カテゴリーアーカイブ:社会の見方

文献を見るのが大学生、現場で手を動かすのが高専出身者

2025年8月17日   岡本全勝

7月30日の日経新聞に「高専に任せろ! 起業を選ぶ㊦」「AI時代の起業家、突き抜けた個性育てろ 識者に聞く」が載っていました。田中陽・編集委員の解説に、次のような話が書かれています。

・・・日本に高専が誕生して60年余。ここに来て高専が社会から期待や関心を持たれているのは、高校、大学という従来の教育システムへの強烈なアンチテーゼではないだろうか。

高専出身のさくらインターネット、田中邦裕社長はインタビューで現状の大学教育の在り方に疑問を呈した、東大大学院で教壇に立つ松尾豊教授は優秀な学生に出身校を聞くと多くが「高専です」と答えることに驚いた。
「文献を見るのが普通の大学生。現場を見て手を動かすのが高専出身者」(松尾教授)・・・

分業・比較優位論の限界

2025年8月16日   岡本全勝

経済対策と産業政策の違い2」の続きにもなります。

アダム・スミスは、工場内の分業による労働生産性の上昇を論じました。デヴィッド・リカードは、比較優位論を提唱しました。自由貿易において各国が最も優位な分野に集中することで、互いにより高品質の財と高い利益を享受できるようになるのです。
これらの理論は間違ってはいないのですが、重大な問題を忘れていました。
一つは、優位な分野を持たない地域や国、国民はどうなるのでしょうか。
二つ目は、互いの国が優位な分野に特化するとしても、劣位な産業に従事していた職人たちはどのようにして、転職するのでしょうか。

比較優位論は、勝者の論理であり、負け組のことを考えていません。また、勝ち組になるとしても、転換にかかる時間とその過程を考えていません。
欧米での寂れた旧工業地帯や炭鉱地帯が、その例です。アフリカ各国は、未だに経済成長しません。日本でも過疎地域、かつて稲作に頼っていた地域は、この論理では豊かにならないのです。
比較優位論のこの欠点と対策を論じた議論はないのでしょうか。ご存じの方のお教えを乞います。

東京への憧れ

2025年8月14日   岡本全勝

過疎問題の原因の一つに、東京への憧れがあります。読売新聞「あすへの考」でも指摘しました。
先日、あることから、司馬遼太郎著『街道をゆく37 本郷界隈』(原著は1992年、朝日新聞社)を読みなおしていたら、287ページ「漱石と田舎」に、次のような文章がありました。

・・・本郷からすこし離れて、想像を自由にさせたい。
明治後の東京が異常な憧憬を地方からうけてしまったことについてである。
当時の英国の田舎に住む紳士階級にとって、首都のロンドンは単に、金融や商工業、あるいは政治をするためのいわばビジネスの機能であるにとどまり、特別な尊敬の対象ではなかったはずであった・・・
・・・アメリカもそうらしい。アメリカのある日本学者がいった。
「日本のふしぎは、田園(いなか)を一段下にみることですね。アメリカ人はニューヨークいに住むよりも、田園に住みたがります。日本人の場合、ひょっとすると逆ではないでしょうか」
ひょっとするとどころではない。こんにちの日本ほど東京への一極集中のはなはだしい時代はない。アメリカの若い人が、ワシントンD.Cにあこがれてのぼってくるなどという話はきいたことがないのである。

都あこがれという日本人の習癖は、はるかなむかしながら、八世紀初頭に出現した平城京(奈良の都)のころにさかのぼるべきなのかもしれない。
当時は商工業が未発達で、都市の必要などはなく、都市は存在しなかった。でありながら、唐の長安の都の三分の一の規模の大都市が大和盆地に出現したのである。青や丹で塗られた宮殿・官衙あるいは都城の楼門は圧倒的な威容を誇った。
日本じゅうが、まだ竪穴住居や掘立小屋に住んでいたころだったから、多少の謀反気をもっていた地方地方の土豪も心をくじかれたに相違なく、要するに津々浦々の鄙どもは、文明に慴伏(しょうふく)させられたのである。首都尊敬という型は、こときにはじまったかとおもわれる。

江戸時代の江戸は、さほどでもなかった。
政治的首都とはいえ、江戸は諸大名の城下の巨大なもので、古の平城京のように質がちがうというものではなかった。加賀百万石の城下の金沢も、規模の大小があっても、江戸と等質の都市だった・・・
・・・こういう状態が一変するのは、江戸が東京になってからである。
「神田界隈」のくだりでふれたように、明治後、東京そのものが、欧米文明を受容する装置になった。同時に、下部(地方や下級学校)にそれを配るという配電盤の役割を果たした。いわば、東京そのものが、”文明”の一大機関だった・・・

・・・ともかくも、明治の東京は、あらゆる分野で欧化に魁(さきがけ)をした。
八世紀の平城京は、やがてその”文明”を国分寺という形で地方に配るのがやっとだったが、一九世紀後半の東京は、機械の伝導装置のように、あらゆる学問や技術を、轟々と音をたてるようにして地方にくばった。
ただし、伝導には時間がかかった。地方へは十年は遅れた。明治の地方人にとって東京がまぶしくみえたのは当然だったといえる。
「東京からきた」
というだけで、地方ではその人物に光背がかがやいているようにみえた。おまなおそうなら、文化的遺伝といっていい・・・

将来見通しの不安が消費を増やさない

2025年8月14日   岡本全勝

8月6日の日経新聞「経財白書で探る成長のヒント2」は、「賃上げ不信が生む消費不振 5年後給与「変わらず」4割弱」でした。

・・・個人消費の回復に力強さが欠けている。今年の経済財政白書は消費が弱い背景に、賃上げの持続力を疑う心理を指摘した。
統計上は賃金を巡る動きは前向きだ。連合の最終集計によると、2025年の春季労使交渉(春闘)での定期昇給を含む賃上げ率は5.25%だった。33年ぶりの高水準となった24年を上回った。白書は「近年にはない明るい動き」と評価した。

本当に25年の賃上げが働く人の給与に反映されているかを確認するため、白書は給与計算代行のペイロールが保有する速報性が高いビッグデータを確認した。
その結果、25年4〜6月平均の所定内給与の伸び率はいずれの年代でも24年を上回っていた。20歳代が前年同期比7.0%増、30歳代が5.4%増と高い伸びを示したが、40歳代も5.0%増、50歳代は同3.2%増だった。賃上げは若年層だけでなく中高年層にも恩恵が及んでいる。

賃金が上向く一方、個人消費は伸び悩む。可処分所得に対する消費支出の割合を示す「平均消費性向」は働く世帯で低下傾向にある。具体的に支出を減らしている項目を内閣府が複数回答で聞いたところ、4割超が食費(外食以外)と答えた。

賃上げの持続性に対する懐疑的な見方が強いことが、消費が低迷する要因となっていると白書は指摘する。消費者に5年後の給与所得を聞いたところ、4割弱が「今と変わらない」と答えた。「低下する」も2割弱おり、合計して6割近くの家計が賃金増加を予想していなかった。
特に昇給が終わった中高年層で変わらないと答える人が多かった。若年層は昇給が期待できることから、20歳代・30歳代は「上昇する」との回答が5割程度と高かった。それでも3割以上が「今と変わらない」と答え、1割以上は「低下する」と回答した・・・

高齢外国人の増加、介護支援

2025年8月11日   岡本全勝

7月28日の日経新聞に「高齢外国人23万人に介護の壁 認知症進み日本語忘れる「母語がえり」」が載っていました。

・・・日本に住む外国人に高齢化の波が押し寄せている。65歳以上の在留外国人は2024年末時点で23万人に上り、10年間で1.5倍に増えた。加齢や認知症のため日本語を忘れてしまう「母語がえり」がみられるなど、言葉の壁や食習慣の違いなど介護には特有の難しさがある。20日投開票の参院選で外国人政策に関心が集まる中、専門家は支援の強化を求めている・・・

出入国在留管理庁によると、65歳以上の在留外国人は2024年12月時点で23万447人。韓国・朝鮮人が6割、中国人が3万2000人、ブラジル人が1万5000人、米国人が8800人です。
課題となっているのが、介護の受け皿不足です。外国人の介護には5つの壁があるとのこと。コミュニケーション、識字、食事、文化や習慣、心の壁です。
彼ら彼女らは、介護保険制度に関する知識も乏しく、頼れる人がいない場合もあります。意思疎通もままならず、孤立しています

高齢者を含め、在留外国人の悩み、そして受け入れる地域社会を支援するために、専門の役所・部署が必要でしょう。出入国在留管理庁は出入りを管理する役所であって、在留外国人のお世話をする役所ではありません。地方行政に責任を持っている総務省が乗り出すべきだと思います。