カテゴリーアーカイブ:社会

組織がつく嘘、上司の責任

2022年1月5日   岡本全勝

国土交通省の建設工事受注動態統計調査書き換え事件、三菱電機での品質不正、日立製作所子会社での検査不正・・・。役所や企業での嘘をつく行為が続いています。

日本人は正直だ、日本の組織は倫理観が高いといった、これまでの通説を覆す事案です。これまで行われていた不正が表に出たということで、現在が悪いのではなく、過去から悪いことをしていたのです。ということは、日本人の職業倫理観が高いという通説は間違いだったのか、どこかの時点で悪化したのでしょうか。

三菱電機の調査委員会報告書では、「ビジネスの根幹に関わる倫理観や規範意識が低下していた」と批判しています。読売新聞記事「三菱電機、不正5製作所29件…検証報告書「倫理観や規範意識低下」」(12月24日)には、次のようにも書かれています。
・・・調査委が全従業員向けに実施したアンケートの回答内容を、会社に提出するよう上司から求められたとの相談も複数寄せられた。「従業員が率直に声を上げることを良しとしない考えが表れている」として、厳重な注意を行ったという。
「不正をやめたい」と管理職に進言したところ、逆に 叱責 を受けた担当者もいた。管理職に相談しても問題解決が期待できず、「言ったもん負け」の文化があるとの指摘は、前回報告に続き、今回の調査対象の製造拠点でも確認された・・・

12月30日の朝日新聞は、1面でその原因を解説していました「繰り返される不祥事、声上げられぬ社員「上層部は自己保身に走る」」。
・・・大企業で不祥事が繰り返されるのは、社員が声を上げられず、経営陣の問題意識も低いためだ。各社の調査報告書は「上にものが言えない」問題を指摘する。
三菱電機の調査委員会の報告書は、不正を知っても通報できなかった社員の声を紹介している。「上層部が自己保身に走る」として信頼されず、組織にとって都合の悪い情報を吸い上げられなかった。
みずほ銀行では、2月に4千台以上のATMが停止した際などで顧客への周知が遅れた。藤原弘治頭取が障害を知ったのはネットニュースだった。調査報告のアンケートなどでは、経営陣に忖度する「内向きの姿勢」があったという。

東京電力ホールディングスでは再稼働をめざす柏崎刈羽原発(新潟県)で、社員が他人のIDカードを使って中央制御室に入っていた。侵入者を検知する装置の不備が放置されるなど、「核セキュリティー」の基本が守られていなかった。
東電の「核物質防護に関する独立検証委員会」が9月に出した報告書からは、社員の苦悩が伝わってくる。アンケートで「正直にものを言えない風土があったと感じるか」についてたずねたところ、柏崎刈羽の役職員の27%が感じている(「どちらかというと」を含む)と答えた。組織が責任を回避し個人に「丸投げ」していると感じている人もいた・・・
この項続く

支え合う社会

2021年12月27日   岡本全勝

12月23日の朝日新聞、論壇時評、林香里・東京大学大学院教授の「ケアの倫理 誰もが支えあう社会の基盤に」から。
・・・「ケア」という言葉には、家族内で閉ざされ、ともすると隠すべきもの、といったイメージさえある。しかし、政治思想研究者の岡野八代は、〈1〉の論考で、このイメージをひっくり返す。以下、岡野の論考を、私自身の解釈も交えて説明することをお許しいただきたい。人間は、この世に生を受けた時点で皆、世話をされる依存状態にある。その後も怪我や病気、孤独や悲しみを経験し、ケアを必要とする存在である。ケアを必要とする人々がいるのだから、社会はケアを与える人たちも必要とする。そしてさらに、社会には、ケアを与える人たちを支えるシステムも必要だ。つまり、ケアは誰もが必要とするがゆえに、必然的に社会に連鎖し、開放されていく営みであり、社会全体で実践を支えるオープンなしくみを作っていかなくてはならない。岡野は、ケアを社会に行き渡らせることは、民主主義の「中枢」的課題であると主張する・・・
〈1〉岡野八代「ケア/ジェンダー/民主主義」(世界1月号)

進まない男女共同、男もつらいよ

2021年12月24日   岡本全勝

12月12日の読売新聞、田中俊之・大正大学准教授のインタビュー「男性視点で見直す男女格差」から。
・・・政治、経済分野での女性の進出が、先進国で最低レベルの日本。政府が「女性活躍」の旗を振るのに、なぜ進まないのか。田中俊之・大正大准教授は、男性が抱えがちな悩みや葛藤を研究する「男性学」の視点から、その背景を読み解く。男性の長時間労働を見直し、育児参加を促すことが、女性の社会進出の推進につながるからだ。自らも2児の子育てに奮闘しながら考える「男女がともに働きやすい社会」への道筋とは・・・

・・・男女雇用機会均等法の施行から35年。女性の採用は増えましたが、指導的立場に就く割合は、欧米諸国に遠く及ばない状況です。賃金格差はフルタイム勤務でも女性が男性の約7割で、非正規で働く割合は男性の2倍以上。出産後も働き続けることのハードルも解消されていません。
共働きの家庭でも、男性は社会から「一家の大黒柱」とみられる傾向は変わっていないのです。女性に比べて地位向上の機会に恵まれる一方で、弱音を吐くのは男らしくないという呪縛もあり、孤独に陥りがちです。男性の自殺率が女性を上回るのは、社会的な重圧が関連しているのでしょう。
近年は低成長時代に入って非正規で働く男性が増え、男性間の格差も拡大しています。50歳時点での男性の未婚率は2割を超え、収入の低い人ほど未婚の割合が高い傾向もあります。結婚は本人の自由ですが、希望しても選択できない状況は深刻です。
「女性は収入の高い男性を好む」と言われる背景には、女性の賃金が低く、性別の役割分担を前提にした社会の設計があります。男女の生きづらさは、お互いに「人ごと」ではなく、コインの裏表のような関係なのです・・・

・・・高度経済成長期以前は、家族で農業などに携わる働き方が主流でした。男性が雇用されて定年まで働き続け、妻は専業主婦という家庭が一般化したのは、それほど昔のことではないのです。近年はフルタイムで働く女性が急増し、独身の人も多い。それなのに、依然として男性の方が社会での競争を意識せざるを得ないのは、学校教育の影響もあるようです。
大学生に聞くと、いまだに高校では部活動の片付けを女子だけが担い、男子が教室の掃除をさぼっても許される、といった風潮が一部に残っているようです。女子は他の人の世話をする「女子力」を求められ、大学進学率が上昇しても理系に進む生徒は限定的です。学校や家庭でも、男女の役割の固定観念に縛られず、将来を自由に描けるような教育が必要です・・・

12月11日の日経新聞読書欄、山田昌弘・中央大学教授の「男らしさの呪縛を解こう 生きづらい男性のための4冊」も参考になります。
・・・近年、「男性弱者」に関する議論が盛んになっている。男性弱者とはおおざっぱに言えば、「稼げない男性」のことである。グローバル化、格差社会の進展によって、「稼ぐ」という従来の男らしさを実現できない「男性弱者」が増加していると言われている。
女性抑圧からの解放を目指すフェミニズム運動に触発されて出てきたメンズリブ運動や、「男らしさ」について研究する「男性学」の論客も、男性弱者を積極的に取り上げるようになってきた。そこでは、稼げない男性が結婚できなかったり、稼ぐ役割を強要され過労や自殺に追い込まれるなど、男性であることの「生きづらさ」が強調されるものが多かった。これらの論考を、社会学者の江原由美子氏は「男はつらいよ型男性学」と呼び、男女平等がけしからんといった反動的な思想や運動につながる危険性について指摘している。
しかし、従来型の男性学を日は敵に乗り越え、新しい男性のあり方を模索する論考が最近相次いで出版されている・・・

新型コロナ、自宅療養の問題点

2021年12月23日   岡本全勝

12月16日の朝日新聞オピニオン欄、「自宅療養 その現実」から。
・・・病床が逼迫した新型コロナの第5波では、ピーク時に自宅療養者が全国で13万人に上り、命を落とす人が相次いだ。自宅療養の現場で何が起きていたのか。新たな変異株の脅威が迫る中、第6波に向けて何を教訓とすべきか。東京都内で約210人の自宅療養者を診察した「ひなた在宅クリニック山王」の田代和馬院長に聞いた・・・

――コロナ患者はそもそも自宅で療養できるものなのでしょうか。
「『自宅療養』への最初のイメージは、入院する必要のない人を自宅で治療すると、文字通りそういう意味だと思っていました。確かに患者全員の入院は、感染が爆発した状態では非現実的で、我々が家でできる治療をする必要が出てくるとは思っていました」
「だけど、現実は違った。第5波では、本来入院すべき人の多くが入院できず、『医療崩壊』としか言いようのない状態に陥りました。自宅療養ではなくて、言ってしまえば自宅待機でしたし、待機できているのかもわからない。『自宅放置』されていたのが現実です」

――実際に見た現場は。
「初診時に半数の107人が『中等症Ⅱ』でした。呼吸不全があり、酸素投与が必要な患者です。患者の中には息が吸えず、顔色が真っ青になっていく人がいて、本当に死をリアルに感じ続けた期間でした。あまりにもしんどくて動けず、汚物を漏らして尊厳が完全に失われた環境に身を置かざるを得ない人もいました」
「自宅療養は、軽症でリスクの少ない人が氷囊(ひょうのう)を載せて休んでいるというイメージです。呼吸が困難な中等症以上の人には、自宅療養との言葉は使うべきではない。重症化するタイミングが予見しにくく、治療は酸素とステロイドしかない。戦場に竹やりだけで挑むようなものです。入院できないのはある程度仕方ないと思う半面、十分な治療ができなかったことが一番の問題だと思います。コロナに感染した途端、医療体制から断絶されているという非常に逆説的なことが起こっていたのが、自宅療養の現場でした」

――今後の感染拡大に備え、何が必要ですか。
「コロナ病床として確保された病床に入院できない『幽霊病床』をなくすことです。コロナ病床を引き受けるのならば、とりあえず患者を受けてほしい。病院に『これ以上悪くなったら何もできないから、受けられません』と断られたこともあった。そうなれば結局、僕らが『入院先が見つかりません。もうだめです。すみません』と患者さんに自宅で伝えることになる。どんどん下請けに流れてきているだけじゃないですか」
――幽霊病床の背景として医師や看護師の不足が指摘されています。東京では確保病床の使用率が最も高い時でも71%でした。第6波に向けて、政府は病床の増床や「見える化」を掲げています。
「神奈川県や千葉県は第5波でも病床使用率が80%を超えていました。東京では最も厳しい8月中旬でも6割程度だったのに、どこへ掛け合っても『満床』と告げられていました。『マンパワー不足』だけで説明がつきますか。『助けられないかもしれないけど、連れてこい』と言って欲しかった。90%までいっていたら、医療崩壊なんて起きなかった。検証されるべきだと思います」
「使用率を上げるには、空床情報の可視化が必要です。リアルタイムで『どの病院でどの重症度の病床が何床』と具体的な数字を示し、医療関係者がオンラインで見られるようにしてほしい」

孤独を「解毒」するつながり

2021年12月22日   岡本全勝

12月10日の日経新聞特集欄「超高齢化社会の課題を解決する国際会議」の、リンダ・フリード、アメリカコロンビア大学メールマン公衆衛生学部長の発言から。

・・・社会参加の対極に孤独がある。孤独は「親しい関係の人がいない孤独」「家族や友人との関係に不満足な孤独」「社会的な孤独」の3つに分類できる。社会的な孤独は、人々が社会へ貢献したいのにそのすべがないときに感じる。
「解毒剤」になるのが緩やかなつながりだ。高齢者が持つ社会的資本は多く、経験から培ったノウハウには大きな価値がある。
米国ではかつて「老いることは役割なき役割」といわれたが、状況が変わってきた。2900万人の高齢者がボランティアをし、30億時間に及ぶサービスを提供する。欧州連合(EU)と米国の調査では、高齢者のボランティア活動などによる労働市場への寄与率は国内総生産(GDP)の7.3%に相当する。
社会参加は、高齢者に対して健康状態の改善と幸福感の向上、孤立感の軽減をもたらす。健康になることで人々が活動に参加し、活動に参加することで健康が増進されるという好循環につながる・・・

・・・高齢者のために新しい社会的役割をどうつくりだすかが、引き続き重要な課題になるだろう・・・