カテゴリーアーカイブ:経済

ユーロ危機、政治の挑戦と経済の失敗

2011年10月31日   岡本全勝

ギリシャに端を発した欧州の債務危機が、大きな問題になりました。なぜ、こんなことになったのか、いろいろな解説がされています。私は、経済と金融という側面とともに、政治による新しい仕組みへの挑戦と混乱という観点に関心があります。10月28日の日経新聞「つまずいた大欧州」、下田敏経済金融部次長の解説「ユーロ、債務危機の試練。統合優先、粉飾見ぬふり」が、要点を整理してありました。

ギリシャがユーロに参加する前に、関係者は強い懸念を表明していました。ギリシャは財政規律や物価抑制の基準を満たすことができず、実際に参加は2年遅れました。その際も、基準を達成したけれど、数値が粉飾ではないかと、疑われていたのだそうです。その後、ギリシャ政府が「自白」しました。
それでもなぜ、参加を認めたのか。今回の債務問題の震源地であるギリシャ、スペイン、ポルトガルは、長く軍事独裁政権が続きました。1970年代に独裁政権が崩壊しましたが、放っておくと政治体制が揺らぐ恐れがありました。欧州統合で、これらの国に政治的安定をもたらそうとしたのです。
その後しばらくは、EUの中欧と東欧への拡大で、経済が拡大し、問題が顕在化しませんでした。ここに来て、露見したようです。

通貨と金融政策は統合したけれど、財政政策は各国に残るという、現在のユーロ制度に、問題はあります。しかし、完璧を期そうとすると時間がかかります。少々のリスクを抱えつつも、大きな目的に向かって改革に挑戦する。それが、進歩を生むのでしょう。
「こんな危険もある」「こんな恐れもある」といっていたら、改革は進みません。もちろん、被害の大きな改革は進める必要はなく、リスクには備えをしながら改革を進めるべきでしょう。しかし、石橋を叩いてばかりでは、前進はありません。メリットとデメリット、それも現在だけでなく将来を見通して進めることが必要です。

事業にとっての適正な企業規模

2011年10月16日   岡本全勝

16日の朝日新聞経済欄、安井孝之編集委員の「波聞風問」は、「ものづくり―はやぶさからエアバスへ」でした。群馬県富岡市にある、重工大手のIHI(かつての石川島播磨重工業)の子会社「IHIエアロスペース」が、小惑星探査機「はやぶさ」を作り、エアバスの部品を作っている話です。
この会社の源流をさかのぼると、戦前は軍用機を作っていた中島飛行機で、戦後に解体され、その後、日産自動車の宇宙事業部門に引き継がれました。日産が経営不振になり、カルロス・ゴーン社長が事業の選択と集中を進め、航空宇宙事業は売りに出され、IHIが2000年に買い取りました。私が興味を持ったのは、次のようなくだりです。
・・担当部長は「航空宇宙事業は、自動車とは時間軸も規模も違う」と言う。今回のエアバス新型機への納入で、今後30年間で1兆5千億円の売上げを見込む。年間500億円の売上高は、IHIの航空宇宙事業の売上高3千億円にとっては大きな柱だが、日産の売上高の1%にも満たない。
それぞれの技術、商品には、それを育む適正な企業規模があるのだろう。大きな組織が、すべての先端技術を育てられるわけではない・・

なるほど、大企業の1%にいるよりも、それより小さな会社で存在感がある方が、うまく行くでしょうね。「企業は大きくなればよい、いろんな事業を抱えるのがよい」とは、言えないのですね。

日本企業の海外展開

2011年9月12日   岡本全勝

9月11日の日経新聞が、「内需産業も大航海時代。M&A活用、円高追い風」を解説していました。内需型の産業とされていた食品や日用品メーカーが、海外展開を加速している、という記事です。海外輸出を増やしているということではなく、現地企業を買収しているという話です。
薬品、食品、お酒、おむつ、化粧品などです。考えてみれば、日本国内の市場が飽和した段階で、海外に市場を求めることは、当然のことでした。電器製品や自動車など、輸出や海外生産に力を入れた産業もありました。
現地で販路を拡大するには、現地企業を買収し、ノウハウと販売店網を手に入れることが効率的です。日本の中で安住し、そのような戦略をとらなかったということでしょう。

海外展開に関して次のことも、紹介しておきましょう。7月19日の日経新聞は、日本企業が海外子会社の利益を、国内に環流させていることを伝えていました。2010年度では、利益の95%を親会社への配当という形で、国内に戻しています。この比率は、2008年度までは約5割でした。
リーマンショックの後、経済対策として、海外子会社から受け取った配当の95%を非課税とする税制改革をしました。それまでは、法人税率を適用していました。そこで企業は、高い税率を避けて、海外で得た利益は海外で再投資していたのです。
この改正によって、海外で得た利益が、日本に戻ってくるようになりました。その時点での税収は減りますが、国内に戻ったお金は、投資に回されるか株主に配当され国内の消費などに回ります。日本が豊かになり、景気が良くなります。税金は、その後に納めてもらえばよいのです。このような、税制の経済効果、政策税制もあるのです。

林宏昭先生の新著

2011年7月18日   岡本全勝

林宏昭先生(関西大学経済学部長)が、『税と格差社会-いま日本に必要な改革とは』(2011年、日本経済新聞出版社)を出版されました。
抽象的な税の理論書ではなく、現在の日本社会が抱える問題に即して、税金のあり方を述べておられます。少子高齢化、格差、地域間格差、社会保障、さらには災害復旧負担のあり方までです。大学生だけでなく、広く一般の方向けに書かれています。ご一読をお勧めします。
先生は、「学部長になって忙しい」と、おっしゃっていたのですが。どうして、どうして・・。

自信をつけたアジア各国

2011年6月14日   岡本全勝

速い速度で変化する社会や経済を追いかけるために、なるべくそれらの本を読むようにしているのですが、時間が取れなくて、買ったまま積ん読も多いです。そしてそれらの本は、1~2年も経てば、時代遅れになるものも多いです(反省)。最近は新幹線での出張が増えたので、少し時間が取れます。もっとも、疲れて寝ていることも多いですがね(これまた反省)。
NHKスペシャル取材班『NHKスペシャル 灼熱アジア』(2011年、講談社)は、私の問題関心に合う本でした。2010年の8月と11月に放送された番組を、本にしたものです。タイの経済発展と買収される日本企業、中東でのエネルギーをめぐる闘い、インドネシア市場の争奪戦、中国の環境市場を巡る日韓の闘いを取り上げています。
1997年の通貨危機、2008年のリーマンショックで大きな打撃を受けながら、復活できない先進国をよそ目に、大きな成長を続けるアジア。そのアジアの勃興に対し、減速する日本企業がテーマです。
そこにあるのは、後発国の追い上げを見ながら、なお自信を持っていた先進国日本は、過去のものになったということです。日本に追いついただけでなく、ある部分では追い抜いた韓国と中国、彼らの自信。まだ一人当たりGDPは少ないながらも、先進国へのコンプレックスを払拭し自信をつけたアジア各国の姿です。

日本だけがなぜ、欧米にキャッチアップできたか。かつて日本人は、日本の優秀さや後発国のメリットを指摘しました。しかしそれは、一面しか見ていませんでした。私は、一人当たりGDPの各国の軌跡を示すグラフで説明する際に、「日本がキャッチアップに成功したのは、日本の優秀性によるが、日本だけがこのメリットを享受したのは、アジア各国が経済発展に目覚めなかったからだ」と解説しています。韓国は北朝鮮との対峙、中国は共産党の政治優先、インドシナ半島はベトナム戦争など、政治を優先し経済開発を後回しにしたのです。彼らが政治的安定を得て、経済開発に舵を切った時、日本の一人勝ちは終わりました。
手前味噌に言うと、日本が「政治より経済が重要だ。独自路線は必要ない、欧米にまずは追いつけばよい」というお手本を見せたのです。
幸いなことに、その時点では日本は世界のトップグループに仲間入りしていました。
私は、ヨーロッパは歴史的背景とともに、同程度の豊かさなので共同体ができるが、アジアはいつのことになるやらと、考えていました。しかし、いずれ近い将来に、アジア各国が同じような豊かさになるでしょう。その時に、日本は何で優位性を保つか。また、対等協力の関係ができたことを、どう活かすかが、次の課題です。