岡本全勝 のすべての投稿

イノベーション

日経新聞経済教室の27、28日はイノベーションでした。藤本隆宏教授は、次のように主張しておられます。
マスコミのもの造り報道は、感動的な話や良い映像が撮れる伝統的製造現場の名人芸に集中しがちだが、もの造りが日本経済に与える影響は、それよりずっと広い。「開かれたもの造り」の根幹は、「もの」ではなく「設計」にある。もの造りとは、ものをつくることではなく、設計情報を「ものにつくりこむこと」である。生産現場だけでなく、開発も購買も販売も含まれる。また、製造業の枠も超える。付加価値の根源は設計情報にあり、それが有形の媒体に転写されれば製造業、無形の媒体に転写され顧客に発信されればサービス業になる。
日本経済のうち、もの造り組織能力や生産性で世界をリードするのは、製造業を中心に国際競争にさらされてきた「競争貫徹部門」だが、それはおそらく10数%にすぎない。大きなウエートを占めるのは、非製造業を中心に規制や保護、談合などで国際競争力を欠く「競争不全部門」である。この部門の大幅な生産性向上には、規制緩和・民営化・構造改革だけでなく、組織能力の注入が大事である。IT導入の必要性もいわれるが、ITという固有技術だけでは、競争優位は得られない。ITが生産性に結びつくには、ITを使いこなすもの造り技術が必須である・・・
納得しますね。官庁という最大の「競争不全部門」「サービス業」にいると、絵にはならない技術・ノウハウの重要性がよく分かります。管理職の能力の差や、組織が持つ無形の能力の違いは大きいです。ところが、これはマニュアル化、文書化されず、口伝と伝統で引き継がれてきたのです。「明るい係長講座」では、その重要性を指摘しました。
「人を育てる」といった人材育成論は、本屋にもたくさん並んでいます。しかし、それは個人の能力向上に着目したものであって、組織の側・仕組みとしての能力の観点からは、書かれていないのです。「ほう・れん・そう」だけでは、だめです。将来、時間ができたら、行政のあり方論と関連させて、官庁部門での「開かれたもの造り」技術を書いてみたいです。後輩たちに無駄な苦労をさせないためにも、国民にもっと効果的な行政サービスを提供するためにも。

新しい仕事47

25日の日経新聞読書欄「経済論壇から」(大竹文雄さん)から。
春闘は、ストを背景に大幅賃上げを獲得できたころの労働者の一体感はもはや存在しない。労働組合の存在感は、政治的にも小さくなった。この原因を、伊藤惇夫氏は次のように分析している(文藝春秋4月号)。かつての労働運動は、貧しさや厳しい生活環境から抜け出すため、勝ち組である経営者側から、少しでも多くを奪い取るための闘いだった。ところが、大企業の正社員と官公労働者が大半を占める連合の組合員は、いつの間にか勝ち組になっていた。春闘は、勝ち組の内輪のイベントになり、多数派である未組織労働者の共感を得られなくなった。
正社員が既得権益を守る立場になった経緯を、城繁幸氏は次のように述べている(VOICE4月号)。バブル崩壊で継続的な成長の見込みがなくなった日本企業は、労務戦略の大幅な見直しを迫られた。しかし、問題は日本には「一度上げてしまった序列も賃金も、引き下げるという慣習がまったく存在しない」ことだった。賃下げのため、日本企業がとったのは「年功序列的」な対策だった。既存の中高年世代の賃金には手をつけず、ひたすら若者の昇級昇格を難しくし、非正規雇用という形で低賃金で若者を抱え込んだ。
それぞれ、なるほどと思いますね。そして、「一度上げてしまった序列を下げる習慣がない」という指摘には、目を開きました。校長や教頭が、適格性がない場合に、一般教員に降格する仕組みがあります。管理者側からの降格だけでなく、本人の希望によるのもあります。このような仕組みも、もっといろんな職場にひろげる必要があるのでしょうか。

退職症候群

26日の朝日新聞夕刊「夕日妄語」で加藤周一さんが、「退職症候群」について書いておられました。
イラク戦争の直前、国連の安全保障理事会で戦争の必要性を力説したのは、パウエル国務長官であった。退職後のパウエル氏は、今も続く戦争を批判している。このような「退職症候」発現は、アメリカの方が、日本よりはるかに多いのではないか。それは、次のような背景からであろう。
伝統的な日本社会では、職場の集団へ個人が高度に組み込まれていること。そのことは、一方で個人の安全を保証すると同時に、他方では成員すべてを同化させようとする強い圧力として働く。強制的な同化現象、個人・少数意見の圧殺、個人の自由の極端な制限。これが、集団の中の個人の次のような3つのあり方を生み出す。
第一、少数意見を持ち、それを表現する。第二、少数意見を持ち、沈黙する。第三、多数意見に順応し、それに従う(合唱に参加する)。第一は極めて少なく、第三は大多数である。退職症候群は、第二に現れる。意見が退職後に変わるのではなく、現役の時から多数派と対立していたが、退職後に沈黙を破るのである。
アメリカの指導者が現職の間は愚行を演じ、退職後に自由を行使して自説を唱えるのは、自由な批判精神の「沈黙」の証言であると同時に、自由な精神の「存在」の証言でもある。

規制改革の効果

内閣府は、1991年度から2005年度までの、規制改革による経済効果を発表しました。それによると、累計で18兆円、国民一人当たりでは14万円になります(29日付け日本経済新聞など)。経済効果は、規制改革がなかった場合と比較して、「競争による価格低下」と「需要の拡大」を試算したものです。大きかったのは電力で、小売り自由化などで価格が4割近く下がっています。知りませんでした。携帯電話も、価格(料金)が6割低下しました。トラック貨物運送も、料金規制や参入規制をゆるめたことによって、価格が3割近く下がりました。

2007.03.31

今日は、元部下の結婚披露宴に行ってきました。新郎は国家公務員、新婦は国際公務員です。新郎のおばさんである嘉田由紀子滋賀県知事の挨拶は、「新郎新婦が、働きながら子育てができる社会をつくらなければならない。そのために、官僚もがんばって」というものでした。知事は私の方を向いてお話しされたので、再チャレンジ室長として、「がんばります」とお答えしました。会場からは、笑いが出ました。
その後も、知事と、20世紀型会社社会、産業振興型行政から、生活者重視の社会・行政に変えなければならないと、議論してきました。なんと知事は、「新地方自治入門」を持参され、私は下手なサインをさせられました。