カテゴリーアーカイブ:人生の達人

社員獲得、世界との競争

2022年10月29日   岡本全勝

10月19日の日経新聞に「GAFA予備校 NTTが返上へ」が載っていました。
・・・約30万人の従業員を抱える日本最大級の会社、NTTが攻めの働き方・人事改革に取り組んでいる。飛行機通勤を含むリモートワークを認め、年功序列を廃止して20代でも管理職に就けるようにする。米グーグルなど巨大IT「GAFA」への人材流出が続き、存在感低下は日本経済の低迷と重なる。人事に精通した島田明社長の下で、グローバルでの復権に向けた土台作りを急ぐ・・・

NTTで技術者としての基礎を学んだ後に、GAFAに代表される海外IT大手に転職していく社員が多いのだそうです。それを「GAFA予備校」と揶揄されるています。1990年代に入りバブルが崩壊するまで、NTTの時価総額は世界一でしたが、今は120位に沈み、グーグルの親会社アルファベットの時価総額の13分の1になっています。
通信の主役が電話からインターネットに代わり、通信ではなくアプリやクラウドサービスが価値を生み出すようになりました。
人材の流出は、その変化を表しています。ただし、最初から海外IT企業に就職するのではなく、NTTを「予備校」として転職するのは、最初からそれを狙っているのか、途中で見切りをつけるのかのどちらかでしょう。

記事では「公社時代から続く保守的な社風は「官僚以上に官僚的な組織」(業界関係者)とも言われる。安定志向の強いグループ30万人を擁する巨大組織を変えるのは容易ではない」と指摘されています。
若手の転職が続く霞が関も、同じ課題があります。違いは、NTTは社長以下が危機感を持って対応しようとしていることと、それに失敗すると会社がつぶれることです。それに対し、霞が関では危機感はあるようですが、統一的対応はされているように見えず、倒産する恐れもありません。

職員の心の健康

2022年10月26日   岡本全勝

10月15日の日経新聞オピニオン欄、村山恵一・コメンテーターの「社員の気分を上げる経営」から。心の健康には、病気にならないだけでなく、積極的に仕事に打ち込むこともあります。

・・・従業員のメンタルヘルス(心の健康)に気を配っているか。そう問われれば、イエスと答える日本企業は多いだろう。ストレスチェックやEAP(従業員支援プログラム)があると。それでは足りないと訴えるシンガポール企業が9月、日本に上陸した。2019年創業のインテレクトだ。
スマートフォンアプリを介し、主に企業の従業員にメンタルケアを提供する。ストレスや不安への対処法、睡眠の質や自己肯定感を高める方法が学べ、コーチングも受けられる。アジアを中心に300万人以上が利用する。科学的な根拠を重視し、大学などとの共同研究にも熱心だが、売りはアプリ経由というカジュアルさだ・・・

・・・わが社の従業員はいま何を思い、欲しているのか。経済学だけでなく心理学の視点もないと、経営は回らない。米国を見てみよう。
セクハラ問題に対する会社の対応が手ぬるいと、グーグル従業員が各地でストライキに踏み切ったのは18年だ。19年にはアマゾン・ドット・コムの従業員たちが環境保護を徹底せよと会社に株主提案した。この年のある従業員アンケートでは、75%が「自分たちには雇用主の方針に反対する声を上げる権利がある」と答えている。
経営者が直面するのは「物言う従業員」に限らない。「物言わぬ従業員」からも目を背けられない。米ギャラップが9月に公表した調査によると、米国では働く人の半数が「静かな退職者」だ。
実際に会社を辞めるのではない。行動を起こすほど強い不満はないが、仕事への熱意もない。最低限の業務をこなすだけ。コロナ禍で在宅勤務が広がり、薄れた会社との結びつきが背景にある・・・

・・・教科書に正解が書いてあるような問いではない。アプローチはいくつもあり、模索が会社を鍛える。ソフト開発のコンピュータ技研(大阪市)はヒントになる。
約130人が働く同社は、社員が自分の給与(年収)を自己申告して決める仕組みを20年から段階的に導入してきた。社員はまず、自分が業務や社風にどう貢献できるか、人生の目標とどう関わるかなどを専用シートに記載する。そういう自分に対する会社からの「投資」として給与額を求める。
シートの中身について社員とマネジャーが対話した後、松井佑介代表取締役とマネジャーによる投資準備委員会で各社員への投資の可否を判断する。認められれば松井氏と役員からなる投資委員会で最終決定だ。準備委員会を通るまで、社員はマネジャーと対話して納得のいく着地点を探す。
制度の導入後、社員の7割で年収がアップし、全社の人件費は三千数百万円増えたが、手応えもある。ずっと1~2%台だった営業利益率が4%を超えた。離職率も下がった・・・

定時に退社すると批判された。変えてやる

2022年10月13日   岡本全勝

10月5日の日経新聞「私の課長時代」は、渋谷直樹・NTT東日本社長でした。

・・・民営化1期生で、あらゆる仕事に前例がありませんでした。会社の転換期に新しいプロジェクトを任せてもらい、育てられた自覚があります。その経験から、人材育成では部下を信頼し、仕事を任せることを強く意識しました。部下の提案にはとにかく全部、「ええやん。やってみよう」と。課長時代の送別会で色紙をもらった際、部下の間で「ええやん課長」と呼ばれていたことに気づきました。

この考えには原点があります。入社して間もない頃、業務効率にこだわり、集中して仕事をこなして定時に退社していました。すると、上司から「君はいつも早く帰るね」と批判され、全く評価されずにショックでした。当時、上司はまず部下にダメ出しをする組織風土があり、「自分が変えてやる」と誓いました。

誰でも意見を言いやすい前向きな空気感があると、新しいアイデアが生まれやすいです。「予算や人手が足りない」「前例がない」など、できない理由を考えるより、部下にはクリエーティブな人材になってほしいと願ってきました。
社長になってもキャッチフレーズは「ええやん」です。課長時代はリーダーの原点で、成長のチャンス。今は課長になりたくない人も多いと思いますが、固定観念にとらわれる必要は全くありません。ぐいぐい引っ張るだけでなく、肩の力を抜き、部下の潜在力をどんどん引き出すリーダーも良いと思います・・・

村田製作所「当社には一人でできる仕事はほとんどありません」

2022年10月4日   岡本全勝

9月20日の読売新聞LEADERSは、中島規巨・村田製作所社長の「電子部品 こだわりの一貫生産」でした。
「世界の製造業は「垂直統合」ではなく、他社の製品を調達してモノを作る「水平分業」が主流になっている」ことに関して。

・・・垂直統合にはこだわります。独自性のある部品を設計し、品質改善を進めながら量産し、コストを下げていく地道なモノ作りの努力が当社を支えています。
「ジョブ型雇用の時代」と言われますが、当社には一人でできる仕事はほとんどありません。多様なスキルを持つ多くの人がチームとして仕事をしており、帰属意識や一体感が強い会社です。チームの力を高めていけば、投資額が大きくなる垂直統合のデメリット以上の恩恵があります。

こうした組織には、基軸となるフィロソフィー(哲学)のようなものが求められます。豊かな社会の実現に貢献し、会社を発展させるという社是や「誰も作っていないものを作ろう」という経営理念は、今も共有されています。古くさい経営と言われても、これからも全うしていきたい・・・

なぜ叱ってしまうのか2

2022年9月29日   岡本全勝

なぜ叱ってしまうのか」の続きです。今度は、職場でです。

――パブリックな空間にも広がっているということですか?
「家庭以上に権力の格差がはっきりしている会社のような組織では、部下を指導する自分の方が正しい、と上司は思い込みがちです。人は、ルールに違反した相手に罰を与えると、脳の報酬系回路が活性化する。強く活性化した人ほど、相手に罰を与えようとする傾向があることが、実験で確認されています。つまり、叱る依存の落とし穴にはまりやすい」
「処罰感情の充足が人間の欲求の一つなら、人間がつくる社会の仕組みに影響を与えないはずはありません。最近も、ネット上の誹謗中傷対策として『侮辱罪』が厳罰化されました。とりあえずの抑止効果はあると思いますが、人を公然と侮辱することに快を感じている人が、厳罰化されたから改心するでしょうか。どうすれば再犯予防できるかの議論が必要なのに、『悪いやつには罰を』という処罰感情の充足で終わっている。社会も『叱る』に依存しているということではないでしょうか」

――他方で、企業ではパワハラと受け取られないかと、叱ることを怖がる風潮も強まっています。私自身も管理職ですが、必要な指導を躊躇してしまうことも……。
「それもむしろ、叱ることの効果を過大視していることに原因があります。効果があると思い込んでいるから、処罰感情が募り、依存する。行きすぎる。大して効果がないと認識していれば、叱ることを怖がることはありません」
「パワハラ上司扱いされたくないから必要な指導もしないのは、企業にとって損失です。近年、こうした傾向への解決策として、職場で自由に意見できる『心理的安全性』が重視されています。心理的安全性があれば、処罰感情もわきにくいのではないでしょうか」

――具体的にどうすれば?
「叱られる相手が行動しない理由が『できないから』なのか、『しないから』なのか、見極めることが大事だと思っています。特に子どもの場合、過去に一度できたことが毎回できるとは限りません。『この間はできたのに』ではなく『まだこの子は50%しかできないんだな』と考えるだけで、だいぶ違う世界が開けてきます」
「その上で、どんなサポートがあれば『できない』が『できる』に変わるのか、と考えてみるのです。叱る、叱らないではなく、新しい方法を試行錯誤するうちに気づいたら叱らなくなっていた……というのが、目指したい姿です」

――「叱る」を手放せたら、社会も変わりますね。
「そのためには、人は叱られ、その苦痛から学んでこそ成長するという『苦痛神話』から脱却しなければなりません。人は叱ることに依存する。でも、叱るだけでは人は学ばない。これが社会の常識としてインストールされれば、もっと生きやすい世の中になるのではと思います」

心当たりのある方は、原文をお読みください。職場で部下を叱って、良いことはありません。それは指導ではなく、怒っている本人が自分の感情を制御できていない、感情のはけ口にしているのです。『明るい公務員講座 管理職のオキテ』第2講をお読みください。