カテゴリーアーカイブ:社会の見方

長谷川貴彦著『イギリス現代史』

2017年10月8日   岡本全勝

長谷川貴彦著『イギリス現代史』(2017年、岩波新書)が、勉強になりました。
かつて、近藤康史著『分解するイギリス―民主主義モデルの漂流』(2017年、ちくま新書)を紹介しました(2017年7月2日)。後者は、民主主義の母国イギリス政治の変容を分析した本です。前者は、第2次大戦後のイギリスを、首相と政党・その政策の変化によって説明した本です。
ただし、狭い政党政治の世界だけでなく、それを生みだした社会の変化、あるいはその政策が変えた社会を説明しています。戦後の福祉国家とケインズ政策から、サッチャー首相に代表される新自由主義、そしてその延長としてのブレア首相の「第三の道」。二大政党制の機能不全。

社会は、経済成長を続けつつも、アメリカの台頭と帝国の解体による栄光の低下、ポンドの価値の低下が続きます。イギリス病とサッチャリズム。製造業から金融情報業への転換。リーマン・ショック。上流階級と労働者という階級区分が、中間層の増加で薄くなり、他方でアンダークラスと呼ばれる漏れ落ちた白人層が生じ、製造業の衰退は活力のない地域を生みます。移民の増加も、社会を変えていきます。既成秩序に異議を申し立てる若者、パンクロック。スコットランド独立運動、北アイルランド問題。
社会の亀裂、地域の分裂。それを、政治がどのように扱っていくのか。やはり、イギリスは一つのお手本です。

イギリス社会の変化を分析した本としては、アンドリュー・ローゼン著「現代イギリス社会史、1950-2000」(2005年6月、岩波書店)を紹介しました。これも、伝統と秩序の国が大きく変化したことを、様々な分野から分析しています。

本書は、新書という制約の中で、というか新書という形の故に、わかりやすい時代区分と、鮮やかな切り口で、イギリス社会と政治の変化を説明してます。分厚い本より、この方がわかりやすいですよね。もちろん、大胆に特徴づけ分析するのは難しいことです。
戦後の日本社会、あるいはもう少し時期を絞って高度成長期以降の日本社会の変化を、簡潔に分析した本はありませんかね。社会がどのように変わったか、その際に経済や政治がどのように関与したかです。そこを、どのような角度から切り取るか。そこに、筆者の力量が示されます。

重力波

2017年10月7日   岡本全勝

昨日に続き、ノーベル賞の話を。2017年の物理学賞は、重力波を世界で初めて捉えることに貢献したアメリカの研究者が選ばれました。
先日、出版されたばかりの、高橋真理子著『重力波発見! 新しい天文学の扉を開く黄金のカギ』(2017年、新潮選書)を読んだところでした。

宇宙(大きい世界)や物質(小さい世界)がどうなっているのか、どうしてできたのか、知りたいですよね。また、人体はどうなっているのか、意識はどうしてできるのか。で、時々自然科学の本、といっても専門書でなく「読み物」を読みます。
この本も、朝日新聞記者が書かれたものなので、読みやすかったです。でも、「わかった!」とはなりません。古事記や日時計まで出てくるのです。う~ん。アインシュタインの相対性理論も、読む度に分かったような、分からないような・・・。時間と空間がゆがむと言われても、ぴんときません。

それより、どうして重力(引力)が働くのか。目に見えない「こびとさん」(粒子)が引っ張り合っていると思うのですが。重力子が発見され、私の目に見えたら、「なるほど」と納得するでしょう。

キレるコオロギとその社会復帰

2017年10月1日   岡本全勝

KDDI総合研究所の「季刊 Nextcom31号」に載っている、長尾隆司・金沢工業大学教授の「キレるコオロギの社会復帰」が興味深かったです。詳しくは、原文を読んでいただくとして。
集団で飼育したコオロギと隔離して育てたコオロギを闘わせると、隔離コオロギが圧倒的に強く、しかも透明なケースで隔離したコオロギは、ひたすら攻撃を続け、最後は相手をばらばらにして食べてしまうほど凶暴なのです。悲しいことに、透明なケース隔離コオロギは、相手がメスでも性行動ができず、殺してしまいます。
この隔離コオロギを、集団コオロギの中に入れると、数日後には攻撃性も収まり、性行動も正常にできるようになります。
仲間との触れあいを断たれた中で育つと、このようになるようです。そして、脳内ホルモンが影響しているようです。

先生は、この透明なケースで飼育した隔離コオロギを「インターネットコオロギ」と名づけておられます。この命名は的を射ています。完全に隔離されて育っているのではありません。つながっているけどつながっていない。インターネットでのつながりに似ています。
先生の研究内容は、「コオロギで探る人間の心」(athome教授対談)でも読むことができます。

民主主義と資本主義の関係

2017年9月30日   岡本全勝

9月25日の日経新聞オピニオン欄、マーティン・ウルフ(ファイナンシャルタイムズ、チーフ・エコノミクス・コメンテーター)の「民主主義 立て直すには」、電子版では「民主主義 危うい資本主義との“婚姻関係” 」から。
・・・民主主義が後退している。自由なグローバル経済への信認も低下している。民主主義と資本主義は本来、“婚姻関係”にあるが、何度も危険な状態に陥った。今も厳しい局面に見舞われている・・・
・・・民主国家の割合を国内総生産(GDP)に占める貿易額の比率と並べて比較することもできる(貿易額のGDP比は、人や資本の移動といった他のグローバル化指標とも強い相関性がある)。
歴史を見ると、民主化とグローバル化はほぼ相関関係にあることがわかる。要は19世紀の産業革命が政治革命をもたらし、独裁主義から民主主義への移行を促した。逆に、反グローバル化は反民主化と連動している。
これは当然だろう。米ハーバード大学のベンジャミン・フリードマン教授が主張するように、民主主義は豊かな時代に進展するが、貧困下では後退する。実際、1820年以降、世界の1人当たりの平均実収入は13倍に増え、高所得国ではそれを上回った。経済発展に伴い国民の教育が必要になり、国民を戦争に動員しようとすれば、政治的に多様な考え方を包摂することが求められた。
逆に金融危機は貧困や不安、そして怒りを引き起こした。民主主義には、勝者は敗者を破滅に追い込むために権力を行使することはないという勝者への信頼が欠かせない。しかし、負の感情はそうした信頼を消し去ってしまう。

民主主義と資本主義は関連が実証されているだけではない。民主国家では全ての人が政治の意思決定に加わり、資本主義の下では誰もが自由に市場を利用できることが前提になるという意味で、ともに平等の理念に基づいている。
だが大きな違いもある。民主政治には国民の連帯が必要だが、資本家たちは愛国主義には関心がない。民主主義では全ての市民に発言権があるはずだが、資本主義では富める者が最も大きな発言力を持つ。有権者はある程度の経済的安定を求めるが、資本主義には好不況の循環が付きものだ・・・
原文をお読みください。

フラリーマン

2017年9月26日   岡本全勝

「フラリーマン」って、ご存じですか。NHKが解説しています。仕事が終わっても、まっすぐ家に帰らない会社員です。「“フラリーマン” まっすぐ帰らない男たち」。詳しくは、原文をお読みください。
長時間労働は、個人と職場だけでなく、家庭、地域、日本社会に染みついた意識であり仕組みです。これを変えるには、巨額の公共投資は必要ありませんが、一種の革命が必要です。時間がかかるでしょう。
でも、クールビズも、あっという間に定着しました。人間の意識、習慣とは、そんなものです。