カテゴリーアーカイブ:行政

サイバー戦、迫る危機

2023年6月18日   岡本全勝

6月3日の朝日新聞オピニオン欄「サイバー戦、迫る危機」、 デービッド・サンガー記者(ニューヨーク・タイムズ)の発言から。

――コンピューターシステムに侵入し、破壊するサイバー兵器の出現によって、私たち人類はそれまでとは全く違う世界に生きていると訴えていますね。
「これまでの兵器とは全く異なる、世界を一変させうる兵器が出現し、実際に使用されているのに、核の時代が始まった頃のような基本戦略をめぐる議論が行われていません。サイバー兵器が世界をどう変え、どのような意味を持つのか、それをどう制御すればよいのかといった合意がないまま急速な軍拡が続いている状態です」

――核兵器の誕生が与えたようなインパクトがあると。
「核兵器が1945年8月に与えたようなインパクトです。安全保障の力学を根本的に変える可能性が高いですが、どれだけの変化をもたらすのか、すべてを見通すことができません」
「必ずしも明らかにされていませんが、私の取材では2012年には高度なサイバー攻撃が可能だった国は5カ国ほどでしたが、それから7年間で35カ国にまで急増しました。反体制派に対して使っている政府も多いです」

――具体的にはどんな事例があるのでしょう。
「もう10年以上にわたって報道していますが、米国のブッシュ(子)政権とオバマ政権は、大統領がイランの核関連施設へのサイバー攻撃を極秘に指示していました。何年もかけてUSBメモリーからイラン中部のナタンズにある地下核施設を制御するコンピューターに侵入し、遠心分離機を停止させました。米国はイランが核爆弾を持つことを防ぐため、デジタルの新しい『爆弾』をつくってしまったのです。この作戦がサイバー紛争時代の口火を切りました。すでに各国による何百件ものサイバー攻撃が行われています」

――日本の対応をどう見ていますか。
「政府の対応では、過去に驚いたことがありました。14年に日本のソニーの子会社(米国)が北朝鮮を題材にした映画の公開をめぐってサイバー攻撃を受け、数分間で7割のコンピューターが使えなくなりました。米ホワイトハウスでは、シチュエーションルーム(危機管理室)に当時のオバマ大統領をはじめとした高官が集まって、情報収集と北朝鮮に報復の制裁を発動するかなどを検討しました」
「私は安倍政権の関係者に、当時の官邸や政府でどのような会合を開いたのかを尋ねたのですが、担当者は『まったく開きませんでした』と答えました。ソニーは日本の企業なのに」

コロナ感染対策、専門家と政治の役割

2023年6月10日   岡本全勝

5月24日の朝日新聞くらし欄「コロナ5類、専門家たちの葛藤2」、押谷仁・東北大教授の発言から。

・・パンデミック対策として集中治療室(ICU)や人工呼吸器が足りなくなる状況を誰も考えていませんでした。政府が考えていたのは初期対応だけ。少数の感染者が発生した際に保健所が入院調整し、患者は感染症指定医療機関に入院し、保健所が聞き取り調査をするところまでです。
こうした対応ではパンデミックが起きると3日で破綻しますが、医療が維持できなくなることは「起きないこと」になっていました。原発事故が「起きないこと」になっていた福島の事故の背景と同じです。

感染症疫学の専門家の仕事は「Aの選択だと1千人亡くなる」「Bの選択だと1万人亡くなる」などと示すことです。どの選択をするかは、選挙で選ばれた政治家が決め、選択をした理由を説明するべきです。
日本の政治家はそれをしておらず、専門家が対策を決めているかのように誤解され、批判の矛先が向きました。政府は「感染対策に万全を期した上で経済を回す」と言いますが、おとぎ話でしかないと思います。対策緩和で感染リスクがどの程度高まるかは、政府が説明すべきです・・・

文化庁の京都移転

2023年6月7日   岡本全勝

5月22日の朝日新聞文化欄「文化庁の京都移転を考える

井上章一・国際日本文化研究センター所長の発言から。
・・・私個人としては、文化庁の方々に、ややお気の毒だなという印象です。移転は地方創生事業の一環ですが、文化庁は様々な文化、芸術を担っており、東京のほうがメリットが大きいと言い続けました。移転が決まり、職員が何を思っているか。「なんで自分たちだけが都落ちしなければならないのか」という魂の叫び声が聞こえてきます。
京都側も抵抗したことがあります。京都は地方ではない。地方という言い方を変えてくれと。そういう京都側と、地方創生目的で移転した文化庁が、うまく折り合いをつけられるとは思えませんが、来てしまったので前向きに考えなければなりません。

霞が関の役人は、すべてを書類で判断します。京都では、文化が営まれている現場を目にして頂きたい。その楽しさ、おもしろさに目覚めてほしい。そうすれば、書類だけで動く霞が関文化が変えられるかもしれません。外交的な場での武器にもなるはずです・・・

河島伸子・同志社大学教授の発言から。
・・・文化庁の京都移転が「関西の活性化にどうつながりますか」とよく聞かれますが、京都の応援や関西の活性化のために文化庁が来たわけではありません。一番大事なのは、地方の視点を持つということです。
公演や展覧会といった文化のイベントや施設は、東京に集中しています。それぞれの地方に豊かにある文化への目配りが、今まではどうしても薄かったと思います。京都に移ることで、文化庁の職員も「地方都市とはこういうことか」と実感を持ってわかるのではないでしょうか・・・

孤独がもたらす健康被害

2023年6月5日   岡本全勝

5月22日の日経新聞、アンジャナ・アフジャ、ファイナンシャルタイムズ・サイエンス・コメンテーターの「孤独がもたらす健康被害」から。

・・・英シェフィールド・ハラム大学の孤独研究センターの責任者アンドレア・ウィグフィールド教授は孤独と社会的な孤立は違うと指摘する。後者は一人暮らしかどうか、友人や家族はいるかといった客観的指標で判断する。一方、孤独は社会的な結びつきが不足していると各人が主観的に認識する感情だ。
マーシー氏は孤独が1日あたり15本の喫煙に相当すると断言する。この驚きの数字は148件の研究結果を対象にした2010年のメタ分析で証明された。これにより年齢、性別、基礎疾患などにかかわらず、社会的な結びつきが強い人は弱い人に比べ生存率が50%高いことが結論づけられた。同時に、孤独は死亡に関し運動不足や肥満より上位のリスクファクターに位置づけられ、喫煙や過度な飲酒と並んだ。
英イングランド高齢化縦断調査(ELSA)でも、同様の残念な結果が明らかになっている。02年に始まったELSAは50代以上の住民数千人を対象とし、健康状態、体重、収入、社会的活動について2年間隔で追跡調査をしている。その結果、孤独や社会的な孤立とうつ病、認知症、心臓発作、心身の衰弱などの間に関連性が見られた。

相関関係を因果関係と解釈できるだろうか。人類が社会的動物として進化する過程で、仲間と一緒にいたいという根源的な欲求が備わったという説がある。欲求が満たされないと精神的なストレスとなり、ストレスホルモンのコルチゾールの分泌量が増えるなど生理現象が誘発される。ウィグフィールド氏は孤独感が「闘争・逃走反応」を引き起こし、炎症や白血球の増加を促しているようだと説明する。
ELSAを統括する英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンのアンドリュー・ステップトー教授は「社会的に孤立し孤独を感じる人は喫煙、運動、食事などの面で生活習慣が不健康になりがちだ」と強調した。
国民全体の健康増進に向けて孤独の対策を打つ必要性は明確で、孤独感が慢性化する前の取り組みが理想的だ。
英国で孤独問題に取り組む団体は手始めに近所の人に挨拶することを勧める。共通の趣味や関心を持つグループも仲間との交流の機会を提供してくれる。他人の手は借りたがらないが、他人に手を貸すことはいとわない男性にはボランティア活動がいいという・・・

高齢者向け地域食堂

2023年6月3日   岡本全勝

5月17日の日経新聞夕刊「シニアの食堂で高齢者の孤立を防ぐ」から。

・・・一人暮らしで食生活に悩んでいます。1人で食べるのでは料理に張り合いがなく、出来合いの弁当や総菜を買って済ませてしまいます。栄養を考えた食事を、誰かと話をしながらとりたいです。シニア向けの地域食堂があると知りました。どんなところでしょうか・・・

・・・「これがいまの私の生きがいなの」。東京都内で一人暮らしをする上山美沙子さん(85)は4月、練馬区の一軒家を会場に月2回開かれている高齢者向けの地域食堂「食のほっとサロン」を訪れ、生き生きとした表情で話した。
食堂には地元のお年寄りが集い、食卓をみんなで囲む。運営するNPO法人ハッピーひろば(同区)が1食あたり600円で提供している。
調理スタッフが作るこの日のメニューは、宮城県産モウカザメのピカタ、新じゃがいもをつかった肉じゃがなど。上山さんは仲間と世間話をしながら食べるお昼ご飯を何よりも楽しみにし、食後は近所のカフェに移動して長話にふけるのがお決まりだ。「私は皆勤賞よ」と笑う。

国勢調査(2020年)によると、50歳時点の未婚率は男性で3割弱、女性で2割弱だった。未婚率は上昇傾向にあり、高齢者の単身世帯率も上がっている。65歳以上の全世帯に占める単身世帯の割合は、00年に約20%だったのが20年には約30%となった。
単身高齢者の増加に伴い課題となるのが、栄養不足や孤立だ。1人だからと同じものばかりを食べると栄養が偏り、食事を通じたコミュニケーションが減ることが心身の不調につながる要因にもなり得る。

こうした問題の解決策として、高齢者向けの地域食堂が注目されている。各地に先駆けて17年から「シニア食堂」として取り組みを始めたのが、千葉県流山市のNPO法人東葛地区婚活支援ネットワークだ。
現在は流山市で、月に1度のペースで料理交流会を開く。50人以上の登録会員がおり、毎回30人ほどが料理交流会を訪れる。料理が得意なボランティアがレシピを持ち込み、訪れた高齢者はグループに分かれて調理し食べる。孤食を防ぐとともに、あまり料理をしたことがない人でも自炊できるようになる「食の自立」の後押しも活動目的の一つとする・・・