前回、これからの日本を規定する要因として、国際環境を挙げました。日本はこの150年間、キャッチ・アップ型で成功しました。しかし、それに成功して先進国になったので、そのモデル(ビジネスモデル)は使えなくなりました。さらに、アジア各国が追いついてきたので、日本の優位性も失われたということです。
これは、産業だけでなく、行政や社会在り方についての考え方も、含まれています。拙著「新地方自治入門-行政の現在と未来」では、日本の行政がかつて高い評価を得たことの理由を、キャッチ・アップ型に成功したからと説明しました。そして、近年、評価を落とした理由も、そこにあります。
この条件は、変わりません。これから日本が、世界の先進国の一員として発展するためには、先頭に立って考え、新しいことに挑戦する。そういうモデルに、変える必要があります。成功したお手本をまねることに比べ、これは効率が悪いです。
さて、これからの日本を規定する国際環境には、このほかにも、いろいろなものがあります。
まず、北東アジアの島国であること、特に中国の隣に位置するという地政学、国際語でない日本語といったような、「日本が置かれた固有の条件」があります。
それとともに、世界の戦争と平和がどうなるか、どの国がヘゲモニーを握るのか、資源の枯渇や食料の不足と奪い合い、地球温暖化、さらなる経済社会の国際化、どのような科学技術の変化が起きるのかなど、「世界に共通する国際条件」があります。
これらも、これからの日本を規定する要因です。しかしこれらは、形こそ違え、これまでもあった条件です。知恵を出しながら、克服していけるでしょう。例えば「日本には資源がない」と嘆く人がいますが、これまで、それでも成功したのです。
通常、日本を取り巻く国際環境といった場合は、いま述べたような「日本が置かれた固有の条件」と「世界に共通する国際条件」を取り上げることが多いと思います。
しかし、私が、「キャッチ・アップ型モデルの終了」を、国際環境の第一として取り上げるのは、これが戦後日本の成功と停滞を規定した第一の要因であり、日本人の思想の基層にあるからです。そして、成功体験は、なかなか捨てることはできません。
国際環境に関して言うと、今後の日本がどうなるかは、まず「これまでのキャッチ・アップ型モデルを捨てること、そして新しいモデルに変身すること」とともに、「世界に共通する国際条件」に対して、日本がどのように働きかけるか、貢献するかが、重要な要素です。
キャッチ・アップの時代は、先進国がつくってくれた、科学技術、産業、政治システム、文化をまねました。そして、先進国がつくった「国際秩序」を利用させてもらったのです。それは、東西対立の下の平和、世界の自由貿易、国際金融秩序、国連などの国際機関と秩序づくりのテーブルなどです。
近年、日本も、新しい技術や文化を、世界に向けて発信しつつあります。生活文化では、インスタントラーメン、アニメ、ファッション、カラオケ、電器製品など。そして国際秩序に関しては、国連などの国際機関、サミット、G8、G20などに入り、国際秩序づくりに参加しつつあります。しかし、まだ発言力が弱い、経済力に見合った貢献をしていない、平和活動(軍事・治安面)での貢献がないといった批判もあります。
今後、国際社会の統合が進む中で、日本はどのような国際社会を目指し、どのような努力をするのか。日本の国益も含めて、考えなければならないことです。
国際環境に関して、今上げた二つの要素(キャッチ・アップモデルからの脱皮と、国際秩序づくりへの貢献)は、外的要因ではなく、日本からの努力による要素です。
「岡本の言う要素は日本の事情であって、国際環境ではないじゃないか」という、反論もあるでしょう。しかし、国際環境が与えられた条件だと考えることが、そもそもキャッチ・アップ型の思考なのです。与えられたルールで努力するのか、そのルールをつくる側に回るのか。採点される側で努力するのか、採点する側に立つのか。こう言ったら、理解してもらいやすいでしょうか。(この項続く)