分解するイギリス

近藤康史著『分解するイギリス―民主主義モデルの漂流』(2017年、ちくま新書)が勉強になりました。
世界を驚かせた昨年6月の、イギリスのEU離脱国民投票。しかし、近藤先生は、これは突然起きたのではなく、以前から進んでいたイギリス民主主義の変質が表面化したものだと分析します。

かつて民主主義のモデルとされたイギリス。そこには、二大政党制、小選挙区制、一体性の強い政党、強い執政とリーダーシップ、集権国家がありました。そしてこれらがよく機能し、国内の政治対立を議会政治の中で処理してきたのです。対立する二大政党は、国民の意識を汲み取るとともに、合意により解決していきます。
日本も、お手本としてきました。1990年代に行われた政治改革は、まさに、小選挙区制、強い執政をつくるものでした。

ところが、いろいろな課題と局面で、この仕組みが機能しなくなりました。EUへの距離感、スコットランドの独立の動きなど。国民の意識が、左右の二大政党と違った形で分裂するのです。
EU離脱なども、保守党対労働党でなく、それぞれの党内に賛否が分かれます。二大政党の得票率は低下し、多党化が進みます。しかし、二大政党と小選挙区制は、さまざまな意見を汲み取ることができません。

次のような趣旨の記述もあります(p124)。
もはやイギリス国民は、階級や左右というイデオロギーの違いでは、投票する政党を決めていない。政党が提示する政策には大きな違いがなく、有権者は合意された政策目標について、どちらの党が効果的に達成するかが選択の基準になっている。
これを、ヴェイランス・モデルと呼ぶのだそうです。

確かに現在では、政党は、主要な政策について、大きな違いを打ち出すことができません。安全保障、福祉について、さほど違った政策は主張できません。福祉充実を訴えたら、その財源はどうするのか。増税抜きで高福祉は無理だと、国民は知っています。
しかし、そのジレンマや閉塞感が、国民を理性的でない判断にも追いやるのでしょう。
EU離脱やトランプ現象も、理性で考える有識者の判断と、感情で投票した多くの国民との違いが、出てきたものだと思います。

これまで安定した民主主義のお手本として、イギリス政治はありました。それがモデルになったのです。では、これからはどうなるか。このような混迷をどのように切り抜けていくか、そこにイギリスはモデルとしての位置にあります。
イギリス政治に関心ある方だけでなく、日本の政治(制度)を考えるには、必読の本です。