「思ってはいても座席を譲らない」の続きです。10月18日の朝日新聞オピニオン欄「優先席を考える:2 譲るハードル」から。
・・・電車で、座ったほうがよさそうなのに立っている人がいる。席を譲ろうか、でも――。そんな風にためらった経験がある人も多いのでは。どんな心理が、席を譲るのをためらわせるのか、どんな心構えでいればいいのか。交通バリアフリーを研究している、富山大准教授の西館有沙さんに聞いた。
公共交通機関などで、席を譲ろうという気持ちがあっても、実際に行動に出るまでにはいくつかのハードルがあります。最大の要因は、「本当に援助や配慮が必要か判断できない」「どう援助や配慮をしたら適切かわからない」ということです。
たとえば、ヘルプマークをつけた人が立っていた場合です。ヘルプマーク自体の認知度は比較的高いですが、マークが何を意味するのか、見かけたときにどう対応したらいいかへの理解は、まだ十分ではありません。実際、ヘルプマークをつけている人が全員、常に座りたいというニーズを持っているとも限りません。見た目でもマークでもわからない状況だと、援助や配慮をするという判断に自信が持ちにくいのです。
席を譲るという行為自体に対する、心理的ハードルもあります。日本は特にその傾向が強いという研究もあります。要因の一つが「断られるのが怖い」という気持ちです。以前、私自身も一般の方にアンケートをとったところ、断られたことを「失敗」ととらえる回答が少なくありませんでした。「間違いを犯した」と感じてしまうのです。
また公共交通機関だけに、周囲に人がいることも影響します。「聴衆抑制」といいますが、ほかの乗客に自分がどう見られているかを気にします。声をかけたり断られたりするのが「恥ずかしい」という感情が働き、ためらってしまうのです。
さらに、相手を援助が必要な人だとみなしてしまうことが「失礼にあたるのではないか」という気遣いもあると思います。かつて、年配者に席を譲ろうとしたら「年寄り扱いをするな」と言われた、という経験談がネットで広まったことがありました。そうした経験を見聞きしたことで、不安が増している可能性もあります。
また、「自分以外の人が譲ってくれるだろう」という「傍観者効果」も働くと言われています。ほかにも、人は自分の損失と「譲る」という行為をてんびんにかけることがあります。立ったら疲れるだろうといった損失を予想すると、やはり抑制は起こります。
こうした複数の要因が働くことで、援助したいという気持ちがあっても行動に移すことができず、葛藤が生じる。その心理的なストレスを避けるために、見て見ぬふりが起きるのだと思います・・・