平成15年12月9日に、小泉総理が、イラク復興人道支援活動のため、自衛隊と文民を派遣することを決断されました。私は、歴史に残る政治決断だと思います。
第10章で、政治のあり方を議論しました。そして、日本は、この50年間「政治をしなくても済んだ」(p307)と述べました。その際に代表例として出したのが、国際社会での貢献と、国内では税負担の増です(p299)。
そのうち、国際社会でのありようについては、憲法の『われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ』『われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって・・』を引用して、それについて具体的な努力をしてこなかったのではないかと述べました(p306)。
今回の決断は、具体的な(お金だけでない)国際貢献だと考えます。すると、今回の決断は、日本のあり方としては、日米安保条約・日中国交回復・PKO参加などに続く、あるいはそれを超える大きな決断でしょう。
これらを政治決断・リーダーシップと評価する(そのほかの多くの選択を決断と評価しない)のは、次のような理由です。それは、
①国民の意見が分かれている事項を決めることであるかどうか、
②その選択には合わせて「負担」を伴うことであるかどうか
ということです。
ここで私は、国民に異論がないことを決めることは、政治決断・リーダーシップとは呼んでいません。また、誰もが「痛まない」選択は、決断とは呼んでいません。
総理は記者会見で「私はイラク復興人道支援に対して多くの国民からも不安なり、あるいは自衛隊を派遣することに対して反対の意見があることは承知している」「現在、イラクの情勢が厳しい、必ずしも安全といえない状況だということは十分認識している」と述べておられます。今回の決断は、まさに私の二つの基準に当たります(総理発言は、日本経済新聞によります)。
ただし、今回の判断が「正しかったか、そうでなかったか」という評価は、別の基準で考えなければならないでしょう。また、政治的には、タイミングや発表の仕方も、評価の対象となります。
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行政
政治の役割と評価、特に争点の設定とその評価
(「新地方自治入門」p297)について、
2003年11月9日に投票が行われた衆議院選挙では、「マニフェスト」が大きく取り上げられました。私は、今回の選挙は、後世「マニフェスト選挙」と呼ばれるものになると考えています。
「今回、有権者がマニフェストによって投票したか」「マニフェスト選挙は2大政党制を進めたか」については、今後明らかにされるでしょう。私が言う「マニフェスト選挙」は、このような「その時点もの」を指してはいません。
私が今回の選挙を「マニフェスト選挙」というのは、今回のマニフェスト、特に与党のものが今後の政治を「縛り」、そしてそのことが日本の政治を変えると考えているからです。
躍進はしましたが負けた民主党は、マニフェストを実行する必要はありません(できません)。しかし、勝った与党は、約束を実行しなければなりません。そして、野党は、与党の実績を追求します。
その中でも注目されるのは、「三位一体」です。これは、時期と量が明示されています。しかも、「3年間で4兆円」というと、多くの人は初年度にある程度の成果を期待するでしょう。そして、このマニフェストは次回の総選挙はもちろん、来年7月に行われる参議院選挙が「中間試験」になると考えられます。
私が著書で述べた「争点の設定と評価」に、新しい時代が来ると期待しています。
過去の資料
その後、放置してある(加筆してない)ので、「最近の資料」でなく。「過去の資料」になっています。すみません。
1 三位一体改革など
(1)2001.6地方分権推進委員会最終報告
神野直彦東大教授が、2003年3月27日に、地方制度調査会に提出された、地方税財政改革の試案です。
2 地方制度調査会
(1)西尾私案
西尾勝東大名誉教授が、2002年11月1日に、地方制度調査会に提出された、今後の基礎的自治体のあり方に関する私案です。
3 地方財政計画・地方財政対策
平成16年度地方財政
(1)地方制度調査会意見
(2)地方財政審議会意見
(3)16年度地方財政対策等
平成15年度地方財政
(3)平成15年度地方財政計画
4 最近の地方交付税の状況(算定と結果)
(1)公表資料: 交付税課の資料
(2)私の論文
①「平成13年度地方交付税制度の改正について」
月刊『地方財政』2001年4月号
②「平成13年度普通交付税の算定結果等」
『地方財政』2001年8月号
③「平成14年度地方交付税制度の改正について」
『地方財政』2002年4月号
④「平成14年度普通交付税の算定結果等」
『地方財政』2002年8月号
『地方財政』2003年4月号
⑥「平成15年度普通交付税の算定結果等」
『地方財政』2003年8月号
地方制度調査会2003.5.23意見概要
平成15年5月23日 第27次地方制度調査会
「地方税財政のあり方についての意見-地方分権推進のための三位一体改革の進め方について-」の概要
Ⅰ 経緯
○ 平成13年11月19日に内閣総理大臣から「社会経済情勢の変化に対応した地方行財政制度の構造改革」について諮問。
○ 平成14年7月1日の総会で5点の調査審議事項が決定。そのうちの一つが「地方税財政のあり方」。
○ 地方分権改革の残された最大の課題の一つは、地方税財政の問題。
○ 一方、政府においては、平成14年6月25日に基本方針2002を閣議決定。このなかで、三位一体の改革の検討と改革案を1年以内を目途にとりまとめることとされており、その検討作業も大詰め。
○ そのため、地方制度調査会としても、この三位一体の改革にしぼって、地方分権の推進の基本に立ち返り、その考え方を整理し、今回、意見として提出。
○ 三位一体の改革が、地方分権推進の流れに沿って実現することを強く期待。
Ⅱ 内容
1 地方財政の現状と課題
○ 我が国の内政を取り巻く環境は大きく変貌してきており、今後は、新たな課題に迅速・的確に対応できるよう、国と地方の関係は地方分権型の新しい行政システムへ移行していくことが必要。
○ 三位一体の改革の具体化は、地方分権時代に相応しい地方税財政基盤の確立という目的を基本に据えて進めていくことが必要。
○ 現下の地方財政は、非常事態ともいうべき厳しい状況。このため国・地方を通ずる徹底した行財政の簡素・効率化を進め、公共サービスと国民負担のバランスの再検討などを議論していくことも必要。
2 三位一体の改革の推進
(1)基本的な考え方
○ 三位一体の改革は、地方分権の理念を踏まえ、歳出面で国の関与の廃止・縮減により地方の自由度を高めるとともに、歳入面では地方税のウエイトを高めることを基本とすべき。その際、税源移譲・地方交付税の見直し・国庫補助負担金の廃止縮減等の改革を同時併行して一体のものとして相互にバランスを図りながら進めていくことが重要。
○ 具体的には、国庫補助負担金を廃止・縮減した上で、その財源を地方に移譲するとともに、地方交付税の一部も国庫補助負担金の廃止・縮減による移譲額とのバランスを考慮しながら、これを地方税へ振り替えることを基本的な方向とすべき。
○ これにより自立的な財政運営を営むことができる地方公共団体を増加させることを目指す。
(2)税源移譲を含む税源配分の見直し
○ 税源移譲を含む国と地方の税源配分の見直しに当たっては、応益性や負担分任性という地方税の性格に十分留意しつつ、税源の偏在性が少なく、税収の安定性を備えた地方税体系を構築する必要。
○ 個人住民税の拡充・比例税率化、地方消費税の拡充などを中心に進めるべき。
○ こうした取組みを進めることにより、租税総額に占める地方税のウエイトを高め、国税と地方税の税源配分が1:1となることを目指すべき。
○ 地方公共団体が、課税自主権をさらに活用しやすくなるような方策を検討する必要。なお、課税自主権の活用で地方の税財政基盤の拡充を図ることには限界。
(3)地方交付税の改革
○ 国が地方公共団体に対して、仕事の義務付け又は実質的に地域格差を容認しないことを前提に仕事を委ねる仕組みが存続している限りにおいては、地方交付税を通じた財源保障は必要不可欠。
○ 税源移譲に伴う地方公共団体間の財政力格差の拡大には各種方策を検討し、対応。なお残る財政力格差に対処するためには、財源調整・財源保障機能を一体として果たす地方交付税の役割は重要。
○ 水平的財政調整制度については、地方税の基本的性格に関わる等根本的な問題があり、その実現は困難。
○ 交付税の総額については、国庫補助負担金の廃止・縮減、税源移譲規模等に対応し、バランスを考慮しながら、見直し。さらに「改革と展望」の期間中には、地方財政計画の歳出を中期的な目標の下に計画的に抑制し、交付税所要額を抑制。
○ 地方交付税の算定方法については、地方の自主的・自立的・効率的な財政運営を促す方向で見直し。事業費補正・段階補正の見直しを引き続き実施。
(4)国庫補助負担金の廃止・縮減
○ これまでの閣議決定等に従い、少なくとも「改革と展望」の期間中 に数兆円規模の削減を目指すべき。
○ 国庫補助負担金の削減方針は、これまでの地方分権論議や各種閣議決定等において、具体的に示されているところであるが、地方制度調査会としても、これらを集約した基準を具体的に提示。
○ なお、三位一体の改革の中で、国庫補助負担金の廃止・縮減後、引き続き事務事業が存続するものについては、税源移譲等により所要の財源措置が講じられることが必要。単なる地方への負担転嫁であってはならない。
神野試案
神野直彦東大教授が、2003年3月27日に、地方制度調査会に提出された地方税財政改革の試案です。
分権型社会における地方税財政(メモ)
― 三位一体改革の検討試案 ―
平成15年3月27日
東京大学大学院経済学研究科教授
神 野 直 彦
1 三位一体改革の基本的な考え方
1-1. 地方税財政改革の基本方針
(1)「ゆとりと豊かさの実感できる」社会を実現するために、地方分権を推進しようとすれば、行政面ばかりでなく財政面でも、地方自治体が住民の意志に基づいて自己決定できる財政制度を確立しなければならない。
(2)国民の将来不安を解消し、新たな経済活動にチャレンジできるようにするために、対人社会サービスを中心に、地方自治体の提供する公共サービスへのニーズが高まっているが、そうしたニーズに対応して有効に効率的に機能する地方自治体の財政を確立する必要がある。
(3)地域社会のニーズに有効に対応する公共サービスを供給するには、遠い政府が決定するのではなく、身近な政府(地方自治体)が住民の意志決定に基づく公共サービスが供給できるような地方自治体の財政が必要である。
(4)そのためには、地方自治体に割り当てられた行政任務が確実に遂行できるように、地方税の課税権が設定されていなければならない。
(5)地方自治体に配分される税源あるいは課税権が拡大することによって、地方自治体が自立すればするほど、地方自治体間の相互理解・協力のもとに、一定レベルの行政水準を保障しあう財政調整が有効に機能するようにしていかなければならない。
(6)住民に身近な公共サービスを提供するという地方自治体の本来の任務を、効率的に遂行できるようにするためには、本来、国の任務である減税や公共投資等の景気対策の影響を、地方自治体の財政が受けることのないようにすることが必要である。
1-2.三位一体改革の具体的な進め方
1-2-1. 基本的シナリオ
(1)地方自治体が住民意志に基づいて、地方自治体の財政を自己決定できるように、地方の歳出規模と地方税収との乖離を縮小し、住民の受益と負担の対応関係を明確化するため、地方税源を充実強化する改革が、三位一体改革の軸となるべきである。
(2)地方自治体が住民ニーズに対応した公共サービスを供給できるように、実質的な政策決定の自由を与えるため、歳出面で国庫補助負担金の廃止・縮減、事務事業への義務付け・枠付けの見直しを行うとともに、歳入面では国庫補助負担金の廃止・縮減により地方歳入に占める一般財源の割合を高めるべきである。
(3)一般財源の割合を高めるに際し、受益と負担の明確化を図り、地方自治体の自己決定権を強化するため、地方税収入の割合を高め、地方交付税への依存度を低下させるべきである。
(4)このような改革は、税源移譲による税源配分の抜本的な見直しを軸としながら、国庫補助負担金の廃止・縮減、地方交付税制度の改革を相互に有機的に関連付けて、三位一体で行われる必要がある。
1-2-2. 機軸としての税源配分の抜本的な見直しの基本方針
(1)国民さらには地域住民の自己決定権を強化するため、国民の少なくとも半分以上が、地方交付税に依存しない基礎的自治体で生活できるように、税源移譲を実施すべきである(市区町村ベースで、不交付団体に我が国人口の50%程度が居住することを目標-現状の不交付団体居住人口は20%弱)。
(2)税源移譲を実施する際には、受益と負担の明確化を図るという趣旨から、市町村への税源移譲に重点を置くべきであり、少なくとも、政令指定都市や中核市、特例市といった拠点的な都市の相当部分が不交付団体となることを目指すべきである。
2.地方税源充実のための税源配分の抜本的な見直し
2-1.税源配分の基本的な考え方
(1)地方税は応益原則に基づく租税を中心に構成し、応能的な累進的負担を求める租税は、国税にすることを原則とすべきである。
(2)地方自治体が地域社会に公共サービスを提供する財源となる地方税は、その地方自治体で選挙権をもつものが負担する租税と、地方自治体が提供するサービスの受益者が負担する租税とで構成されるべきである。
(3)地方税源の充実は、基幹的税目の再配分を基本として検討すべきである。独自課税の創設や課税自主権の拡大による地方税源の充実は、補助的役割にとどめるべきである。
(4)税源の偏在性が少なく、税収の安定性を備えた地方税体系を構築する観点から、地域間の格差が小さく、景気の変動による税収への影響が小さい租税は、地方税にすべきである。
(5)地方税の課税ベースに相応しい税源であるが、偏在が大きく地方税にできない租税を、次善の策として、地方交付税財源にする場合には、地方自治体共同の地方税源であることを法律上、明確にすべきである。
(6)地方自治体に割り当てられる行政任務が高まっていくことに対応して、所得、消費、資産のバランスのとれた地方税源により、地方税収入を確保する必要があるため、基幹税目で国税と課税ベースを共有せざるをえない。そうだとすれば、国税と地方税の税源配分を適正化しつつ、課税ベースを共有する国税と地方税との円滑な課税調整(taxcoordination)を実施しようとすると、地方税の標準税率制度は、基本的に維持せざるをえない。
もちろん、地方分権を推進する観点から、一定の標準的な行政サービスが標準的な税負担で受けられる地方行財政制度を、どの程度維持していくのかについて考慮しつつ、標準税率制度の在り方を論議することや、税目ごとに標準税率制度の意義、果たすべき役割に関して検討することも必要である。
2-2.税源移譲の具体的シナリオ
2-2-1.個人所得課税の税源移譲
(1)地方自治体の提供する公共サービスが、福祉・教育などの相互扶助的対人社会サービスの供給に、重点をシフトしていくことを考えれば、累進税率をとっている個人住民税を比例税率として、所得税から個人住民税への税源移譲を行うべきである。
7対3の割合とされてきた国と地方の個人所得課税の配分割合は、国と地方自治体に配分されている行政任務を考えると、地方所得課税のウェートを高めて4対6程度とすることが適切であり、少なくとも5対5とすべきである。
※ もちろん、個人住民税への比例税率の導入に際しては、所得税非課税世帯等低所得者層の税負担が増加することのないよう、適切な負担軽減措置を講ずる。
(2)相互扶助的対人社会サービスの受益を、地域住民が相互扶助的に公平に負担を分かちあう観点から、各種控除を廃止し、個人住民税の課税ベースの拡大を図るべきである。
(3)個人所得課税の累進部分は、現金給付を中心とした所得再配分を任務とする国に配分して国税とするが、生活保護等の所得再配分に地方自治体も一定の負担をしており、累進所得課税の一定割合を地方共同税として、地方交付税対象税目とする制度を維持すべきである。
(4)税源移譲により、地方交付税に依存しない基礎的自治体で、より多くの国民が生活できるように、所得税から個人住民税への税源移譲は、国民に身近な基礎的自治体である市区町村へ傾斜配分すべきである。
もちろん、個人所得課税増税の際には、住民税への傾斜配分が検討されるべきである。
2-2-2 地方消費税
○ 消費型付加価値税も、相互扶助的な対人社会サービスの財源に適した税源であることから、国と地方の行政任務に対応して配分し直すことが必要である。そうした観点からすれば、消費税と地方消費税の比率は、4対6程度が適切であり、少なくとも、5対5とすべきである。
2-2-3 個別間接税
○ 地域経済の動向に関連が深い個別間接税や、地方自治体間で偏在の少ない個別間接税は、税財源移譲の対象とすべきである。
2-2-4 相続税
○ 相続税の課税対象である相続財産は、被相続者が地方自治体の行政サービスを享受した結果と考えられるので、相続税の遺産税化を図りつつ、地方税として税源移譲をするか、その一部の地方譲与税化を図るべきである。税源移譲や譲与税化が実現できない場合でも、少なくとも、相続税を地方交付税の対象税目とすることを検討すべきである。
2-3 税源移譲以外の地方税の見直し
(1)世界的にみても固定資産税は、地方自治体の財源として、最も普遍的な税源であり、その継続的、安定的確保を図るべきである。
(2)法人事業税については、法人企業も地方自治体の公共サービスからの受益に応じた負担をする観点から、応益課税という性格を明確化して、負担の公平を実現するとともに、税収の安定化を図り、税収の偏在を是正するため、外形標準課税が導入されるべきである。
(3)環境行政の多くが地方自治体の手によって実施されることから、環境課税の導入の検討に当たっては、まず地方環境課税の導入を検討すべきである。
3 地方財政調整制度の改革
3-1.税財源配分と関連付けた地方交付税制度の改革
(1) 地方交付税対象税目の対象部分が、地方自治体間の相互理解・協力に基づく地方共同税であることを法律上明確にすることにより、実質的な水平的財政調整制度であることを明確化すべきである。
○ このため、地方交付税特別会計に地方交付税の財源を、国税収納整理資金から直入する制度を導入すべきである。
○ 自立した地方自治体間の相互理解・協力に基づいて財政調整が実施されているという趣旨からすれば、地方交付税の配分に関して、地方自治体の意志を反映させる仕組みを強化すべきである。
※ なお、地方自治体間で直接財源を移転する水平調整は、日本の地方自治体の団体数を考えても不可能である(団体数で十数の単位までが限界)。
(2)税源配分の抜本的な見直しに合わせて、課税ベースとしては地方税源に相応しいが、税源の偏在が大きい租税を地方交付税の対象税目とするという考え方から、地方交付税の対象税目や地方交付税総額の決定方法を検討すべきである。
○ 本来、地方税で地方行政の任務に対応した財源を確保することが望ましいが、地方自治体に多くの任務が割り当てられることを考えれば、偏在性のある税も地方交付税対象税目として地方共同税とせざるをえない。従って、地方税と地方交付税の合計額と国税の比率を、国と地方自治体の行政任務に対応させるべきである。
○ 地方交付税が地方共同税と位置付けられることを踏まえ、地方交付税財源は、現在の特定税目の一定割合を法定する方法や特定税目の全部を対象とする等、地方共同税として明示的なルールによって決定される仕組みを基本とすることが必要である。
○ 地方税、地方交付税等の一般財源が、標準的な地方自治体に付与された行政任務を合理的に執行できる水準で確保されていることを、国民が客観的に確認できる仕組みが必要である。
また、大幅な財源不足が続いていることから、単年度ごとに財源を確保する措置が講じられているが、地方自治体の自主性・自立性を強化する観点から、中期的、制度的、安定的に財源を保障する本来の方式に移行することを検討すべきである。
○ 税源移譲の具体的シナリオで述べたとおり、地方交付税の対象税目について、国税・地方税の税源配分の抜本的な見直しに合わせて検討すべきである。
3-2.財源保障機能などの問題について
(1)地方自治体の事務事業を国が義務付けるのであれば、その財源は国が保障しなければならない。
(2)義務付けに関わらず、国は地方自治体を国民国家として統合していくため、地方自治体が標準的な行政水準を確保するための財源保障を行う中央責任(Central responsibility)を有する。
(参考)ヨーロッパ地方自治憲章
第9条第1項 地方自治体は、国家の経済政策の範囲内において、かつ自らその権限の範囲内において、自由に使用することのできる適切かつ固有の財源を付与されなければならない。
第2項 地方自治体の財源は、憲法及び法律によって付与された責務に相応するものでなければならない。
第5項 財政力の弱い地方自治体を保護するため、財政収入及び財政需要の不均衡による影響を是正することを目的とした財政調整制度又はこれに準ずる仕組みを設けるものとする。ただし、これは、地方自治体が自己の権限の範囲において行使する自主性を損なうようなものであってはならない。
(3)地方自治体の自主的・主体的な財政運営を促す方向で、地方交付税の算定方法を見直すべきである。
○ 事業費補正については、既に実施されている見直しの影響を見定めながら、検討していくべきである。
○ 段階的な見直しが実施されている段階補正については、その見直しを継続すべきである。
○ 地方税の課税を強化している地方自治体は、課税の強化を必要とする程に財政需要が高いと、住民が判断していると考えられるので、多くの地方交付税の配分を受けられる仕組みを検討していくべきである。
(4)税源移譲に伴う地方税と地方交付税の割合に応じて、留保財源率の在り方について検討を行うべきである。
○ 現在の地方税と地方交付税の割合を考えると、地方自治体の自主性・自立性を強化する観点から、留保財源率の引上げは有効である。
○ しかし、税源移譲によって、地方税の割合が相当程度高まることを考慮に入れれば、これ以上の留保財源率の引上げを行うべきではなく、留保財源率の引下げ、税目に応じた留保財源率の設定等も検討されるべきである。
※ 課税強化の有無に関わらず、経済情勢によって地方税が伸張し、留保財源が増加することが多いことに、留意すべきである。
(5)税源移譲に伴って財政力格差が拡大するとしても、国庫補助負担金や地方譲与税などの配分の調整によって、対応することが可能であると考える。
4 国庫補助負担金制度の見直し
4-1.基本方針
(1)国庫補助負担金による国の地方自治体に対する関与を廃止・縮減し、歳入・歳出の両面で地方自治体の自由度を高める観点から、行政任務に対応して、税源移譲による税源配分を機軸とする三位一体改革を実施することを前提に、国庫補助負担金を抜本的に削減すべきである。
(2)シャウプ勧告に戻って、国庫負担金を削減の検討対象とすべきである。税源移譲による税源配分を機軸とする三位一体改革に当たっては、行政責任を明確化する観点からも、シャウプ勧告の考え方に再度、光をあてるべきである。
○ シャウプ勧告は、全額負担金(経費は全額国負担であって、施策は地方自治体が実施するもの)の廃止及び国による直接実施、一部負担金の廃止及び平衡交付金への編入を提示しており、この考え方に沿って、国庫負担金の削減にも踏み込むべきである。
(参考1)シャウプ勧告(抄)
第一に、経費は全額政府負担であって、施策は地方自治体によるところの、全額補助金はこれを廃止すべきである。このような場合はほとんどすべて、中央政府自身の官吏が自ら直接に施策を行うべきである。(中略)
第二に、一部補助金の総額はこれを削減さるべきである。(中略)補助金のうちのあるもの、政府負担金と呼ばれるものは、ある種の施策は、一部は国家的利益をもち、一部は地方的利益をもつものであるという理由に基くものである。すなわち、教育、自治体警察、その他周知の統治作用に対する財政的援助に補助金が交付されるのである。われわれはかかる行政活動に対する国家の援助は、後に述べる平衡交付金によって与えられるべきものと信ずる。(以下略)
(参考2)ヨーローパ地方自治憲章
第9条第7項
地方自治体に対する補助金又は交付金は、可能な限り、特定目的に限定されないものでなければならない。補助金又は交付金の交付は、地方自治体がその権限の範囲内において政策的な裁量権を行使する基本的自由を奪うようなものであってはならない。
4-2.個別具体のアプローチ
(1)義務教育費国庫負担金や保育所の保育費負担金などの相互扶助的対人社会サービス(生活保護関係等の現金給付に係るものは含まれない)に関する国庫補助負担金は、地方自治体が地域住民のニーズに沿った公共サービスを提供できるように、地方自治体の裁量権を拡大し、政策決定の自由度を増加させる観点から、一般財源化すべきである。
改革実施に当たっては、経過措置が必要なものは、段階的に一般財源化を図るとしても、実施時期を明示した道筋を示すべきであり、三位一体改革として、税源移譲による税源配分の抜本的な見直しと、整合をとりながら実施すべきである。
(2)公共事業関係については、地方自治体の自主性・自立性を強化するとともに、国と地方自治体間の行政責任明確化の原則に立って、国庫補助負担金、直轄事業負担金を原則廃止し、純粋の直轄事業と単独事業に明確に切り分けていくべきである。
(3)地方分権推進計画(閣議決定)、国と地方の基本方針(昨年末閣議報告)に沿って、奨励的補助金(地方分権推進計画で定められた例外とすべきものは除かれる)を中心に、国庫補助負担金の廃止・縮減の基準と各省庁ごとの数値目標を定め、一定期間内に抜本的な見直し(原則廃止、縮減)を図ることとし、このための具体的な計画を策定すべきである。
(4)特に、地方分権推進計画に定められているように、① 職員設置費に係るもの、② 法施行事務費に係るもの、③ 施設の運営費・設備整備費に係るものなど、地方自治体の事務として同化・定着したものに係る補助負担金その他零細なもの、低率補助に係るもの等については、速やかに一般財源化すべきである。
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