カテゴリーアーカイブ:社会の見方

モノとコト2

2022年10月10日   岡本全勝

モノとコト」で、モノとコトの違いを、質量があるのが「モノ」、質量がないのは「コト」。コトとは、モノとモノの相互作用のことと説明しました。

近藤和彦先生の訳で出た、エドワード・カー『歴史とは何か』(2022年、岩波書店)91ページに、「今日の物理学者がつねに口になさるのは、物理学者が研究しているのは事実ではない、事象(イヴェント)だということです」という記述がありました。そして、訳注に「イベントは日本語では催し・行事だが、ラテン語由来の英語ではevntはことの成りゆき・出来事であり、哲学や物理学・数学では事象である。」と説明があります。このような分け方もありますね。

歴史学で扱う「事実」は、起きた事実すべてではなく、その中から歴史的に意味をもった事実です。それは、私なりに理解すれば、同時代に与えた影響と後世に与えた影響の大きさで、歴史的事実になります。よく引き合いに出されるのが、シーザーがルビコン川を渡ったことは史書に書かれますが、それまでにまたその後にたくさん人がルビコン川を渡っても史書には書かれません。「evntはことの成りゆき」は、そのように理解しました。

なお、清水幾太郎訳(岩波新書)では、「自分たちが研究するのは事実ではなくて、事件である、といつも現代の物理学者たちは私たちに向かって語ります。」とあります。これを読んだときは、あまり気にせず読み飛ばしていたのですが。近藤先生の注で、理解が深まりました。

1947年の東京都千代田区地図

2022年10月9日   岡本全勝

東京都千代田区が、1947年(昭和22年)の地図を、ホームページに載せています。終戦2年後、アメリカ軍に占領されていた時代の、東京の中心部の地図です。

画面では小さいので、拡大して、いくつかの場所を見てみました。
道路はおおむね現在と同じですが、建物はまったく違います。いくつもの建物が、占領軍に使われています。霞が関も大手町もかなり異なります。国会議事堂前もです。
高速道路や地下鉄もありません。チンチン電車が走っていました。これまでの間に、2度建て替えられた建物もあります。
興味ある方は、拡大してみてください。

玉木俊明著『近代ヨーロッパの形成』

2022年10月9日   岡本全勝

玉木俊明著『近代ヨーロッパの形成 商人と国家の近代世界システム』(2012年、創元社)を紹介します(本の山から出てきたので、読みました)。

なぜ近代に入り、ヨーロッパがいち早く経済成長を遂げたのか。産業革命はなぜイギリスから生まれたのか。そして、近代主権国家システムを作り上げたのか。さまざまな説明がされてきました。
この本では、オランダのアントウェルペンを起点とする商人ネットワークの拡大と、財政軍事国家論を重点に説明します。

経済史は大きな貢献をしたのですが、物の生産と移動(貿易)の数値に根拠を置いています。他方で、知識(技術)や情報の貢献は、あまり明らかにされていません。資料が残らないのでしょう。現在の企業や産業を見ても、知識と情報の重要性は明らかです。原材料と機械があるだけでは、生産は起こらず、また消費されません。その点での、この本の主張は、納得できます。

もう一つの国家の役割も、近年重視されているようです。「国家の見える手」です。ラース・マグヌソン著『産業革命と政府 国家の見える手』(邦訳2012年、知泉書館)

本書は読みやすいのですが、ところどころ疑問に思う点もありました。玉木先生は、次々と興味深い書物を出版されているようです。

子どもの心「なんとなく不調」

2022年10月6日   岡本全勝

9月20日の日経新聞夕刊「子どもの心「なんとなく不調」」、平山哲・大阪母子医療センター子どものこころの診療科副部長の発言から。

ここ3年ほど、子どもの心のストレスが話題になり、精神疾患発症率の上昇なども報告されるようになった。国立成育医療研究センターが2020年6月以降に公表した複数の報告書では、心身の不調を訴えている子どもが一定数いることがわかっている。
21年12月に実施したアンケートでは、1週間のうち数日以上で「気分が落ち込む、ゆううつになる」などと答えた小学4~6年は36%いた。中学生では56%にのぼっている。「疲れた感じがする、気力がない」と回答したのも小学4~6年で43%、中学生では75%だった。
私は子どもの発達にかかる領域全般を専門に診療しているが、初めて受診される方の約半数は未就学児で、残り半数は小中高校に通っている児童や生徒。未就学児では発達に関する相談が中心だが、小学生以上になると学校生活の問題や思春期特有の悩みなど、心のストレスにまつわる内容が多くなる。

そもそもストレスはどのような時に感じるのか。
嫌な出来事があった時によく「しんどかった、つらかった」などと言う。だが、実は嫌な事だけがストレスにつながるとは言い切れない。
厚生労働省によるコロナ下でのメンタルヘルスに関する調査では、回答した15歳以上の約8300人のうち17.5%が「第5波」の期間だった2021年7~9月に「生活の変化に対する不安」を感じていた。このような結果を参考にすると、ストレスとは嫌な事があった時だけではなく、変化が起きて心身へ何らかの影響があったことで生じると考えられる。
外来では「コロナが落ち着き、遠足や運動会など様々な行事が再開できるようになって楽しみにしていたのに、体調を崩してしまった」と保護者が不思議そうに話すことがある。楽しみにしているにもかかわらず、体調不良という正反対の反応が出てしまっている。これも変化によって生じた不調と言えるだろう。

大切なのは子どもと対話をすることだ。国立成育医療研究センターのアンケートでは「子どものことを決めるときに大人たちが気持ちや考えを聞いてくれるか」と尋ねたところ、小学4~6年で18%、中学生で39%が「そう思わない」と感じていた。
大人に対して「もっと熱心に話を聞いてほしい」「接している時にスマホを見ないでほしい」など求める声もみられた。
外来にくる子どもたちを診療していると、コロナ下であっても「友達と遊ぶ」「祖父母に会いに行く」など自分がしたいことを保護者と共有できている子どもたちは元気に過ごしている傾向がみられる。話す時間は短くてもかまわない。「明日は何をしようか」ということを保護者から語りかけてもらいたい。

30年後の世界予測と課題解決

2022年10月6日   岡本全勝

9月22日の日経新聞、ジャック・アタリ元欧州復興開発銀行総裁の「30年後の課題解決、カギは個人に」から。

人類は太古から未来予測を試みてきた。旅立ち、種まき、出産、開戦などに適した時期を探り、自らの死期、計画の行方、企業や国家の運命を占ってきた。かつては動物の内臓、コーヒーカップに残る粉の形、落ち葉、薬物による錯乱状態などが用いられた。やがて科学的に天候などが占われるようになり、今日、地球と人類の未来は、かなり正確に予測できる。
2050年の世界人口、気候変動、自然環境は、ほぼ正確に予測できる。一方、技術進歩の未来予測では不確実性が高まり、医療、教育、食糧、水資源の利用、労働組織、地政学的な緊張、紛争の勃発、移民の動向、政治的イデオロギーや宗教的価値観などでは不確実性がさらに高まる。これから私の未来予測を披露したい。

まず、気候では30年後、南アジア、イラン、クウェート、オマーン、ソマリア、エジプト、エチオピアなどでは、猛暑で居住が困難になる。ブラジルとメキシコも同様だ。パキスタン、バングラデシュ、英国、オランダも洪水の頻発で住めなくなる。

教育ではデジタル技術の発展により、読み、書き、計算、プログラミングは、学ぶ必要がなくなる。神経科学の進歩に伴い、ゲーム感覚で独学できるようになり、アフリカやインドでは伝統的な学校制度が崩壊、富裕層の子弟向けの私立学校が増える。学校を経ず、まずはインターネット、次にホログラム、仮想空間などを経たデジタル教育が急速に普及する。

地政学と戦争では、国家や社会集団間の不平等が拡大し、水など不可欠な天然資源の利用に著しい格差が生じると緊張が高まる。その結果、ウクライナのような地域紛争が続発するかもしれない。特に台湾での紛争、イランや北朝鮮で独裁者の生き残りを賭けた行動が予想される。中国は世界の覇権を握れず、内政に専念せざるをえなくなり、軍事的な賭けに出る。
こうした流れを変えるような世界規模の行動が起こるとは考えにくい。世界政府も、何をなすべきかというコンセンサスも存在しないからだ。とはいえ、衛生、環境、政治に関する問題が続発すれば地球規模でなければ解決できないというコンセンサスができる。
解決のための目標設定は、世界よりも、国、企業、個人のレベルのほうが容易だ。意思決定の主体が小さいほど、また主体の将来への影響が大きいほど、目標設定は簡単になる。全員が一丸となって命の経済を目指すのなら、30年後の未来は明るいだろう。