カテゴリーアーカイブ:社会と政治

日本の保守、体系的思想より国家の威信

2026年7月7日   岡本全勝

6月16日の朝日新聞オピニオン欄「そもそも保守とは」、小熊英二・慶応大学教授の発言から。原文をお読みいただくこととして。
政治的対立を「保守対革新」として分析することはよく行われます。それが当てはまる場合もあるのですが、国や時代によってその内容は異なります。日本の戦後でも、変化してきました。安易に55年体制を基礎に考えることは、もはや避けなければなりません。アメリカでは、保守党はありません。イギリスでは、長い間、保守党の対立相手は労働党でした。国際政治では、保守対革新という構図は用いられません。政治的対立を思想の対立として捉えることもできますが、多くの場合はその下部に利害の対立があります。

―高市早苗政権は「保守強硬派」とも言われます。日本で「保守」とはどう定義できるのでしょう。
「保守とは相対的なもので、地域や時代によって変わります。共通の定義はできません。例えば、アメリカやヨーロッパ、日本といった地域でそれぞれ、保守の中身や結びつく争点は異なっています」
「国際プロジェクトの『世界価値観調査』からの分析では、ヨーロッパや北米では経済的争点が左右と結びつく傾向が強かったのですが、ほかの地域は必ずしもそうでなかった。東アジアでは家族に関する争点、国家の威信に関する争点と結びつく傾向があった。そして国家の威信では、冷戦との結びつきが大きな軸だったと思います」

―どういうことでしょうか。
「韓国や台湾の政党は、『アメリカとどういう関係をもつか』『自国は(北朝鮮や中国と対比して)どういう国なのか』で二大陣営に分かれます。日本も『アメリカとどういう関係をもつか』『日本は平和国家なのか』が争点で、それが日米安保や自衛隊、憲法9条に結びついていた」
「また1950年代の保守派の改憲論は戦前志向でしたから、家族や男女平等に関わる憲法24条も関係していた。『軍隊がないと一人前の国家ではない』という発言が男性の政治家からなされることも多かった。当時の護憲論は、こうした『国家の威信』や『家族の秩序』をめぐる争いで、それが結果的に『外交・安全保障』に分類されていた」
「第2次大戦後に形成されたこの争点が60年代以降も政党間の分岐を作っていて、経済は右・左を議論する基準になっていません。どの政党も減税と財政出動をセットで唱える傾向は明治期からあり、そこは今でも変わっていない」
「そもそも自民党や社会党という戦後の主要政党は、特定の明確なイデオロギーはなかった。はっきりしたイデオロギーや組織基盤を持っていたのは共産党と公明党だけでしょう」

―「革新」「リベラル」はどうみたらいいのでしょうか。
「日本の政党政治における『リベラル』とは『非共産党・非自民党』ということであって、体系的思想はなかったと思います。ただし10~20年ほど前までは、そこに『日本は平和国家であるべきだ』という要素もあり、日本の民衆の支持を得ていた。しかし世代交代が進み、この『平和主義』への支持は減少した」
「ただし日本政治における『保守』は、それ以上に体系的思想はなかった」

日本の土地所有権の「強さ」

2026年6月9日   岡本全勝

6月3日の日経新聞中外時評は、斉藤徹弥・上級論説委員の「土地所有権は成熟に向かう」でした。

・・・近代国家制度に影響を与えた19世紀の思想家ジョン・スチュアート・ミルは、土地はみんなの財産であり、土地の私有が許されるには、地域のみんなに便宜をもたらすことが条件になるとした。
この私的所有と公共の福祉は不可分という考え方は土地所有制度の基本になる。欧州は地域の総意で土地利用や建築を規制し、古い街並みを残してきた。日本はなぜそうならなかったのか。土地所有の歴史に詳しい松尾弘・慶大教授の解説はこうだ。

土地所有制度は個人の利益と公共の利益を調和し、土地が生む利益を最大化する。だが明治政府が地租改正で私的所有権を導入すると、公共の福祉と不可分という理解が不十分なまま、土地の取引や利用の自由化が進んだ。
土地は価値を生み、国の財政を安定させた。だが自由化の成功は規制を難しくする。公益による規制は私的所有権を外から制限するものとの理解が定着してしまった。
当時は市町村が頻繁に再編され、欧州のように地域で土地利用の計画を考える仕組みができなかったのも大きい。将来どんな土地にしたいか、理念がなければ景観は守れない。時間はかかっても地域の理念を地道に育むべきだ。

地価高騰、外国人の取得、景観・環境、空き地、所有者不明――。現代の土地問題は明治以来、市場原理では解決できず、公共の福祉が問われる事態への備えを怠ってきた帰結である。
松尾氏はこの未成熟な土地所有制度がいま、試行錯誤を経て発展してゆくプロセスに入ったとみる。公共の福祉のため土地の私的所有権を制約し、国や自治体、地域が関与を強めつつあるからだ・・・

私は、日本人は個人主義(集団より自分を優先する)の社会だと考え、その一つが土地の所有権の強さだと思います。地域のことを考えず、私権を優先します。ちなみに日本人は集団主義と言われますが、あれは嘘でしょう。同調圧力が強く、それに従っているだけと思えます。

コロナ禍にみる政治と専門家との関係

2026年5月22日   岡本全勝

5月17日の朝日新聞「コロナ5類から3年 いま考えるべきこと」「ワクチン開発や専門知、生かせる国へ」。
・・・新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の経験を踏まえ、いま何を考えるべきなのか。「創薬」と「政治と専門知」について、聞きました・・・

牧原出教授の発言「どれが最適解、決めるのは政治」から。
・・・コロナ禍は、政治と専門家の関係がどうあるべきか、という大きな課題を残しました。
感染拡大と医療逼迫が深刻化するなかで、東京五輪の開催の是非などをめぐり、政権と専門家の意見の対立が表面化する場面もありました。専門家が「前のめりだ」と指摘されることもありました。首相の記者会見では、同席した専門家が説明する場面が多かったため、専門家がコロナ対策を決めているかのように国民には映りました。
専門家は科学的な知見にもとづいて意見を述べる。それを採用するかどうかは政治が決める。採用しない場合は、その理由も含めて政治の側が説明する――。本来はこれが政治と専門家の関係のあり方でしょう。

感染対策と社会経済活動とどちらを重視するか。コロナ禍の後半では、医療・公衆衛生などの自然科学と、経済などの社会科学の専門家の間で意見を一つにまとめることが難しくなりました。
私自身は、別々に議論してそれぞれの「最適解」を出すやり方もあったと考えています。意見の違いを国民からも見えるようにし、最後は政治がどちらをとるか決める、というかたちです。

一方で、異なった分野の専門家と日常的に交流を深め、互いの考え方を理解することは重要だと思います。
いつ何が起きるのか、予測不能な時代です。パンデミックと大震災が同時に起きる「複合災害」も念頭に置かねばなりません。そのときに政治は、専門家のもつ「専門知(専門的知見)」を読み解く力が求められます。ポピュリズム(大衆迎合主義)では乗り切れないことは明らかで、こうした課題は、現在の高市政権にも向けられていると、私は考えます・・・

旧統一教会問題への国の不作為

2026年5月8日   岡本全勝

4月18日の朝日新聞オピニオン欄、宗教社会学者・桜井義秀さんの「旧統一教会問題への不作為」から。

・・・高額献金や霊感商法の問題が長年、指摘されてきた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に東京高裁が3月、解散を命じた。教団について約40年、研究してきた宗教社会学者の桜井義秀さんは、行政や捜査機関などがすべきことをしなかった「不作為」を指摘している。社会は何を見過ごしていたのだろう。

―旧統一教会の問題は長い間、指摘されてきたものの、安倍晋三元首相の銃撃事件まで、目立った対策がとられてきませんでした。
「1980年代からカルト宗教を研究してきましたが、宗教界を中心に、ほとんどの人はこのテーマに関わりたくないと思っています。カルトがもつ独善性や、自由を奪い規律で人を縛る仕組みなどは、宗教自体の特徴と通じるところもあり、宗教の負の面を見たくない、ということなのかもしれません」
「2010年に旧統一教会の研究書を出版した時も、社会的インパクトはほとんどなかった。その一方で私は、調査対象とした教団からネットでの誹謗中傷を受け、訴訟のリスクを常に抱えてきました」

「日本は『現状維持』をしたがる社会です。自ら変えようとする動きはあまり見られません。旧統一教会の問題とは、信者やその家族ら、一般市民の人権が守られていなかったということです。霊感商法や高額献金の問題が広く知られていたにもかかわらず、自民党の議員たちは選挙で教団を利用していました。メディアはその実態を報じず、国民もこうした政治家を支持してきました。教団が社会的に認められてしまうという絶望、危機感が背景にあったのが安倍元首相の銃撃事件でした」

―東京高裁が3月、教団に解散命令を出し、教団側は最高裁に不服を申し立てています。
「献金、勧誘、布教行為は信教の自由に基づくという前提がある中で、今回の決定は、信者の財産、家族への影響などから見ても、社会的相当性に照らし悪質で組織的な不法行為であると、明確に打ち出しています。非常に評価できますが、遅きに失した感は否めません」
「09年に教団が『コンプライアンス宣言』したきっかけは、信者たちが印章などを売りつけた事件でした。なぜ当時、捜査機関がもっと踏み込まなかったのでしょう」
「今回の解散命令に先立って、文部科学省は教団に質問権を行使し、解散命令を請求しましたが、質問権の行使についてはもっと前にできたのではないでしょうか。私は20年以上前から文科省主催の宗教法人対象の研修会において教団の問題性を指摘していました」
「もちろん、戦前・戦中にあった宗教統制や弾圧の歴史を顧みれば、宗教に国が安易に介入すべきではないし、管理も実質的にできません」
「ただ、国が宗教団体を宗教法人として認証するということは、非課税という、いわば特権を与えて公益法人として認めることです。そうである以上、法人が宗教活動に専心し、公益活動も行うという宗教法人本来の認証目的にかなっているのかどうか、これをチェックするという意味での質問権行使は、所轄庁として当然すべきことだったと考えています」

―同様の被害を起こさないためには、何が必要だと考えますか。
「宗教者、児童相談所のスタッフなど、現場にいる人々に関わってもらうことです。介入の難しさや孤立のしやすさを前提にして、相談できる場所、支援する人を増やしていく必要があります」
「『宗教のことだから』『信教の自由があるから』といって思考停止するのではなく、何かおかしくないか、何か自分にできることはないか、そういう手を誰もがさしのべる必要があるのではないでしょうか」
「社会に大きな影響を与える出来事が起きても、誰も責任をとらないということが繰り返されてきました。元首相銃撃事件も、旧統一教会の一連の問題も、この国が自分たちで問題を解決しようとしなかったことの表れではないでしょうか。何かしなければ、と考え、行動を起こす人間が出てくることを待つしかありません。私自身は間違いなく、その一人になろうと思います」・・・

技術の暴走とどう付き合うか

2026年5月6日   岡本全勝

日経新聞は4月21日から、「欧州発 技術の倫理」を連載していました。
・・・人工知能(AI)などの技術は文明の発展に寄与する一方、世代を超えた負の影響をも生み出しかねない。人間の能力を超えつつある技術をいかに制御すべきか。欧州では人文系の研究者が哲学や倫理学の伝統をふまえつつ、この難問に向き合っている・・・

として、次の4つが取り上げられています。
1 人工知能:AI大臣は理想の政治家か 欧州の思想界、先走る現実へ警鐘
2 気候変動:オランダ水上住宅、荒ぶる自然と共生図る 利便と正義は両立するか
3 放射性廃棄物:「核のごみ」封印計画 欧州で高まる未来への倫理的責任論
4 ゲノム解析:英国で進む全新生児のゲノム解析計画 技術と人権、両立に悩む欧州

どんどん進む技術とどのよう付き合うかについては、この倫理問題ほかに、次のようなものもあります。
・インターネットを利用した武力攻撃や犯罪
・人工知能の武力攻撃への利用
・ソーシャルメディアによる世論や意識の誘導
・スマートフォンが子どもに与える悪影響
・人工知能に頼る学生の論文執筆
・環境や生物に悪影響を与えるプラスチックごみ
などなど