(地方からの評価)
「3兆円という大規模な税源移譲を基幹税により行うこととしており、これはこれまでにない画期的な改革であり、今後の地方分権を進めるうえにおいて大きな前進である」。
また、生活保護費が盛り込まれなかったこと、施設整備費を対象に採り入れたことは、地方の意見が反映されたものとなっているものの、児童扶養手当や児童手当、義務教育費国庫負担金の負担率の引き下げなどは、地方分権改革の理念に沿わない内容や課題が含まれていると批判しています。
そして、「今回の内容は、地方分権の今後の展望を拓くための第一段階と受けとめており、引き続き平成19年度以降も更なる改革を進めるべきである・・・。我々地方六団体は、真の地方分権改革を着実に実現するため一致結束し、改革を前進させるためにも「国と地方の協議の場」の制度化を求めるとともに、地方分権改革が国民各位の幅広い理解が得られるよう一層努力していく」と、決意表明しています。
12月4日の読売新聞は、47知事のアンケート結果を詳しく載せていました。それによると、評価できると答えた知事は9人、評価できないが25人だそうです。評価できない点は、地方案にない項目での税源移譲が23人、義務教育国庫負担率引き下げが15人、地方案の反映度が低いが13人などです。
2日の日経夕刊では、47知事のアンケート結果は、どちらかといえば評価できるが12人、評価できないが6人、どちらかといえば評価できないが19人でした。政令市長13人では、どちらかといえば評価できるが11人、どちらかといえば評価できないが1人でした。
知事と市長の反応の差は、県負担である義務教育の国庫負担率が引き下げられ、市の負担(町村部は県負担)である生活保護がいじられなかったことなどが、主な理由でしょうか。
2日の毎日新聞では、47知事のうち、評価するが9人、評価しないが19人、どちらともいえないが19人です。また、小泉首相の指導力については、15人が発揮された、発揮されなかったが8人、どちらとも言えないが24人でした。(12月13日)
(解説・評価)
12月1日の読売新聞では、青山彰久記者が「地方の提案力、次に生かして」を解説しておられました。「大正デモクラシー期までさかのぼる日本の自治・分権の歴史からみれば、この改革はどう位置づけられるのか」
「今回の骨格は、これまでに前例がない3兆円の税源移譲を掲げたり、族議員と各省の頭越しに地方へ改革案を求めたりした点で、首相主導でつくられた。西尾勝国際基督教大学教授の指摘によれば、各省間の折衝で合意できたものだけを閣議にかける『霞が関の慣行』に穴を開けたのが、小泉政権の成果の一つといえる。きっかけは、橋本内閣で創設を決めた経済財政諮問会議だ。これを小泉内閣が最大限に活用した。各省が反対しても同会議で決めた骨太方針は閣議決定され、従来のルールを崩した」
「たしかに、95年から6年間続いた政府の地方分権推進委員会が税源移譲には進めなかったことを思えば、一定の成果といえる。だが、最終的にまとまった補助金改革と税源移譲の姿はどうか・・・」「地方が国の下請けになる構造を変え、地方に税源と責任を与えて効率的な政府体系を作るのがこの改革のゴールとすれば、まだ遠い」
「改革の再出発には、公共事業、社会保障、義務教育などで、改めて国と地方の任務を決め直す制度設計が必要だろう。その際、今回の改革過程で生まれた『国と地方が同じテーブルで協議する』という方法は生きる。これまで霞が関の各省に政策立案を依存してきた地方が、補助金改革や生活保護制度などで新しい制度を提案した経験は貴重だった。これをステップに地方が責任ある政策の提案力を高め、全体の制度設計を提案し参加する体制を整えることが、次の改革の扉を開けることにつながるように思える」
5日の日経新聞では、中西晴史編集委員が「地方分権、生みの苦しみ」として、大きく解説しておられました。「政府が地方分権推進の議論を本格化してから10年。今回決着した国と地方の税財政改革(三位一体改革)で、地方側は初めて国から大規模な税源移譲を勝ち取った。『画期的』と評価する声もあるが、『補助率引き下げなど国の関与が残る内容が多く、自治体の創意工夫を生かすには不十分』との批判が多い。残る地方交付税の見直しは手つかずで、真の地方の自立への道はなお険しい」。
「初の税源移譲、10年で勝ち取る」「施設整備には風穴」「交付税には及び腰」「敵は霞が関だけではない、潜む地域間の溝」という小見出しが並んでいます。
7日の朝日新聞では、坪井ゆづる論説委員が「三位一体総括・上」で、「分権への効果期待外れ」「省益温存許した首相、『脱霞が関』貫く覚悟なし」を書いておられました。
「そもそも、改革の出発点は中央集権型の行政のなれの果てといえる政府と自治体の計800兆円近い借金だ。だからこそ、財政再建と同時に、分権社会への転換が声高に叫ばれた。霞が関の現状を前提にしたような議論で進む改革ではない。中央集権のもとで経済成長を志向してきた国と地方の関係を見直すものであり、『この国の統治構造を変える改革』(石原信雄元官房副長官)とも位置づけられた。だが、小泉首相はこの局面で『脱霞が関』を貫き、この国を根っこから変える必然性への自覚も、その覚悟もなかったようだ」
「最初に火花を散らしたのは、財政再建とりわけ地方交付税の減額を迫る財務省と、それに税源移譲で対抗した総務省だ・・・。財務、総務両省の『肉を切らせて骨を切る戦法』の具体化を迫られた各省は、それぞれの
方法でかわした。文部科学省は・・・単なる数合わせで、中教審答申の論理的な正当性をないがしろにしてまでも、制度堅持は果たした格好だ。厚生労働省は、『地方への負担引き渡し路線』だった。安倍官房長官と連携し、懸案の生活保護負担率引き下げをめざした。その揚げ句に、何の議論もないままに児童手当など別の負担率を下げた。・・・国土交通省では交付金化が目立った。・・国交省が補助金配分業としての権限を温存する実態は変わらない。各省とも、自治体が自己責任、自己負担で自己決定する分権社会への流れを、あえて無視しているようにしか見えない」
「自治体側は小泉首相から要請された補助金廃止案づくりを、2度まとめた。利害の異なる自治体が結束して培った政治力が、内閣官房長官のもとに初めて国と地方の協議の場を設けさせた。だが、最終局面の政府与党の協議には結局、外側から注文をつけただけだった・・・。一方で自治体側、とくに知事会は反転攻勢の機会を逸した。今年9月の総選挙である。候補者アンケートで、義務教育や生活保護の負担率引き下げへの賛否を確認しておけば、それを担保に国会議員への発言力を確保できた可能性がある」
「自治体側は、さらなる改革を求めている・・。だが、自民党も各省もうんざり顔だ。『地方要求通りに補助金を削ったら、うちの局がなくなる』と言う局長もいる・・・だれが首相でも霞が関依存体質のままでは、今回と同じ結果になるのは明らかだ。そのときは民主党の存在感が相対的に増すかもしれない・・霞が関との縁遠さも利点になりうるからだ」。
8日の「下」では、松田京平記者たちが、「広がらぬ自治体の裁量」「反映しにくい地域事情、権限の多く国に残る」「改革リード意欲も必要」を書いていました。
それぞれ、幅広い視野に立った的確な指摘だと思います。
3日の読売新聞「談論」では、吉田和男京大教授、神野直彦東大教授、片山善博鳥取県知事が、評価を述べておられました。片山知事は「一連のドタバタ劇は『霞が関の病理』そのものだ。過去の合意事項をこっそり読み替えるし、権限も手放そうとしない。国民からみてつまらない補助金の配分も、役人には権限になり、財政当局にとっても予算査定を通じた『うまみ』らしい。・・真の改革には、霞が関の改革が急務であることを改めて認識させられた」。(12月15日)
(これからの動き)
今回の三位一体改革(第1期)に対する私の評価は、12月11日に書いた通りです。①補助金廃止・税源移譲が3兆円も実現することは、画期的なこと。②しかし、地方の自由度が高まったとはいえない。③今後、補助金廃止・税源移譲が進めば、今回はその突破口として大きな評価がされるであろう。しかし、これだけでとどまるなら、良い評価にはならないだろう、ということです。
となると、今後、第2期改革をどう進めるかが、課題となります。「霞ヶ関と永田町は、もううんざりしている」と伝えられています。今回の課程で、地方から案を出したこと、国と地方の協議の場を作ったことは、大きな前進です。しかしながら、昨年も今年も最後は国(政府与党)が決め、地方の参画はありませんでした。それに対し、政府与党案の決定について、官僚機構(補助金所管省と財務省)は大きな影響力を持っています。
補助金廃止・税源移譲は放っておいては、進みません。このまま立ち消えることが、霞ヶ関にとっては好都合なのです。第2期改革を進めるためには、地方側は作戦を練り、団結して当たらなければばなりません。
①改革の目標・内容
まず、どの補助金をどれくらい廃止するのか、を決めなければなりません。これについては、6団体は昨年大枠を決め、国に提出しました。しかし、義務教育が中途半端な形になりました。施設整備は税源移譲対象となりましたが、移譲額は2分の1になりました。これらをふまえ、もう一度整理し直す必要があります。そして、どの税金を移譲してもらうか。これについては、議論が進んでいません。
②戦術・戦略
もちろん、6団体が結束して、国に案を突きつけることが必要です。しかし、国と地方の協議の場の「限界」も見えました。すると、その経路以外の攻勢も、考える必要があるでしょう。今回、地方は、生活保護負担金切り下げ案に対して、事務の返上で対抗しようとしました。このような「場外乱闘」が有効なのか、そのほかの手段はないのかを議論すべきでしょう。
そして、回りくどいようですが、味方を増やす必要があるでしょう。国会議員、マスコミ、オピニオンリーダーたちです。国民にも支持してもらえるようにする必要があるでしょう。分権・三位一体改革は、連日のように新聞の1面を飾るようになりました。かつてなく盛り上がっています。ほとんどの人が総論は賛成ですが、各論になると異論が出てきます。これを最終的に押し切るのは、やはり世論でしょう。
次の節目は、6月にも予定される「骨太の方針2006」でしょう。ここに、どう書き込むか。地方に与えられた時間は、それほど多くはありません。(12月17日)