先に、ジェイコブ・ソール著『帳簿の世界史』(2015年、文藝春秋)を読みました(2015年6月21日)。思い出して、積ん読の山から、ジェーン・グリーソン・ホワイト著『バランスシートで読みとく世界経済史―ヴェニスの商人はいかにして資本主義を発明したのか』(2014年、日経BP社)を発掘して、読みました。
これも、勉強になる本です。もっとも、表題は誤解を与えます。目次を見るとわかるように、複式簿記の発明と普及、それが経済の発展に不可欠だったことが書かれていますが、「世界経済史」までは書かれていません。原著は、「Double Entry - How the merchants of Venice shaped the modern world and how their invention could make or break the planet」という表題です。
ところで、本書でも書かれていますが、複式簿記が企業の財政状況をどこまで表しているのか。その発展系である国民経済計算GDPが、どこまで一国の経済を表しているのか。著者は、環境の価値や健康状態などが含まれていないことを指摘しています。金銭に評価できないものは、記入されないのです。
以下、会計学には素人の疑問です。
会社の場合、いちばんの価値である従業員は、どのように載っているのでしょうか。給与や退職金の引当金は計上されますが、従業員そのものの価値は計上されません(よね)。会社の経営が悪化し、従業員を削減する際には、減らすべき「負債」であり、よい商品を生みだす場合は「資産」でしょうか。
人数が少なくても、「有能な社員」「良質の労働力」と、人数が多くてもそうでない社員とは、金銭評価できないので、帳簿には載らないのでしょうね。従業員は、利益を上げる手段でしかないのでしょうか。もっとも、同じく利益を上げる手段である機械類は、資産として計上されます。また、その会社が持っている「評判」(ブランドとしての力)も、複式簿記では計上されないのでしょうね。 さらに、研究機関、大学、官庁は、企業会計だけでは、その価値は評価できないのでしょうね。
ところで、複式簿記って英語では、Double-entry bookkeeping system って言うんですね。
カテゴリーアーカイブ:経済
岩井克人先生の研究の軌跡、3
先生が、ものごとの根源まで遡って考えた例として、貨幣と法人があります。
貨幣がなぜ通用するかについては、商品説(特定の物、例えば金(ゴールド)に対する、人の欲求に支えられているとする考え方)と、法制説(政府の命令によるとする考え方)が有名です。しかし先生によると、あるモノが貨幣として使われるのは、「貨幣として使われているから貨幣である」という「自己循環論法」です。これも、なぜそうなるのか、本をお読みください(p223)。
法人については、単なる企業と法人とは何が違うか。企業は所有者(オーナー社長)が、企業の資産・商品を自由に処分できます。それに対し法人の場合は、株主が会社を所有しますが、会社が会社の資産や商品を所有しています。株主は、会社の資産を所有していませんから、自由には処分できません。これを、先生は「2階建て構造」と呼ばれます(p288)。
「企業は誰のものか」。株主のものか、経営者のものか、従業員のものか。これらの議論が、2階建て構造で明快に説明されます。企業統治の場合は、オーナーと経営者との関係は、委任契約になります。それに対し、法人会社での統治は、会社の経営者は株主との間で委任契約を結んでいるのではなく、会社との間で信任関係にあります。企業の経営者はオーナーの指示に従う必要がありますが、会社の経営者は株主の指示に従うのではなく、会社に対し責任を負うのです(p349)。詳しくは、これも本を読んでください。
岩井克人先生の研究の軌跡、2
先生は、経済学の主流から外れた「不均衡動学」を研究します。極めて単純化すると、新古典派経済理論は、市場で需要と供給が一致するように均衡し、労働市場でも受給が一致するように完全雇用が達成されると考えます。失業や売れ残りの商品、遊休資本が発生するのは、市場が不完全であるからで、市場が自由に働くようにすれば需給は一致すると主張します。しかし、実際の経済は、需給は一致しない場合が多く、不均衡が一般的であるというのが、不均衡動学です。では、それでいて、市場はなぜ安定しているのか。そこが、先生の研究成果です。本を読んでください。
私には、先生の主張の方が、現実的であり、説得力があると思えるます。先生は、市場主義が勢いをふるった時期に、それに反する主張を行い、「没落した」と振り返っておられます。
岩井克人先生の研究の軌跡
岩井克人著『経済学の宇宙』(2015年、日本経済新聞出版社)が、勉強になりました。岩井先生の半生記ではなく、研究の軌跡を振り返ったものです。大学のゼミ生だった前田裕之・日経新聞記者が、恩師に行ったインタビューを基にしています。500ページ近い、分厚い本です。先生の研究の記録、それも悩みながらの軌跡であり、現代経済学の入門書にもなっています。
先生の本は、『会社はこれからどうなるのか』など、目から鱗が落ちることが多かったです。理由がわかりました。先生は、物事をとことん突き詰めて、すなわち通説にとらわれず、本質まで遡って考えられるのです。それは、経済学にとどまらず、法律学にも踏み込まれます。そして、国内だけでなく、英語論文で世界に挑戦されるのです。1か月以上前に読んだので、具体的な指摘を思い出しながら、おいおい、勉強になった点を紹介します。
コスト優先の管理技術の重要性
朝日新聞連載「あのときそれから」、7月11日夕刊「昭和31年 造船世界一 成長ニッポン支えた技と魂」、ノンフィクション作家・前間孝則さんの発言から。
・・・造船世界一は「戦艦大和や武蔵の技術があったから」と言われていました。大口径46センチ砲や410ミリ特殊鋼の甲板といった軍事技術を評価されていたのだと思います。
大和は呉海軍工廠で造られ、建造責任者は西島亮二・海軍技術大佐です・・・実は、造船世界一に導いたのは、金に糸目をつけない性能第一主義の軍事技術ではなく、コストを最優先して短い工期と少ない工数で造る管理技術でした。西島さんは排水量7万トンクラスの建造データがなく、大和の仕事量を把握することが「もっとも頭を悩ました」と記します・・・
・・・材料の規格の統一や、効率的な人員配置など西島式生産管理法が、戦後重視された「安く早く良い物をつくる」ことに生かされ、技術大国の日本の礎になりました。現場を熟知して、全体を見通す西島さんの姿勢は、現在の日本にも求められていると思います・・・