塩野七生著『ローマから日本が見える』(2008年、集英社文庫)から。
・・「指導者に求められる資質は、次の五つである。知力、説得力、肉体上の耐久力、自己制御の能力、持続する意志。カエサルだけが、この全てを持っていた」(イタリアの普通高校で使われている歴史教科書より)
(編集部)いやはや、イタリアの高校生というのは、すごいことを学校で習うのですね。日本では歴史教育問題が騒がれていますが、この一節を見ると正直言ってがっくり来る・・
(塩野さん)・・私もこの一節を見つけたときには、「参った」と思いました。
そもそも「指導者の資質」などというテーマは日本のビジネス誌でもよく採り上げられる話題ですが、日本の場合なら必ず登場してくる決断力、実行力、判断力などといったことが、ここではまったく触れられていない。その理由はなぜだと思いますか?
要するに、人の上に立とうとする以上、この三つの資質は当然持ち合わせているべきことで、改めて採り上げるまでもない。そう考えられているからです・・
ところで、組織管理者に求められる資質と、指導者に求められる資質は違う。それは何かと、近年考えています。私はこの職業について以来、行政組織管理に関心を持ち、勉強してきました。自ら実践するためだけでなく、後輩たちの参考になるようにいくつか文章も書きました。
(本屋に行けば、古今東西の指導者論と、現代の組織の管理者論が、山のように並んでいます。ところが、ある本には「君子危うきに近寄らず」とあり、別本には「虎穴に入らずんば虎児を得ず」とあります。また、「初志貫徹」を遂げた偉人とともに、「臨機応変」の必要も述べられています。困りますねえ、凡人には。それはさておき)
現在の日本の指導者に求められている能力は、組織管理者の延長ではないと思います。日本社会や会社の経営がうまく行っている時には、そんなに違いはないのかもしれません。しかし、明治以来のあるいは戦後の「日本の成功」と言われた「日本型経済政治行政モデル」が立ちゆかなくなった時に、従来型の組織管理者では、社会や組織を良い方向に転換できないのです。
組織内部をうまく管理すること。これは同じです。違いを簡単に言えば、「外の変化にどう対応するか」と、「将来に向けてどうかじ取りをするか」でしょう。そのための改革を、どのように構成員に説得するか。反対者を説得するかです。
もちろん平時でも、指導者と組織管理者とでは、求められる能力が異なるのでしょう。しかし転換期に、その違いが目立つのでしょう。指導者だけでなく、官僚にも求められる違いもあります。この議論は、もう少し丁寧な説明が必要ですね。今回も、短文でお許しください。