カテゴリーアーカイブ:行政

最低賃金審議の一部公開が広がったが・・

2023年9月5日   岡本全勝

8月19日の朝日新聞が「最低賃金審議「公開」広がる 今年は倍増40道県/一部の議論に限定 金額決定の詰めは非公開」を書いていました。

・・・全ての都道府県で今年の最低賃金(最賃)の引き上げ額が決まった。審議の一部を公開するケースが増えており、朝日新聞の調べで今年は40道県と、昨年の19道県から倍増した。ただ、どの都道府県も、労使が主張する金額をすり合わせる詰めの議論は非公開としており、全面公開のハードルは高そうだ・・・

・・・審議の公開は、鳥取県が15年前に始めた。専門部会は3者協議だけなのですべて公開し、2者協議は専門部会を休会して別室で非公開で開いてきた。
その後、公開する道県が少しずつ増えてきたが、今年一気に広がった背景には、国の小委員会が今年から一部を公開し始めたことがある。
ただ、国も公開するのは3者協議だけで、これまでも議事録が後日公表されていた部分だ。今年は5回の会合で計約26時間議論したが、公開したのはうち3時間ほど。国側の資料説明や、労使による金額に関わらない主張、最後のとりまとめの場面などだ。それ以外は2者協議だった。

これに対し、労働組合の中央組織・全労連は審議の全面公開を求めてきた。黒沢幸一事務局長は「率直な議論は公開されてもできる。労使がどんな主張をして、どう最賃に反映されたかを監視する必要がある」と話す。
2者協議は、労使が互いに聞かれたくない話をするための仕組みなので、公開すれば2者に限る意味がなくなる。全面公開するには、協議の仕方そのものをあらためる必要がある。
ただ、詰めの議論での発言は引き上げ額に直結する可能性があり、どの委員が何を言ったかが分かれば、それを不満に思う人から非難される恐れがある。厚労省幹部は「非公開は参加者を守る意味もある。全面公開したら委員のなり手がいなくなる」と話す・・・

公開する県が増えてきたのは良いことですが、それは問題の解決にはなりません。このような重要なことを、審議会が決めていることがおかしいのです。国会や県議会でも、審議のしようがありません。内閣なり県知事なり、政治が責任を持って決めるべきことです。「最低賃金千円に思う

夏休み学童でお昼を出せれば

2023年9月4日   岡本全勝

8月18日の朝日新聞「夏休み学童、お昼を出せれば… 保護者負担軽減へ自治体模索」から。

夏休みも終盤。放課後児童クラブ(学童保育)などに子どもを預ける保護者の中には、毎日の弁当づくりに悩んだ人も多いのでは。負担軽減のため昼食を提供する動きが広がる一方、要望があってもすぐには導入できない施設もあります。工夫を凝らし、子どもに食事を提供する全国の事例を探りました。

東京都三鷹市では、今年から市内すべての公設学童保育で、希望者に弁当が提供されるようになった。小学2年の子どもを通わせる女性(45)は「昨年は毎朝5時半に起きて弁当をつくり、苦行のようだった。つくらなくていい解放感がある」と話す。女性の子どもの学童保育では、弁当は1食550円。野菜が多く入っており、子どもも喜んで食べている。
今年から実験的に弁当を提供する自治体もある。仙台市では市内に112カ所ある公設の学童保育のうち4カ所で、夏休み中に弁当を提供するモデル事業を実施している。弁当は市内の障害者就労支援事業所がつくり、1食480円(大盛り500円)で、保護者がネットで事前に注文と決済をする。
東京都品川区も今月3日から試行的に、「すまいるスクール」1カ所で仕出し弁当を注文できるようになった。すまいるスクールは学童保育と放課後子ども教室を一体運営する区の事業で、放課後や夏休みなどに親の就労に関係なくすべての児童に学校施設を使って居場所を提供する。

こども家庭庁は6月末、夏休みなど長期休み中の学童保育における食事提供について、全国1633自治体を対象とした調査結果を発表した。5月1日時点の調査によると、状況を把握している995自治体にある1万3097カ所のうち、22・8%にあたる2990カ所が児童に昼食を提供していた。
提供方法について複数回答で尋ねたところ、「施設が外部から手配」が約6割を占め、「施設内で調理」は2割弱、「保護者会などが外部から手配」が1割強だった。同庁によると、自治体からは「食物アレルギーの児童もいるため一律の食事提供は難しい」といった声があがっているという。

ども家庭庁は長期休み中の食事提供について、地域の実情に応じた昼食提供を呼びかけている。担当者は「弁当を子どもにつくりたいという親もいれば、弁当づくりを負担に感じる親もいる。選択肢を用意して選べるようにできればいい」と話す。
7月には課題解決のヒントになるように、学校給食センターを活用した取り組みなど、全国の六つの事例をまとめ、各自治体に周知した。
その一つが島根県益田市にある公設民営の学童保育「どんぐり児童クラブ」だ。運営するのは社会福祉法人「暁ほほえみ福祉会」で、同法人が運営する認定こども園でつくったおかずを、長期休みや土曜日は学童保育を利用するすべての子どもに1食200円で提供しているという。
同法人理事長の山根崇徳さんは「こども園の給食は地元の野菜を使った和食中心のメニュー。学童の子どもにも安心安全なものを提供したい」と話す。「ごはんとみそ汁くらいは自分でつくれる子になってほしい」という願いのもと、ごはんと汁物は施設内で子どもとスタッフが一緒に調理しているという。

親から連鎖するスポーツやボランティア

2023年9月2日   岡本全勝

8月17日の朝日新聞夕刊に、「体験「格差」、親から連鎖 スポーツやボランティア、年収だけでなく」が載っていました。

・・・音楽やスポーツ、美術鑑賞などの体験活動に参加していない子どもの保護者もまた、幼少期にそうした経験が少なかったことが、公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン(CFC、東京)の調査で分かった。世代間で「体験格差」が連鎖している実態が浮かび上がった。

調査は昨年10月、インターネット上で行い、小学1~6年の子どもがいる世帯から2097件の回答を得た。スポーツやピアノなどの習い事や、キャンプやボランティア、観劇といった単発での体験などをまとめて、学校以外の時間に行う「体験活動」と定義した。
世帯年収で比べると、年収300万円未満の家庭の子どもは、3人に1人が直近1年で体験活動を何もしていなかった。年収600万円以上の世帯では約10人に1人だった。

低所得世帯の中でも、「親の経験の有無」で大きな差があった。世帯年収300万円未満で、保護者が小学生の頃に体験活動に参加していなかった家庭では、直近1年以内に体験活動がなかった子どもの割合は58・1%にのぼった。保護者に体験活動の経験があった家庭では、17・4%にとどまった。
世帯年収と保護者の幼少期の体験活動についても調べた。小学生の頃に体験活動をしていない保護者の割合は、年収が高くなるほど少なかった・・・

これは、私の体験からも、実感します。

子ども医療費の無償化の効果

2023年8月31日   岡本全勝

8月11日の日経新聞オピニオン欄、渡辺安虎・東京大教授の「データが語る子育て支援のワナ」から。

・・・子育て支援策のうち、この25年ほどで一気に広がったのが子ども医療費の無償化だ。一定年齢までの子どもについて、健康保険でカバーされない2割や3割の自己負担分を市区町村や都道府県が負担し、実質無償で医療や薬を受け取れる政策である。
子ども医療費の無償化は国ではなく自治体レベルで行われてきた。当初はごく一部の市区町村で就学前までの医療費が無償化されていたが、この20年ほどで多くの自治体に広がった。2021年時点で半数弱の自治体が高校生まで、残りの半数弱も中学生まで無償化されている。就学前までのみ無償化の自治体は非常に少なく、助成対象の年齢の引き上げが続いている。

この政策はどのような効果をもたらしたのだろうか。実は無償化政策のデータに基づく効果検証を、政府はこれまで実施していない。
東大の飯塚敏晃教授と重岡仁教授は、市区町村レベルでの無償化の状況の推移データを作成した上で、患者レベルの治療の経過がわかるレセプト(診療報酬明細書)データと結合して政策効果を推計する論文を発表している。
結果は予想される通り、子どもにかかる医療費が増加していた。さらに健康な子供の受診回数が増え、不要な抗生物質の処方や、緊急性が低いのに救急外来を利用する「コンビニ受診」も増えていた。他方、無償化の効果については、死亡率や入院確率に変化はなく、成長後の健康状態にも影響がなかった。

つまり医療費の無償化は子どもの健康状態を特段改善しないにもかかわらず、過剰な医療費支出を生み出しているわけだ。将来的な財政負担を増やす非効率な政策はどのように広がったのだろうか。
重岡氏と筆者との共同研究からは、この政策が自治体の選挙を通じて広がってきたことが判明した。さらに単に選挙のタイミングで広がるのではなく、周囲の市区町村より無償化の対象年齢が低い選挙の場合に広がっていた。
首長が選挙への影響を恐れて周囲の市区町村に追いつこうとし、非効率な政策が地理的にどんどん広がる構図が読み取れる。前回選挙で対抗馬がいたり、首長が多選であったりする場合に特にその傾向が強い。

より大きな問題は、このような分析を政府が行っていないことだ。異次元の少子化対策は新たな挑戦であり、間違いや失敗が生ずることは避けられない。であれば、事業費の0.1%でよいのでデータに基づく政策改善のための予算を確保するなど、政府が改善を進められる体制を整えることが重要だろう・・・

傷ついた心を支える、苦手な日本

2023年8月30日   岡本全勝

8月10日の朝日新聞オピニオン欄「心のケア、苦手な日本」から。詳しくは本文をお読みください。

心のかたちは、世界広しといえども同じ。でも、日本社会で心を支え合うのは、とても難しい――。国内外の紛争地や被災地で、傷ついた心のケアを約30年間にわたって続けてきた、精神科医の桑山紀彦さんがたどり着いた結論だ。「トラウマは人生を変える資源」とも説く桑山さんに聞いた。なぜ日本では、心を支えにくいのか。

――そもそも、トラウマとは何ですか。
「トラウマとは、いわば凍りついた記憶と感情です。心に刻印されたそれは、決して消え去ることはありません。何度もよみがえり、そのたびに苦しくなる。時間が経てば軽くなるものでもありません」
「ただ、私は、トラウマは『資源』だと考えています。トラウマはバネになる。人生を変える起点にできる、ということです。そのために大切なのは、つらい記憶をなかったことにしないことです」

――トラウマに向き合うには、専門家の力が欠かせないのでしょうか。
「受けたトラウマが非常に強烈なものだったり、適切な対処がされずに悪化したりしてしまえば、もちろん精神科医や臨床心理士など専門家の力を借りる必要があります。でも、私の体感では、そういうケースは全体の15%ほど。残りの85%は、社会のなかで癒やせる。周囲の力を借りることで、傷と向き合えるようになります。文化や言語が違っても、『心の形』や回復の過程は、世界中どこでも同じです」
「ただ、いろんな国で活動してきて唯一、心のケアが難しいと感じた国があります」

――どこですか。
「日本です」
「11年の東日本大震災の時を例に、お話しします。震災の3カ月後、被災地の学校に招かれてPSSのプログラムをやろうとしたのですが、難しかった。教員のみなさんから、『子どもたちをあんなおそろしい経験と向き合わせるなんて、ありえない』『子どもが不安定になったら、どう責任をとればいいんだ』といった、激しい反発が出ました」
「彼らを責めたいわけではありません。こういう反応が起こるのは、日本の社会がずっと、トラウマを『触れてはいけないもの』として扱ってきたからでしょう。結果的には、場所を学校から避難所に変えることで、プログラムは無事に実施できたのですが」

――「心の形」には国による違いはないのに、日本が向き合えないのは、なぜでしょうか。
「トラウマから回復するステップは原因が紛争でも自然災害でも同じです。ただ、うまくいくかどうかに差が出るのが、先ほどお話しした『社会との再結合』です」
「日本では、心に傷を負った経験が『恥ずかしいこと』だと捉えられがちです。本人も表明を避けますし、周囲も『触れてはだめだ』という態度を取る。例えば、『胃潰瘍(かいよう)で体調が悪い』と言うのと、『トラウマで苦しんでいる』と言うのとでは、社会からの受け止めが大きく違います」

――日本以外の国でも、違うのではないですか。
「こう説明しましょう。日本社会では、『心に傷がないのが良いことだ』という意識と、『みんながそうあるべきだ』という意識がセットになっている。トラウマは本来的にマイノリティーの体験ですが、どんな人でも抱える可能性があります。にもかかわらず、日本では『マジョリティーでなければまともじゃない、恥ずかしい』という意識が、強く働いているように思います」