「若い日本人の持つ能力の生かし方」の続きです。9月7日の日経新聞に、竹内弘高・国際基督教大学理事長が「日本型人材育成は忖度生む ICU理事長「正解ありきの教育は時代遅れ」」を書いておられました。紙面では「日本型人材育成の課題 忖度生む教育やめよ」という見出しです。
・・・日本は子どもの学力は高いのに経済は伸び悩んでいる。競争力の回復には、そんな「残念な」日本型人材育成をどう変えればよいか。経営学者で米ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)と一橋大の双方で長く教えた竹内弘高・国際基督教大(ICU)理事長に聞いた。
―日本は子どもの学力では世界トップクラスですが国の経済成長率は低い。教育システムに問題があるのではありませんか。
「よい塾に通い、よい大学に進み、日本の大企業に入るというベルトコンベヤーのようなシステムが完全に時代遅れになっている。今やプレイングフィールド(競技場)は世界なのに、世界で戦えない子どもを育てている」
「この日本型システムは正解ありきだ。速く正解すると偏差値が上がる。生徒は塾の先生の教えを疑わない。野性味を失い、会社に入った後も忖度(そんたく)する人に育ってしまう」
「経済協力開発機構(OECD)の2024年の調査で、日本は中学生に批判的に考える必要がある課題を与える教員の割合が調査対象国・地域の中で最も少なく、ガラパゴス状態になっている。つまり批判的思考をさせていない。この問題は間違いなく大きい」
―人工知能(AI)による翻訳の精度が高まり、英語を学ぶ必要性が薄れるとの見方もあります。
「HBSの修了生はほぼ7割がスタートアップを目指すようになった。彼らにとって一番大事なのは世界中にいる投資家を説得することだ。それには投資家の共通言語である英語力が欠かせない。エレベーターピッチといって、目的階に着くまでの15秒間に投資家をがむしゃらに説得しようとする」
「英語が標準語になった理由の一つは、白黒がはっきりした非常にダイレクトな言語だからだ。レトリックも大事で、それにユーモアを組み合わせることで勝ちパターンのコミュニケーションが成立する」
―米国では大学と大学院が新産業を生む成長のエンジンになりました。
「一橋大の商学部で教員をしていた頃、日本の大企業の人事担当者に『学生を白地でください』と言われた。入社後に我々が教育するから、よい学生をそのままくださいという意味だ。そのため大学4年間をろくに勉強せずとも卒業できる傾向は今でも続いている」
―学部教育の密度の濃さが違う気がします。
「ハーバードの学部は学生に24時間体制で関わる。学生は予習し、終日授業を受ける。全寮制なので、寮に戻るとハウスマスターという指導者が授業で生じた疑問に答えてくれる。大食堂で夕食を取った後、スポーツなどの課外活動に行くと優れたコーチに教わる」
「学生が様々な場で共に過ごすことで、全員がリベラルアーツの神髄である真善美を学ぶ」
―大学院はどうですか。
「HBSでは世の中や未来を良くするために必要な問題解決力を身につける。具体的には企業の経営課題や意思決定を詳述したケースを教材にして学ぶ。2年間で約800のケースを議論する。教科書はなく正解もない。学生は仲間と脳から汗が出るほど議論する中で、自分にとっての問題解決法を体得する」
「米国の大学と大学院は卒業後も学生の成長に関わり続ける。卒業生を頻繁に集め、選ばれた最高の教員が話をする。そこで多額の寄付が集まり、ハーバードでは全体で数兆円規模の基金になる。大学に恩義を感じての遺贈も多い。日米の最大の差だ」
―AI時代の大学教育は何を大事にすべきでしょう。
「ノウイングからドゥーイングへの転換だ。知識には形式知と暗黙知がある。数値やアルゴリズムといった形式知はAIに任せていい。経験、洞察力、感情、思い、信念などの暗黙知が大事だ」
「暗黙知は実践と行動を伴う。そしてビーイングすなわち自分自身を知ることにつながる。生き方はAIには教えられない。大学はそこに力を入れるべきだ」
――具体例はありますか。
「HBSは11年から学生を海外の現場に送り出し、問題解決に取り組む授業を始めた。ケースでノウイングを学ぶだけでなく、現場でドゥーイングを学ぶ教育にした」
「2年目から選択科目になったが毎年約200人が参加する。現場の一つが日本で、東日本大震災の被災地に行く。農家などに張り付き、問題の解決策を提案する。最近では著名ブランドのヨウジヤマモトやアニメの会社の問題解決にも携わるようになり、最も人気のある授業になった」・・・