カテゴリーアーカイブ:歴史

「アルプスの少女ハイジ」

2019年8月1日   岡本全勝

「アルプスの少女ハイジ」って、皆さんご存じですよね。かつて、テレビのアニメでも、ヒットしました。小説を読んだことがない人でも、足の悪いクララが、ハイジに助けられて、アルプスの大自然の中で、歩けるようになったということは知っているでしょう。私も実は、その程度しか知らなかったのですが。

NHK番組「100分de名著」6月は、『アルプスの少女ハイジ』だったのです。私は放送は見ずに、テキストを読みました。松永 美穂著『シュピリ「アルプスの少女ハイジ」』(2019年、NHK出版)です。

紹介に、次のようにあります。
「世界的な人気を誇る日本のアニメ作品が、ゲーテによる教養小説の流れを汲み、19世紀のヨーロッパ社会や宗教観を色濃く反映した原作をもとに作られたことは、あまり知られていない。登場人物の心の葛藤や闇、豊かな宗教性・自然観にも焦点を当て、アニメには描かれていない原作の深淵な魅力に迫る」

両親を亡くし、山のお爺さんに育てられるハイジが、経験を積んで成長していくことが、この物語の一つの主題です。
そして、150年後に読む私たちにとっては、当時の社会を理解する、歴史学として読むことができます。19世紀後半の貧しいスイスの山の暮らし、工業化が進むドイツの都市。そこをつなぐ鉄道ができて、この物語が成り立ちます。それにしても、親を亡くした子供の多いこと。かつては、それが当たり前だったのです。
童話と思わずに、お読みください。松永さんの解説を読んでから、原作を読むと、勉強になるでしょう。

「科学技術の現代史」

2019年7月22日   岡本全勝

佐藤靖著『科学技術の現代史 システム、リスク、イノベーション』(2019年、中公新書)が勉強になりました。
第2次世界大戦以降のアメリカを対象とした、科学技術の研究の歴史です。それを、国家、研究組織、社会との関係から分析します。アメリカに限っていますが、この半世紀は、アメリカがほとんどの分野で世界をリードしたので、それで科学技術史になります。

前半は、冷戦期でソ連と競った時代。後半は冷戦後です。
国家・軍備による、原子力、宇宙開発、コンピュータという3つの巨大開発から始まりますが、デタント(東西緊張緩和)とともに、その方向が変わります。コンピュータがパソコンになり、巨大から分散へと大きく仕組みと思想が変わります。一方で、アメリカの経済優位が低下し、科学技術にも経済への貢献が求められるようになります。他方で、科学技術の単純な信仰は終わり、それがもたらすリスクが大きな課題になります。

本書の魅力は、科学技術を、研究者の世界で分析するのではなく、国家との関係、社会の中での位置づけで分析することです。
もちろん、新書の中にこれだけのテーマを書くには、単純化が必要です。そのために、様々なことが「切り捨てられている」と思います。しかし、細かな事実を羅列しても、鋭い分析にはなりません。どのような切り口で整理するかで、評価が問われます。
これだけわかりやすく明晰に分析するには、細部にわたる勉強と、分析の力量が必要でしょう。お勧めです。

発掘された日本列島2019、続き

2019年6月10日   岡本全勝

昨日書いた「発掘された日本列島2019」で、大切なことを忘れていました。
本展示のほかに、特集の棚があります。その1が、「福島の復旧・復興と埋蔵文化財」です。
南相馬市、浪江町、双葉町、大熊町、富岡町、楢葉町、広野町での発掘調査結果が展示されています。

津波被災地では、高台移転のための予定地で、緊急発掘調査をしました。早く調査を終えて、住宅建設をするために、全国から調査員に応援に入ってもらいました。
発掘された日本列島展では、それらの調査成果も展示されました。参考「発掘された日本列島展2015

発掘された日本列島2019

2019年6月9日   岡本全勝

恒例の「発掘された日本列島2019展」に行ってきました。家形埴輪など、今年も、すばらしい発見がたくさん並んでいます。
今日も、文化庁の専門家の解説がある時間に行って、解説を聞きました。毎年、その前に行って、一通り見てから解説を聞くのですが。一人で見ていては気づかなかったことを、たくさん教えてもらえます。

このあと、1年かけて全国を回ります。近くに来たら見に行ってください。

セレンディピティ

2019年6月8日   岡本全勝

モートン・マイヤーズ著『セレンディピティと近代医学ー独創、偶然、発見の100年』(2010年、中央公論新社。中公文庫に再録)を読み終えました。
セレンディピティとは、幸運な、意外な発見という意味です。特に、何かを探しているときに、探しているものとは別のものを見つけ出すことです。
この本は、近代医学が、いかに偶然による発見によって進歩したかを、実例を挙げて説明した本です。

青カビからペニシリンを見つけたことは、有名ですね。ペニシリン発見の偶然も、詳しく読むと、かなり幸運な偶然です。ところがこの本を読むと、出てくるわ出てくるわ、次々と同じような例があるのです。
科学者が、それまでの知見の上に推理を重ね、実験を続けますが、うまく行きません。その分野の大家でない新人が、偶然、びっくりするような発見をします。しかし、なかなか学界では認めてもらえないのです。もちろん、素人が偶然に遭遇しても、発見にはつながらないのですが。
読んでいくうちに、あまりにそのような例が多いので、食傷気味になるほどです。近代医学の発展は、直線的でなく、偶然の積み重ねだとわかります。