カテゴリー別アーカイブ: ものの見方

ストレンジ著「国家と市場」

スーザン・ストレンジ著『国家と市場ー国際政治経済学入門』(2020年、ちくま学芸文庫)を読み終えました。1994年に出版されたものが文庫化されたのです。原著は、1988年にイギリスで出版されています。
この本で主張された構造的権力と関係的権力について私は眼が開かれ、このホームページでも何度か紹介しました。「構造的権力」「アメリカが広めたもの・資本主義経済、自由主義、多国間統治
構造的権力を勉強するために、単行本を探して読みました。20年ほど前のことでしょうか。今回文庫本になったので、寝転がって読みました。単行本だと、たぶん再読しなかったでしょう。ありがたいことです。

ストレンジの主張する構造的権力を、私は少し違って理解し、使っていることに気がつきました。この考え方は、現在の国際政治経済学や政治学では、どのような評価と位置づけになっているのでしょうか。経済学で言う「経路依存性」なども、この考え方と類似の発想だと思うのですが

ところで、単行本でも気になっていたのですが、図2が間違いだと思います。四つの構造的権力(安全保障、生産、信用、知識)の関係を説明する際、本文では「四つの面を持った三角形、三角四面体」と書かれているのですが、図では四つの三角形と一つの四角形の五面体になっているのです(文庫版p74)。

人文知応援フォーラム

人文知応援フォーラムが、2月28日に、第1回人文知応援大会「コロナという災厄に立ち向かう人文知」を開催します。オンラインで見ることができます。ご関心ある方は、お申し込みください。

佐々木毅先生の基調講演「ポピュリズムとコロナ禍の社会の中で」のほか、五百籏頭眞先生の「コロナ危機と国際政治~リベラルデモクラシーは普遍的価値たり得るか~」、福岡伸一先生の「科学技術にとって人文知とはなにか」などが予定されています。

岡本行夫著「日本にとって最大の危機とは」

岡本行夫著「日本にとって最大の危機とは?」(2021年、文藝春秋)を、お勧めします。去年4月にコロナで亡くなられた岡本行夫さんが、2017年から2019年にかけて行った講演をまとめたものです。
行夫さんが亡くなられた後、岡本アソシエイツ(行夫さんの会社)の方が、行夫さんの若者への熱い思いを何とか形に残したいとの思いで、企画し原稿を整理して、出版されたそうです。よい本を作って下さって、ありがとうございます。

1990年、湾岸戦争時の岡本さんの活躍、四輪駆動車を日本から運ぶ際の話は有名です。私もすごい先輩がおられるのだと感激し、ファンになりました。その後、大震災で、親しくしてもらうようになりました。漁港の復旧を待たず(待てず)、冷凍コンテナを贈ってくださったのです。拙著にも書きましたが、行夫さんのアイデアと実行力に、私たち役所が「負けた」のです。
この本には、そのほか、ご自身の経験や見聞による知見がたくさん載っています。

若い人たちには、ぜひ読んでいただきたい。特に、第Ⅱ章日本の国際化のために必要なこと、第Ⅲ章個人の国際化、第Ⅳ章皆さんに贈る言葉、を読んでください。
表題にあるように「日本にとっての最大の危機」を憂い、問題点と解決の方向を述べておられます。毎日、ニュースやインターネットで多量のかつ細切れの問題が伝えられますが、それは「消費財」のように垂れ流されます。官僚、企業の幹部候補生をはじめこれからの日本を背負って立つ若者たちは、日々の仕事に忙しいでしょう。本書を読んで、立ち止まって、広い視野から考えて欲しいです。

国際人に必要な資質として他人への優しさ、そして組織として多様性の重要性が、具体事例を挙げて説かれます。「寧ろ牛後となるも、鶏口となるなかれ」(国語の試験では間違い)「欲窮千里目 更上一層楼」は、なるほどと思います。

講演録で、読みやすいです。分量も多くありませんが、読み終えて熱くなります。日本を思う気持ち、世界の困っている人を思う気持ち、思うだけでなく実行する行動力。
私には、「全勝君、まだまだ若いのだから、頑張ってよ」という、行夫さんの声が聞こえてきました。「追悼、岡本行夫さん

五百旗頭真ほか編「岡本行夫 現場主義を貫いた外交官」(2020年、朝日文庫)もお勧めです。

脳の働きと仕組み、推理の能力

乾敏郎・坂口豊著『脳の大統一理論ー自由エネルギー原理とは何か』(2020年、岩波科学ライブラリー)を書店で見かけて、読みました。難しいところ(自由エネルギー)は、飛ばしてです。なるほどねと納得するところがあり、脳の働きについてはまだほとんどわかっていないのだなというのが、読後感です。

自由エネルギーによる統一理論は、脳が推論をする(物を見て事物を認識するにしろ、コップを取るために筋肉の動かすにしろ、推論に基づいて行われています)際の方法を説明する理論です。私の理解では、「脳が推論する際には、最も省エネの方法で行う」です。これは納得できました。
他方で、まだこんなことしか、わかっていないのかとも思います。脳が細胞からできていることは周知の事実ですが、脳細胞・神経細胞を解剖しても、脳の働きはわかりません。でも、細胞はどのようにして、私たちの認識、判断、行動を生んでいるのでしょうね。

推論の方法で、次の説明が役に立ちました。私たちは、仮説を立て検証する方法として、帰納法と演繹法を学びました。もう一つの方法があります。仮説形成(仮説生成、アブダクション)です。脳はそれを使っているようです。
ウィキペディアの説明を借りると、
演繹は、仮定aと規則「a ならばbである」から結論bを導く。
帰納は、仮定aが結論bを伴ういくらかの事例を観察した結果として、規則「aならばbである」を蓋然的に推論する。
それに対し仮説形成は、結論 bに規則「aならばbである」を当てはめて仮定aを推論します。帰納が仮定と結論から規則を推論するのに対し、アブダクションは結論と規則から仮定を推論します。

私たちのふだんの行動や仕事は、この仮説形成ですよね。遠くから人を見てぼんやりとした姿から、「Aさんかな、Bさんかな」と推論します。そして近づいて、「やはりBさんだった」と確認します。
中学生の数学、因数分解の授業を思い出します。適当な数字を当てはめてみて、正解を探します。私は数学は演繹法だと思っていたので、解を見出すとき「(論理的に出てこないのに)なぜそのような解を思いつけばよいのですか」と先生に質問しました。田中先生は「直観サバンナ」と一言答えられました。当時、マツダ自動車の宣伝で「直観サバンナ」という表現が流行っていたのです。私は「へえ~」と感心し、納得しました。50年前の事ですが、よく覚えています。

仕事で案を思いついたとき、「なぜそのようなことを思いついたの?」と聞かれても、「ひらめいた」としか答えられないのです。帰納法でも演繹法でもありません。
もちろん、脳は無から有を生じませんから、いくつもある蓄積の中から、新しい事態に当てはまりやすい仮説を立てるのでしょう。いくつか仮説を立てることができるかどうか、そしてその仮説が当たっているかどうかは、その人の経験と能力によるのでしょう。私たちは日頃の仕事で、その能力を磨いています。

そこに至るまで、どれだけ努力したか

1月22日の読売新聞夕刊「言葉のアルバム」、細谷雄一・慶應大学教授の「相手国 歴史含めて理解」から。

・・・気鋭の国際政治学者は、恩師である北岡伸一・国際協力機構(JICA)理事長のこの言葉を大切にしている。
「その時にどのような位置にあるかではなく、その時にどれだけの努力をするかによって評価することが大事」
北岡氏との出会いは1990年、立教大1年生の時に受講したゼミだ・・・
・・・ある日のゼミで、「米国が理想主義を掲げながら、国内に人種差別の問題を抱えるのは偽善的ではないか」と議論になった。北岡氏は、米国の偽善を批判する前に、「米国という国家が人種問題を乗りこえるために、どれだけの努力を払ってきたかにも目を向けるべきだ」と説いた。そして「それは人間を評価する時も同じだ」と付け加えた・・・

・・・恩師の言葉は国際政治の分析にもあてはまる。歴史を含めて相手国を理解する努力が外交の基本であり、国際関係を維持する重要な要素だ。戦争はその不足から生まれる。世界は今、そのことを忘れかけているのではないかと危惧している・・・問題が起きると、どうしても相手国の欠点や問題点を探してしまう。でも、どうしてその国がそういう行動をとるのか、偏見を持たず、もう少し粘り強く理解する。混迷する世界をそうした眼で見つめていきたいと考えている・・・