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行政-行政機構

霞ヶ関に緊張関係を持ち込む

「生活省をつくって、生活者保護を担わせる」と提案しました。この提案に対しては、業界を担当していたこれまでの省(事業省と名付けましょう)の方が知識が豊富なのに対し、生活省はそれだけの知識がないので、対等に戦うのは難しい、との批判があるでしょう。それは承知しています。しかし、対立する使命を担わせるには、組織を分けなければならないと思います。
今、霞ヶ関にあるこのような対立は、経産省対公正取引委員会、経産省対環境省でしょうか。違った角度では、分権推進の総務省対各省、構造改革についての経済財政諮問会議対各省や規制改革会議対各省などがあります。
省として分けるのが望ましいのですが、そこまで分けられないときは、同じ省にあっても、局や課を分けることがよいと思います。たびたび取り上げた医薬品については、厚労省のなかで医政局医薬安全局に分かれています。農水省に消費安全局があり、経済産業省に製品安全課などがあります(最近も、ガス湯沸かし器による事故が問題になっています)。そしてこれからは、消費者保護。生活者保護の政策分野が大きくなるべきなのです。それを担う組織を独立させることで、それがはっきり見えるのです。
生活省と事業省を対立させることについては、「今でも調整が困難な霞ヶ関に、さらに対立を持ち込むのか」との批判が出そうですが、これは必要な緊張関係だと思います。そして、国民の前にその対立を見せるのです。これまで、それを官僚同士で調整しようとしたから、問題解決が遅れたのです。
生活者保護だけでなく、構造改革についても、担当省をはっきりすべきでしょう。今は、経済財政諮問会議(それを助ける内閣府)や規制改革会議(それを助ける内閣府)が担当しています。これらの仕事を担う省を、はっきりと位置づけるのです。

省庁再編の軸

これから行政の使命は、これまでのような業界振興ではなく、生活者保護になるべきではないか、というのが私の考えです。そこで、省庁再編も、この哲学に沿って行えないか、と考えています。「生活省」をつくり、生活者保護を担うのです。
今、暮らしという観点で、内閣府にある組織が「暮らしの相談窓口」としてくくられています。クリックしてみてください。そこには、男女共同参画、配偶者暴力、消費生活、個人情報保護、NPO制度、公益通報、食の安全、インターネット上での違法・有害情報、交通事故被害、学校生活・友人関係等、社会生活における深刻な悩み、といった事項が並んでいます。
これらを見ると、これまでの官庁とは違ったイメージを、持たれるでしょう。道路を造ったり、農地を整備する仕事とは違った役割が、求められているのです。そして、一般の国民には、これらの方が切実なのです。
もちろん、各省にもそれぞれの分野で、業界でなく生活者・利用者側にたった施策、窓口があります。これらを軸に、生活省をつくれないかというアイデアです。地方団体には、すでに、生活部とか県民部、市民局があります。
次回に続く。

業界振興から生活者保護へ

私は、役割変化の方向の一つが、業界振興から生活者保護への転換だと思います。これまでの追いつき型行政・発展途上国行政では、業界を保護することで、各分野を振興しました。これは、工業・農業といった産業だけでなく、建設、運輸、金融、教育、医療といった分野もです。需要側でなく供給側を育成すること。この方法は、発展途上時代には効率が良かったです。しかし、その目的は達しました。多くの分野で、国が支援しなくても、民間は自ら活躍しています。独り立ちできるのです。
逆に、業界保護と消費者保護がぶつかった場合、官庁が業界寄りで、問題を大きくしました。公害問題はその典型です。水俣病でも、被害者救済が遅れました。最近では、薬害エイズの時の厚生省薬務局、不良債権問題の時の大蔵省銀行局、BSE牛問題時の農林水産省畜産局で、この問題がよく見えました。生活者や消費者より業界の利益を優先したと、批判されたのです。
そして、薬務局は解体再編、銀行局は大蔵省から分離、食の安全については内閣府に食品安全委員会を設置(食糧庁を廃止)しました。そこには、業界の振興と消費者の利益保護の2つの行政を、分離しようとする意図があるのです。もっとも、金融庁は、その2つが一緒の役所になりました。しかし、銀行などに対する業務停止命令を、たびたび発するようになりました。

行政の役割変化

官僚の役割と評価」を連載したので、関連する行政の役割変化について、ここでまとめておきます。
これからの行政のあり方を考える際に、これまでの行政と使命や役割がどう違うか、を踏まえておくことは重要です。私は、明治以来、行政の使命は、欧米に追いつき追い越すことだったと考えています。そして、先輩たちはそれに成功しました。行政サービスや社会資本整備だけでなく、産業や文化、暮らしにおいても成功しました。しかし、追いついたこと・成功したことで、目標は達成しました。これが、「新地方自治入門」の主張でした。では、これからの行政の役割は何か。これが、今日のテーマです。

省庁再々編

最近、省庁再編の議論が出ています。前回の再編経験者として、意見を求められることがあります。何度かこのHPでも書きましたが、ここで私の考えを整理しておきます。私は、もう一度再編をするなら、哲学が必要だと思っています。
(局の再編はカルタ取り)
今議論になっているような、担当業務・局を課題に従って再編することは、必要なことです。どんどんやればいいと思います。企業や地方団体は、しょっちゅうやっています。しかし、それはいわば並び替え、「カルタ取り」です。100ある局を、どう13省に組み替えるかでしかありません。前にも言ったように、家の間取りの変更です(「省庁改革の現場から」p192)。これは、省庁再編の軸とすると、第3番目です。
ただし、前回の再編は小さな政府を目指し、省庁の数を半減させました。今度新しい組織を作るとするなら、14番目の省=純増にするのかです。増やせばいい、となれば簡単ですが。小さな政府を目指すなら、この総数は守るべきでしょう。すると、新しい省をつくったら、代わりにどこかを減らさなければなりません。再編を提言する方には、「それは純増ですか」「省の総数を増やさないとしたら、どこを減らすのですか」と質問してください。
このような組み替えは、官僚に任せると現状維持か焼け太りになるので(自分の省が小さくなる案には反対します)、有識者の意見を聞いて、政治家が責任を持って、決断するしかないと思います。
(政治主導への対応)
では、第2番目は何でしょうか。それは、政治主導の強化に対応した組織改革だと思います。簡単には、内閣官房・内閣府のあり方検討でしょう。官邸を支える内閣官房・内閣府、そしてその機能を期待されながら効果が見えない総務省を含め、官邸を支える官僚機構をどうするかです。
内閣官房・内閣府には、この6年間、それなりに機能を発揮してきました。そのために、いろんな組織ができています。再チャレンジもそうですが。これからも、時代と社会の変化に対応するため、このような組織は次々と生まれるでしょう。しかし、それらをいくつもぶら下げたままでは、内閣官房・内閣府は、お化けのような組織になる恐れがあります。これらを順次、各府省に移植する必要があります。それが省庁再編につながるなら、それは意味があります。また、13省庁からの出向者で、臨時的な組織を生み続けるのか。これも課題です。新しい課題に対し、内閣として取り組む場合の、官僚機構・システムの問題です。
(霞ヶ関のあり方)
そして、第1番の軸は、霞ヶ関=省庁の仕事のあり方だと、私は考えています。何度か書いたように、この100年間、日本の行政は業界振興を仕事としてきました。それは、産業界・建設業・農林水産業だけでなく、教育業界なども含めてです。これからは業界振興でなく、そのルールを作ることと、消費者である国民の保護が、行政の主たる仕事だと考えています。また、民間にできることは民間に任せ、地方にできることは地方に任せればいいのです。発展途上国の行政から脱皮すること、これがたぶん、次の省庁再編の軸の一つになるのでしょう。また、それくらいでないと、省庁改革とは言えないと思います。私のいう哲学とは、このような意味です。