに避けてとおることのできない問題は、行政部門とホワイトハウスに関する問題である。ニクソンは、かつては省務と考えられていたいくつかの職務を、国家安全保障会議の専門職員に移管し、専門職員たちが情報を収集し、事件の評価を提出し、取るべき行動方針を分析することになった。このような機構改革の結果、あらゆる省・部局の権力や影響力がいちじるしく減退することになった。だから、未来を推測する時われわれは、次のような問いかけを行わなくてはならない。すなわち、こうした傾向が一時的現象でないなら、肥大化し複雑化した国家安全保障会議の専門職員は、国務省やCIAの場合と同じように、自らの機構の利益や機構内の紛争を今後助長させようとするのだろうか。もしそうなら、その利益や紛争はどのような形態のものになっていくのか・・p235
かつて韓国を訪れ、内務部や後に行政自治部(これが韓国の自治省に当たります)の幹部と話した際、内務部の職員と権限の一部が大統領府に移され、大統領府と内務部との間で仕事の進め方が難しくなっていると、聞きました。
アメリカや韓国は大統領制なので、日本とは少し事情が異なります。しかし、総理主導・官邸主導が多くなると、似たような問題は起きます。総理が担当大臣や担当省幹部を呼んで、相談し指示を出している分には、問題は起きません。総理が担当省でない人たちを使うようになると、問題が出てきます。総理と各大臣との役割分担をどうするか(組織論であるとともに政治権力論になります)、官邸で総理を支える職員や官僚でないスタッフと各省官僚との関係をどうするか(これは組織論です)。
もちろん、各省から官邸に出向している秘書官や参事官は、板挟みになることは、これまでにもありました。このほかに、内閣官房や内閣府に設けられる各種の改革本部も、他省の所管業務を改革することが多く、各省との利害対立が起き、本部に出向した官僚は、板挟みになります。その所管業務に詳しいのは、各所管省の職員です。彼らを排除して改革することも、難しいです。
民間の組織や市場ルールを改革する場合は、官対民の戦いになりますが、各省改革や各省の所管業務を改革する場合(それも各省の反対がある場合)は、政対政または官対官の戦いになるのです。政治が仕切ってくれれば、官の悩みは少なくなります。この点については、組織内改革・組織間改革をどう進めるかという観点から、別途書きましょう。