公務員改革論議

1 数量の改革(人件費削減)
今、経済財政諮問会議で議論されているのが、この部分です。人件費削減は、人数と単価を引き下げることです。
(1)定員削減
この問題は、どこをどのように削減するかの問題です。実は先進各国を比較して、日本は、人口当たり最も少ない公務員数なのです。さらに削減するするなら、何を削減するか、どこを削減するかを議論しなければなりません。
①シーリング方式では無理
そこで、どのように削減するかの問題につながります。これまでは、定数査定は予算査定と同様、省庁ごとに一律シーリングをかけて、その中でメリハリをつけていました。しかしこれでは、業務が増えている分野もそうでない分野も同様に削減されるのです。メリハリと言っても限界があります。いえ、不要な分野を残すという「逆効果」もあります。よって、諮問会議で提起されているような、食糧管理や農業統計にまだたくさんの職員が張り付いています。削減すべき分野を決めて、集中的に削減する必要があります。
②政治が決めること
この分野を決めることは、現在の官僚制では無理なのです。地方団体や民間企業の方には理解できないでしょうが。国家公務員は内閣(政府)に雇われているのでなく、各省で雇用されています。そして、定数を管理している総務省行政管理局も、各省の一つなのです。「強権的に」削減はできず、各省と協議して決めるのです。総務部長や社長室が決めればすむ(もちろん社内での同意取り付けは必要ですが)のとは、違うのです。
そして、分野を決めると言うことは、事業を縮小することと同義語で、事業の縮小をまず決めなければなりません。これは予算と同様、政治が決めなければなりません。
③実行する際の仕掛け
また、大幅削減をするなら、配置転換や整理解雇なども必要になるでしょう(後述)。
(2)単価の引き下げ
これは、給与の引き下げです。スト権を与えない代わりに、人事院が給与制度を決め、水準は民間企業を基に決めています。現在進められているのが、地域別の差をより反映することです。また、大企業の給与を基準にするのでなく、もっと小さい企業も入れれば水準が下がるという説もあります。
2 仕組みの改革(効率や成果の改革)
人件費の問題より大きいのが、官僚制の問題です。これは量の問題でなく、成果の問題であり、それを生み出している仕組みの問題です。
(1)各省官僚制の弊害解消
官僚制の様々な機能不全の原因が各省官僚制にあると、私は主張しています。各省で採用され各省で再就職先を世話してもらう。これで官僚は、政府全体・日本全体の利益でなく、各省の利益を優先する、あるいは各省の利益に縛られるのです。内閣が改革を企画実行しようとしても、内閣官僚はおらず、各省から出向した官僚が足を引っ張ることになります。
私が主張している改革策は、0種官僚を作ることです。現在の官僚から100~300人くらいを、内閣に集め、人事を内閣で管理します。そして、彼らは各省には戻らせません。各省官僚でなく、内閣官僚・国家官僚です。「政治任命」とイメージされているグループです(人事院報告書15年度版の概念図では、フランス・ドイツに近いです)。民間からの採用もあるでしょう。
(2)天下りの弊害廃止
もう一つの大きな弊害は、早期退職・天下りです。キャリア官僚の平均退職年齢は、54歳くらいだそうです。60歳までとしても、6年間めんどうを見なければなりません。1種の採用数は、かつては1年に900人ほどだったそうです。研究職を除いて事務官と技官が600人、何人かはこのお世話にならないとして、1年度に500人を世話するとしましょう。すると、500人×6年分=3,000ポストが必要です。65歳まで再雇用すると、もっと多くなります。2種の人たちもとすると、さらに増えます。
実は大手企業も、早期退職のようです。その際は、子会社・取引先・融資先に送り込んでいます。大きな企業で60歳まで雇用している代表は、地方団体です。これを解消するには、退職年齢を引き上げるしかありません。具体的には、次のようにすればいいと思います。
公務員をいくつかの区分に分けて、処遇を変えます。
①0種:彼らは天下りなども含め、処遇はそれなりに優遇します。優秀な職員を確保するためです。それでも、人数が少ないですから、弊害はかなり減ります。彼らには、スト権は与えません。
残りの公務員は、60歳定年(あるいは年金開始年齢まで雇用)とします。そしてスト権の付与で、次の2グループに分けます。
②スト権を与えないグループ:刑務所の監視など「権力の行使」を行う職員(地方公務員だと警察、消防)。
③スト権を与えるグループ:その他の職員。この人たちは、処遇は民間と何も変わりません。ストをするのも良し、処遇は労使交渉で決めればいいでしょう。
「民間並みとする」というのは、そのほかの意味もあります。先に書いた「配置転換、整理解雇」をできるようにするためです。今でも法律上はできるのですが、配置転換(省を超えた配転、管理職以外の県を越えた異動)はほとんどなく、整理解雇はやっていないと思います。整理解雇は最後の手段としても、配置転換は避けて通れません。
公務員=特別な仕事=特権=労働基本権制約、という考えをやめるのです。公務員にはそういう部分もありますが、すべてがそうではありません。多くの人たちは、民間企業とさほど変わらない仕事をしています(公平・中立については、より厳しさを求められますが、仕事についてより高い責任を求められる職は民間にもいっぱいあります。原子力発電所の職員、電車の運転手、ガスの保安員など)。もう、「公務員=特権階級」という発想をやめましょう。
(3)一律昇進の廃止
もう一つ指摘されている問題が、一律昇進です。これは、職員の業績評価をしない、ボーナスも差がつかないことと、セットになっています。先に提案したように、多くの職員を60歳まで雇用すると、自動的に、一律昇進は維持できなくなります。評価もせざるを得なくなるでしょう。民間企業並みにすれば、解決できることです。
(4)人事担当機構の創設
これらの改革を実行し、さらに運営するために、人事担当機構を作る必要があります。今の公務員制度の問題点を生み出したのは、責任部局がないからです。これも、民間の方には理解できないでしょう。
まず、人事・給与制度は、雇用主である各大臣(各省)や首相に権限と責任がありません。独立機関である人事院にあります。その人事院は制度を作るだけで、運用はしていません。スト権を奪った代償として第3者機関を作ったのですが、「救済機関」をこえて企画立案機関になったのです。
その裏側として、内閣(政府)には、人事制度を企画する部局はありません。総務省に人事・恩給局はありますが、制度については人事院が勧告したものを法律にするのです。
そして、実際の人事運用は、各省の人事課(秘書課)が行っています。しかしそれは、採用と昇進です。駒を動かすだけでなのです。これは13省庁に分かれ、また事務職と技術職で別、1種と2種で別です。霞ヶ関に人事担当課長(実質)は数百人いると、私は推定しています。
さらに、公務員制度改革は、内閣官房に置かれた行革事務局が担当しています。しかしこれは、臨時的、各省寄せ集め部隊です。
このように分散していて、責任ある部署がないのです。また、地方分権改革や地方財政改革の議論を支えたような、学者や論文共有の場(政策共同体)がないのです。これが、改革が進まない、議論が発散する要因でしょう。雇用主において、そしてそれは各省別でなく、内閣全体の人事(制度の企画、運用)担当機構を作る必要があるのです。