カテゴリーアーカイブ:社会の見方

報道の自由を規制する

2012年12月20日   岡本全勝

12月20日の朝日新聞が、イギリスでの「新聞報道を法規制するかどうか」の議論を伝えていました。イギリスの大衆紙が、殺害された少女の携帯電話の留守番メッセージを盗聴していた事件や、個人情報を金で入手する慣習、個人の医療情報を報道していることが問題になっています。
イギリスには、誤報やプライバシー侵害などの苦情を受け付け、是正を求めるメディア側の自主規制機関がありますが、中立性に欠けるとの批判もあります。
独立調査委員会が、「法律に基づく新聞監督機関の設立」を勧告しました。これが、報道や言論の自由を損なうとの批判を受けています。
報道の自由をどこまで認めるか。政治と憲法の大きな課題です。自由がなければ、自由主義や民主主義は機能しないでしょう。近代西洋国家が、自由と民主主義を手に入れる際に、言論と報道の自由は主要な人権の一つでした。
しかし、何を報道しても良い、報道するためなら何をしても良い、というわけではありません。わいせつな内容は規制され、プライバシーは守られるべきです。どこまでが自由か。最終的には、裁判所で判断されます。
それに至るまでに、個々の記者の良識に任せるのか、社の自主規制に委ねるのか、業界の自主規制で良いのか。政治学や憲法学で、もっと詳細な議論がなされるでしょう。
私がこの記事を読んで思い浮かべたのは、経済活動の自由です。自由主義市場経済が良いとしても、すべてを自由にしてはうまく機能しないことが実証されています。個人や企業の倫理に任せているだけでは、公正な商業・金融活動が行われないので、各種の規制が持ち込まれています。自由を守るためには、規制が必要なのです。

企業から生まれるリーダー

2012年12月3日   岡本全勝

産経新聞連載「The リーダー」12月3日「能書きよりも結果」から。
・・「よっしゃまかせとけ」的な政治のリーダーが何でも仕切る時代は終わり、多様な人材が社会をリードする時代になったと指摘するのは、東日本大震災の被災地で放課後学習や商店街再建などに取り組む東京・渋谷のNPO法人(特定非営利活動法人)「ETIC.(エティック)」代表の宮城治男(40)だ。
「大震災をきっかけに、政治や行政が万能でないことにみなが気がついた。国が大量に金を流しても、未来は見えない。その結果、政治と行政、企業、NPOの垣根が崩れ始めた」・・
・・経営学やリーダー論に詳しい東京理科大教授の伊丹敬之(67)は「閉塞感が広がる日本を変えられるリーダーは企業から生まれる」と説く。雇用を守り、攻めの投資をし、後継者を育てる。「こうした複雑な連立方程式を解く過程がリーダーを育てる」からだ。
・・宮城県気仙沼市と岩手県陸前高田市で、水産加工やわかめの生産を手がける「かわむら」社長の川村賢寿(63)は・・20あった加工場のうち17が被災したが、川村は「生きるか死ぬかの瀬戸際。イクラがとれる秋ザケに間に合わなければ再建の意味がない」と、復興計画に基づく正式な手続きを踏まずに半年で7工場を再開、270人の全従業員を再雇用した。
今年8月には、気仙沼の鹿折地区の水産加工17社の協同組合を設立。自社工場跡に仮設工場4棟を建て、規制で土地が手当てできない3社を支援した。
「本来なら国や自治体の役割だが、ただ震災前に戻るだけでは水産業の将来はない」と、共同施設でのコスト削減に加え、世界三大漁場といわれる三陸の「鹿折ブランド」で海外市場を狙い、大手商社も手を貸す・・
詳しくは原文をお読みください。

市場が公正に運用されるための、政府の役割と倫理

2012年12月1日   岡本全勝

11月28日の朝日新聞オピニオン欄「市場と政府と中央銀行」、ポール・ボルカー元アメリカ連邦準備制度理事会議長の発言から。
銀行から、投機的な活動を分離しようとしたボルカー・ルールが、まだ実施されていないことについて。
・・「(銀行が収益拡大のために自己資金で行う)自己勘定取引そのものが危険なものだ。それだけで金融危機が起きたわけではないが、危機の原因の一つだ。銀行は重要な公共サービスを行っているがゆえに世界中どこでも保護されている。規制されていると同時に、政府の安全網(セーフティーネット)の中に入っており、支援も受けている。
なので、本質的にはギャンブルである投機的な活動までも保護することは不適切だと考える。本来の銀行業務は、政府のセーフティーネットに入れつつ、投機的な業務はその外に置く。「機能を分けましょう」ということを言っている・・

ボルカー・ルールによって金融がリスクをとれなくなり、経済にマイナスの影響を与えないかという問に対して。
・・全くそうは思わない。これは、銀行の本来の業務とは何かという文化的、哲学的な問題と関連する。銀行は貸し出しを通じてリスクを取り、それによって社会に便益をもたらし、経済は成長する。だから銀行は政府から保護される。だが、投機が経済に重要なプラスの効果をもたらすと私は考えない。投機は続けていい。だが、それは銀行システムの外で行うことであり、政府の支援を受けるに値する活動ではない・・

銀行幹部の報酬が多すぎる状況を改善する方法について。
・・難しい問題だ。一昔前には、銀行界のみならず、法律家や会計士などにも、資産を預かっている顧客に対する責任や配慮、今とは異なる倫理観があったが、その復活に期待するのは夢なのだろうか・・簡単な答えはないが、報酬の問題はそうした倫理規範と深く結びついていると思う。大きな報酬をもらえるとなれば、倫理からはずれる誘惑も大きくなる・・

政府と市場の関係について。
・・私の考え方はやや古風なものだ。我々は、資本主義経済、競争がしっかりある状態を望んでいる。一方、政府には市場が公平に運営され、競争が確保されているか監督する役目がある。これはバランスの問題でもある。金融市場は、規制が少なすぎる状態になったが、過剰な規制もよくない。振り子のように振れる問題ではあるが、できる限り「中庸の道」を歩むべきだと思う・・

全頭検査の安全神話とコスト

2012年11月29日   岡本全勝

食品安全委員会が、「BSE(牛海綿状脳症)の検査を、これまで月齢20か月以下は不要としていたものを、30か月以下まで検査不要とする」決定をしました。専門家の研究の結果、BSEは若い牛では発生しないことが確認されたからです。
11月11日の毎日新聞オピニオン欄が、「牛全頭検査は必要か」として、有識者の見解を載せていました。吉川康弘千葉科学大学副学長の発言から。
・・私たちは多くの情報を得た。第1に、BSEの封じ込め対策として国際的に採用された「特定危険部位の食用及び飼料への利用禁止」は効果があった。その結果、BSEの発生件数が激減し、リスクが減少した・・
2002年1月に生まれた牛を最後に、BSEが陽性の牛は1頭も出ていない。対策が有効に働いたのは明らかだ・・
日本も「汚染が止まった」という認識に立ってリスク評価を改め、それを消費者に丁寧に説明すべきである・・

次に、牛の全頭検査です。「20か月以下の牛について検査は不要」と決めたのは平成17年です。ところが、国内では、自治体がこれらについても検査を続けています。全ての牛を検査しているのです。有路昌彦近畿大学准教授の発言から。
・・食品安全委員会の答申は、科学的な手順で厳密に分析されたものだ。日本の食肉市場はようやく、元の健全な状態に戻る足ががりを得たことになる。
ところが、科学的に月齢条件の正常化がなされたにもかかわらず、今なお「国産牛肉は全頭検査を行っているから安全だ」という考えがみられる。これは、検査に対する誤解が、国民の間に根強く残っていることの表れだ。
感染リスクの削減に直接的な効果があるのは、脳や脊髄など特定危険部位(SRM)の除去と飼料規制であって、検査ではない・・
国内では現在、危険部位の除去も飼料規制も十分に行われており、「全頭検査を行っているから安全」という論理に科学的根拠はない。にもかかわらず、そのことが国民に十分に伝わっていない。全頭検査で安全性が担保される、という「神話」が広がっているのだ。
背景には、大きく二つの要因があるように思われる。一つは、リスクに関する理解が十分でないことだ・・
全頭検査への「神話」が広がったもう一つの要因は、費用への感覚の欠如である。全頭検査にはこれまで、多めに見積もって1000億円近い経費がかかり、さらに数百億円の人件費がかかったと推定している・・費用は税金から支払われているため、消費者は負担の感覚を持ちにくい・・

食品安全委員会は「・・既に20か月齢以下の検査は不要とされているにもかかわらず、地方自治体において、消費者の不安を重く受け止めて全頭検査を実施し続けているのだとすれば、当委員会としても、引き続き、広く国民に対して科学的な情報を十分に提供する努力が必要と考えています」と述べています(Q&A問4)。

海外で身を守る

2012年11月26日   岡本全勝

11月11日の日経新聞「暴動・テロから身を守るには」。
喜多悦子・日本赤十字九州国際看護大学学長の発言から。
「海外で日本人が巻き込まれる事件や災害が続発しています。危機に対処する上での心構えは」という問に対して。
・・心配性であることだ。危険な経験はしないに越したことはない。ただ、危険を避け、起きた危機から迅速に脱出するには、ある種の敏感さが必要だ。動物的な感性と言ってもいい。平和な時代が長く続いた結果、今の日本人はそうした感性が鈍くなり、あまりに無防備になっている。海外では「事態は自分の願う方向にはいかないかも」と考える、ある種のネガティブ思考が必要だ。今の日本人は、逆に善意と楽観的見方でものを考えてしまいがちだ・・
小島俊郎・日立製作所リスク対策部長の発言から。
「企業にとっての海外でのリスク管理の要諦は何でしょうか」という問に対して。
・・いい意味で臆病であることではないか。臆病を表に出しては困るが、慎重に行動するようになるし、情報を集めるためにアンテナを高くできる・・
「あるべき体制は」という問には。
・・本社の危機管理組織は「トップに直結したシンプルな組織」が理想的だ。そうした体制なら、必要な情報が必要な人に必要なタイミングで届き、的確な対応がとれる。
一方で、危機管理で最初から満点を狙うのは非現実的だ。危機時には、顧客、従業員とその家族、株主、地域社会や行政など多様なステークホルダーが十分納得してくれる体制を築くことを目指したい。それができれば、結果的に完璧な危機対応ができなくても、関係者には「やむを得なかったな」と思ってもらえる。満点は取れなくても、合格点はとれる・・