カテゴリーアーカイブ:人生の達人

業績V字回復、社員に謝る

2025年5月29日   岡本全勝

日経新聞私の履歴書、磯崎功典・キリンホールディングス会長の続き、第22回「ビバレッジ」から。

・・・ブラジルキリンの売却を進めながら、次の低収益事業とも向き合った。その1つがキリンビバレッジだった。
てこ入れのため、清涼飲料の巨人である米コカ・コーラグループと資本業務提携をする方針を2016年に打ち出した。・・・互いに株式を数%ずつ持ち合う案を軸に交渉が進んだが、ビバレッジの業績改善が前提である。もし再建が行き詰まれば、コカ・コーラ社に売却する「プランB」も頭の中にあった。

キリンビバレッジは1963年に設立された歴史ある会社だ。当初は「キリンレモン」、その後も「午後の紅茶」をはじめ愛されるブランドを多数世に送り出してきた。
だが上位競合企業と規模の差が大きく、長年の低収益体質も課題であった。私が社長についた15年の事業利益率は1%台という低水準にあえいでいた。グループ内で安住するような甘い意識を捨て、もっと厳しく収益性を追求しなければ未来はない。
社長には新たな人材を充てた。小岩井乳業の社長として実績を上げた堀口英樹氏が就任。広がりすぎた商品数を絞り込み、中核ブランドである「生茶」を刷新した。営業面では数量ばかりを追うのではなく、いかに安売りを避けるかに知恵を絞った。生産面においても急な増産にも柔軟に対応して欠品を回避したことが、業績回復を支えた。
こうした取り組みが功を奏し、16年に5.9%に急回復した事業利益率は年々上昇。19年には9.1%に達した。

何よりもビバレッジ従業員が「なにくそ、売られてたまるか」と奮起してくれたからにほかならない。結局は実現しなかったが、コカ・コーラとの資本提携案が新聞にスクープされたことで、売却されかねないとの危機感がさらに高まり、心に火をつけた。
ビバレッジの業績がV字回復した16年。グループで顕著な貢献があった組織や個人を表彰する制度「キリン大賞」に、同社が選ばれた。同社幹部が受賞のプレゼンテーションの最後に「コカ・コーラと売却交渉していた磯崎社長、みんなの前で謝ってください。私たちは頑張りました」。こう発言した。私はその場で「ものの見事に自分たちの力で再生してくれて大変うれしい。心からお礼とおわびを申し上げます」と頭を下げた。その時の受賞者の満足した顔は忘れられない・・・

まだ長い日本人男性の労働時間

2025年5月28日   岡本全勝

5月6日の日経新聞経済教室は、柴田悠・京都大学教授の「日本人の休み方、人口構造の変化に遅れた対応」でした。詳しくは記事を読んでいただくとして、興味深い数字が行くも並んでいます。

・・・長時間働いていると生産性は低下する。豪セントラルクイーンズランド大のドリュー・ドーソン教授らの実験によれば、起床後5時間を超えると人間の認知的精神運動能力の成績は上がるが、13時間を超えると成績が下がり、「酒気帯び」相当の血中アルコール濃度での成績に匹敵するか、下回るほど落ちてしまう・・・

このあと、起床後に能力が上がり始めるのが遅いであろうことに留意すると「生産性を高く持続できるのはせいぜい8時間」との示唆が得られる、と書かれています。また、「脳機能を高く維持するには7時間睡眠が必要」という示唆も得られます。すなわち、生産的に働くには、「労働は8時間以内、睡眠は7時間以上」が重要です。

労働時間の長さではなく、時間当たりの生産性による人事評価へと転換する必要があるのに、日本は昭和の長時間労働の成功体験に引きずられたのです。生活時間調査によると、日本の正規雇用者やフルタイム労働者は、まだ平日に平均10時間の長時間労働をしています。欧米では8時間前後です。
1970~2015年の経済協力開発機構の分析によると、多くの国で年平均労働時間が減るとともに、労働生産性が上がっています。

子会社の整理

2025年5月27日   岡本全勝

日経新聞私の履歴書、磯崎功典・キリンホールディングス会長「事業の中止を提言する」の続き、第17回「子会社売却」です。

・・・当時のキリンは多くの子会社を保有していたが、いくつかはベテラン社員のポストの受け皿のような会社があった。本業とのシナジーが乏しく、先の展望が見えない事業については、当時社長だった加藤壹康さんに提案し、売却や清算を進めることになった。対象は15案件程度、限りある資源を分散させないためにも実行する必要がある。
しかし、グループ各社からの反発は激しい。ある会社では開口一番「うちは赤字じゃない」と抵抗された。ほかでも「うちの社員のことを少しでも考えているのか」「とにかく今日は帰ってくれ」といった声が上がる。目に涙をためて訴える社長もいた。
子会社社長の胸の内を考えれば無理もない。それぞれが経営努力をしていたのは確かだが、持続的成長を目指すキリングループにとって、痛みの伴う構造改革は避けられない・・・

・・・これらの会社を1社ずつ訪問し、社長らに直接ひざ詰めで事業継続は難しいと説明して回った。当然、反発は大きかった。「お前さすがに、やり過ぎだぞ」。あちこちで摩擦が起きたことから、子会社を担当する役員達も私を責め始めた。多くの会社がベテラン社員らのポストという事情も理解しろという。

熟考の末、納得してもらうには、最初にホテル事業を売却するしかない。
1999年から2001年にかけて総支配人を務めた兵庫県尼崎市のホテル事業は、自分の分身のような存在だ。力を合わせて黒字化を達成させた従業員みんなの思いがつまっている。だが事業としてみれば1カ所だけホテルがあっても今後の発展はのぞめない。それならば、一番ふさわしいオーナーの下で運営されたほうが、社員の今後の生活にもプラスになるはずだ・・・
・・・自ら育てた事業を自らの手で売却したことが各社の社長に伝わり、ようやく彼らも納得してくれたのだろう、最終的に全て売却・清算できた・・・

若手社員、電話が怖い

2025年5月26日   岡本全勝

5月12日の朝日新聞夕刊に「若手社員、電話が怖い SNS世代、退職するケースも」が載っていました。

・・・電話が嫌で嫌でしょうがない――。電話がプレッシャーで、若手社員の退職につながるケースもあるという。企業は電話の代行や研修を進めるほど。苦手な理由を本人たちや専門家に聞くと、SNS世代ならではの「責任感」が浮かび上がった。

「電話応対が嫌で辞める若手社員が増えて、困っている」。企業向けの電話応対研修を行っている「ドゥファイン」(東京都)には、そんな相談が相次ぐ。
同社は年間100社以上に固定電話の使い方や話し方の研修をする。「固定電話を初めて触った」と話す若手社員も珍しくない。
この春から都内で働き始めた公務員の女性(27)は「仕事でも、できることなら電話に出たくない」。自分が話せなくて沈黙が生まれることを恐れる。コンサルティング会社に勤めて4年目の女性(26)も「その場での判断が求められるため、取り返しのつかないことを言わないように、というプレッシャーがある」と話す。

「電話恐怖症」の著書があるカウンセラーの大野萌子さんは10年前、新入社員から「電話が嫌で会社を辞めたい」との相談を初めて受けて驚いた。その後、同様の声が年々増えているという。
若い世代は「言葉の責任感が強まっていると感じる」と大野さん。「思いもよらない一言がネット上で『炎上』する社会。普段の会話でも『これを言ってもいいのかな』と異常に気を使う傾向があります」。誰からの着信なのか、用件は何か、相手はどんな表情か――。電話は「分からない」要素が多く、「事前の情報がないことに対して怖がる人が多い」と大野さんは説明する・・・

10年ほど前に、大手企業の人事部長に聞いたことがあります。大卒新入社員を、研修所で1か月近く研修するのだそうです。「専門の法律などを教えるのですか」と聞いたところ、「何を言っているのですか。挨拶の仕方と電話の取り方、パソコンのキーボードの打ち方です」と笑われました。
学生時代には、きちんとした挨拶をしたことがない。家でも、そのような機会はない。
固定電話を、ほかの人の前で取ったことがない。漫画サザエさんで、カツオ君が廊下の黒電話を取るのは、昭和の風景です。
スマートフォンを使っているので、キーボードは使っていないのです。

働き方の多様化、週休3日

2025年5月19日   岡本全勝

4月28日の日経新聞に「週休3日選べる世の中に」が載っていました。
・・・週休3日をうたう企業や自治体が少しずつ出てきているが、社会に定着しているとはいえない。そこで、決意も込めて社名にした。
「株式会社週休3日」
永井宏明さん(48)が代表を務める、人材紹介などを手掛ける会社だ。求職者を週休3日で勤務可能な会社にマッチングしたり、働き方の見直しを進める経営者を支援したりしている。
仕事と家庭、趣味のバランスに苦労した経験に加え、「なぜ多くの会社が週休2日なのか」という疑問が、起業を後押しした・・・

ご本人は、週1日勤務や4日勤務などを経験しました。
・・・施設長に就くと職員の人手不足に直面した。そのとき思い出したのが、かつての自身の働き方だ。「週5日働けず、あきらめている人に届くかも」。募集の際に「週3日休めます」と掲げると、数えるほどだった応募が次第に増えた。人手が確保され職員も明るくなったような気がした。
ひとり親世帯や、介護などに向き合う人からの応募が多かった。家庭環境が落ち着くと「週休2日にしてください」と申し出る人もいた。元から在籍していた社員も、余裕がないときは週休3日に切り替え、離職率は大きく下がった・・・

・・・持続可能な働き方の仕組みと確信した。16年に退職し、「株式会社週休3日」を起業した。
滑り出しは大赤字だった。医療機関や福祉施設などと提携したが「週休2日で働いてきた今の従業員が『不公平』と強く反対している」と断られ、紹介先がゼロに。資金が底をつきかけた。
そんなとき、調剤薬局から相談があった。薬剤師が採用できず、従業員が疲弊しているという。週休3日という働き方を打ち出していけば応募が増えると提案したところ、導入を決めてくれた。
地方の調剤薬局を中心に依頼が増え、今は薬剤師業界の人材紹介を柱に事業展開している・・・

週に何日働くか、また一日に何時間働くか、何時から何時まで働くか。一律に週休2日、8時半から17時までと決めつけず、多様な勤務形態があっても良いですよね。労働力不足の時代に、子育て中の夫婦や、一日中働くのはいやだという高齢者に適した勤務形態を用意して、労働参加してもらうのです。
画一的な「勤務」は、学校や企業などで普及しました。自営業などでは、比較的自由な勤務ができました。企業で画一的な勤務を強制できたのは、夫が働き妻が家庭を守るという性による分業だったからでしょう。学校でも、画一的な授業時間についていけない子どももいます。