投稿者アーカイブ:岡本全勝

行政の決断と責任

2010年6月23日   岡本全勝

手塚洋輔著『戦後行政の構造とディレンマ -予防接種行政の変遷』(2010年、藤原書店)を読みました。今、勉強している「社会のリスクと行政の対応」の一環です。この本は若手研究者の著作ですが、戦後の予防接種行政を丹念に追うとともに、行政の決断について鋭い分析をしています。
予防接種をした場合に、一定の「副作用」が避けられません。しかし、伝染病が広がっているのに予防接種を行わないと、さらに伝染病が広がります。これをを「不作為過誤」(しないことによる問題)と名付けます。他方、副作用があるのに予防接種を強行すると、副作用被害が出ます。これを「作為過誤」(することによる問題)と名付けます。あちらを立てればこちらが立たない、ジレンマにあるのです。
戦後の早い時期は、副作用を考えずに、予防接種を強制しました。その後、副作用被害が社会問題になると、救済制度をつくりました。そして、現在では、本人や保護者の同意を得る、任意の接種に変わっています。ここに、行政の責任範囲の縮小、行政の責任回避を見るのです。もちろんそこには、天然痘や日本脳炎が、かつてのように猛威をふるわなくなったという状況変化もあります。
この本には、リスクと行政の対応、個人の意識の高まりと行政手法の変化、社会の課題(伝染病予防)の変化と行政の変化、その時間のズレ、個人の責任と行政の責任、国の責任・市役所の責任・医師の責任など、たくさんの論点が含まれています。

ただし、ここでは、リスクという言葉を分別して使わないと、混乱します。すなわち、伝染病が広がることや副作用被害者がたくさん出るというのは、社会のリスクです。一方、行政が不作為過誤や作為過誤をおかすという、判断誤りによって国民から批判を受ける(訴えられる)ことは、組織のリスクです。さらに、国民にとっては、予防接種を受けないと伝染病にかかる恐れがあり、受けると副作用被害に遭うかもしれないというのは、個人のリスクです。
社会のリスクと個人のリスクは、被害に遭う危険性です。他方、組織のリスクは、自らの判断が被害者や国民から批判を受けるという危険性です。その場合、社会や個人から見ると、行政は加害者になります。

憲法の定め、行政権は内閣と地方自治体に

2010年6月23日   岡本全勝

23日の朝日新聞夕刊「窓」は、坪井ゆづる論説委員の「憲法65条のふたり」でした。
・・(菅直人首相が所信表明演説で述べた松下圭一先生が)菅氏のかつての国会質問を「あれが分権のひとつの起点になった」とほめていたのを覚えている。
質疑は1996年の衆院予算委員会であった。菅氏は憲法65条「行政権は、内閣に属する」について、「この行政権の中に自治体の行政権も含まれるのか」とただした。内閣法制局長官は「含まれない」と答えた。新しい解釈だった。これでやっと明治以来の政府に対する自治体の「従属」が終わり、「対等」な関係へと切り替わった。そして分権改革がすすみ始める・・
この答弁と行政権が内閣と地方自治体に属することについては、拙著『新地方自治入門』p22で解説しました。さらに、日本の統治は、まず中央政府と地方政府に垂直に分立され、そして次に水平的に中央政府にあっては三権分立、地方政府にあっては二権分立になっていることは、同じくp276で図示して解説しました。
社会科の授業や憲法の解説で、「日本は三権分立」と教えられるので、地方自治体の位置付けや垂直的分立が、国民には十分理解されていません。

消費者団体訴訟制度1年

2010年6月22日   岡本全勝
18日の読売新聞は、消費者団体訴訟制度ができて1年になるので、その成果を評価していました。不当な契約に対して、被害者に代わって、消費者団体が差し止めを請求できるものです。それまでは団体に権限がなかったので、問題ある業者に問い合わせても、相手にしてもらえないこともあったそうです。それが団体訴権を持つようになったので、悪質業者と強く交渉できるようになり、相手も態度を変えてきたようです。不当行為改善を申し入れた実績や、業者が改善に応じず訴訟になったケースも紹介されています。じわじわと効果が出始めていますが、まだ認知度が低いようです。
新聞が、新しい制度改正を書くのでなく、このように結果を評価するのは、良いことですね。

梅雨の中休み

2010年6月22日   岡本全勝

東京地方は、今日も快晴。とても、梅雨とは思えません。昨日が、夏至だったそうです。
雨が降らないので、家の椿と夏椿に、水をまかないといけません。夏椿は、次々ときれいな花を咲かせています。幹の3分の2が枯れたのは、どうやら、水やりがたらなかったからだそうです。お向かいのSさんのご主人の見立てです。木には、すまないことをしました。

国力と世界秩序

2010年6月21日   岡本全勝

19日の朝日新聞「日米安保条約発効50年」、加藤良三前駐米大使の発言から。
・・冷戦が終わり、世界ではBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)と呼ばれる国々が台頭してきた。しかし、中国は、日本など先進民主主義国とは、社会システムや価値観などが明らかに異なる。最近、話をした米国の知識人は、おしなべて中国が傲慢さを増していることを懸念していた。アヘン戦争以後、中国は被害者意識を持っている。そこから脱却するために米国とは、戦略的提携ではなく、最終的には追いつき追い越そうと考えているようだ。
先進民主主義国側は、BRICsが民主主義や人権などのルールを受け入れるよう、エンゲージメント(関与)政策をとってきた。成否は、両者間の国力の相関関係で決まる。
先進民主主義国側が成功するには、軍事力や経済力を含む国力で優位を保ち、価値観や文化、ライフスタイルなどで主流派であることを維持しなければならない・・