年別アーカイブ:2025年

産業復興「グループ補助金」の限界

2025年10月16日   岡本全勝

10月12日の朝日新聞「東日本大震災15年へ」「「三陸の希望に」頼った補助金」から。復興庁では、企業から派遣してもらった職員の提案で、「結の場」という、大手企業が助言する場も設営しました。全てがうまくいくことは難しいです。

・・・東日本大震災で被災した会社を、30歳のとき、いきなり任された。
2011年3月11日、イカの加工品を作っていた「共和水産」(岩手県宮古市)は、材料のほとんどを津波で失った。
鈴木良太さん(43)は専務に就任し、社長の父に代わって仕事を一手に引き受けた。
被害総額は1億3千万円。取引先との関係を切らさず従業員33人の生活を守るためには、一刻も早い再開が必要だった。

同業者に誘われて頼ったのは「グループ補助金」だ。複数の被災事業者がグループを組み事業計画を作って申請すると、1業者あたり15億円を上限に、国や県が再建費用の4分の3を補助する。
制度初の募集に手を挙げ、採択された。別の補助金や会社負担も合わせて6億6千万円をかけ、保管庫と生産能力が2倍の新工場を建てた。
自身も、王冠をかぶって「イカ王子」を名乗って広告塔に。通販商品を次々と考案し、イベントに出た。売り上げは震災前の約3倍の11億6千万円に。従業員も増えた。
復興庁は、「三陸の水産業を盛り上げる希望になりたい」と話す鈴木さんを、成功例として「産業復興事例集」に取り上げた。
しかし、23年10月、資金がショートし、9億6千万円の負債を抱え、民事再生法の適用を申請した。「沼に入ったようだった」
実は、震災前から3億円以上の負債を抱えていた。売り上げの9割は宅配サービス業者向けの仕事で、他社と卸値の値下げ競争を繰り返す薄利多売の事業構造から抜け出せていなかった。

東日本大震災では、被災した中小企業の復旧を支える「グループ補助金」制度が作られた。企業の再建費用の4分の3を公金で補助する破格の制度だ。約5300億円が投じられ、今月、岩手県・宮城県での募集を終える。その後の大災害でも活用されたこの補助金は、地域に何を残したのか・・・

続き「なりわい再建、お金だけでは 「専門知識持つ伴走者欲しい」
・・・地域経済の早期復興を描いて創設されたグループ補助金=キーワード。東日本大震災で被災した8道県、延べ1万余りの事業者に5342億円が交付された。このうち、倒産した事業者は、朝日新聞の取材では少なくとも214ある。
共和水産もその一つだった。補助金を受けた後、売り上げは増えたが、依然として9割は、大量の受注がある宅配サービス業者向けの仕事。不漁と材料費の高騰、電気代の値上げも追い打ちをかけ、作れば作るほど赤字が増えた。
2024年9月に東京の商社に新工場を譲渡し、個人事業主として再出発した「イカ王子」の鈴木良太さん。「ありがたい制度だったが、こっちで値段を決められない被災前の業態を変えなければ、いつかは倒産していた。お金だけでなく、長く『伴走』してくれる専門知識を持った人が欲しかった」と話す。

一方、震災前から将来の方向性を見据えて「助走」していた企業にとっては、補助金は変化のきっかけと原資になった。
岩手県釜石市の水産加工会社「小野食品」は、全工場が被災。グループ補助金を原資に、4億5千万円かけて再建した。
小野昭男社長(69)は震災前から「BtoB(企業から企業へ)」の商売に限界を感じ、地元の水産物セットを毎月定額で届ける通販を始めた。震災後、通販会員は10倍以上に。昨年度の売り上げは震災前の4倍の54億円に達した。小野さんは、「補助してもらった分、税金を払ってお返ししている」と話す。

グループ補助金は現場の要望を受け、応募の要件は少しずつ緩められてきた。20年には「なりわい再建支援補助金」となり、事実上、一企業や個人の申請も可能に。24年に起きた能登半島地震でも、引き継がれた・・・

変化によって形と関係はつくられる

2025年10月15日   岡本全勝

生物も生態系も、神様が設計されたのではなく、変化の中でできあがったもののようです。
私たちは、今の生物と生態系を見て学ぶので、それが最初からあったものだと思ってしまいます。しかし、そうではありません。単細胞生物から複雑なものへと進化しました。その過程で、生き残りをかけた競争があって、それぞれの生物の形ができ、その棲み分けで生態系ができました(エドワード.O.ウィルソン著『生命の多様性』(1995年、岩波書店)を読んで生態系・生物多様性を知ったときは目からうろこでした)。この本も、本棚から出てきました。

物は単独で進化するのではなく、周囲の環境、他の生物との競争の中で進化を遂げてきました。他の動物との競争がなければ、チーターの足は速くならず、キリンの首は伸びなかったでしょう。
そして、現状でひとまず安定していますが、競争と変化は続いています。仮の安定と言えばよいのでしょうか。人とウイルスとの戦いは、新型コロナ感染症で体験したばかりです。

人間と社会も、同様です。人は社会環境の中で育ち、人が社会の変化を作ります。やっかいなのは、生物や自然の変化に比べ、社会の変化が激しいことです。狩猟採集生活ではほぼ自然環境の一員として、自然の原理の中で生きていたのでしょうが。農耕生活に入って集団による競争が始まり、近代になって「進歩」が通念になってしまいました。
科学技術や経済において、終わりのない競争の中に放り込まれ、私たちは止まることを許されないのです。親と同じ人生を送ることができません。それどころか、大人になったときには、子どもの時にはなかった機械や環境に置かれます。それを学ばないと、置いて行かれます。考えてみれば、しんどい話です。

ノーベル賞を最も多く生む県

2025年10月15日   岡本全勝

地方行政を、鋭い角度や独特な角度から取り上げる「自治体のツボ」。10月10日は「ノーベル賞を最も多く生む県」でした。なかなか思いつかない視点です。

・・・せっかくなので30名のノーベル・ローリエイトの出身地を調べてみた。いま、東京、愛知、大阪が4人でトップタイ。京都と愛媛が3で続く。意外に均衡。あとは1人ずつ。北海道、埼玉、山梨、静岡、富山、滋賀、奈良、兵庫、山口、福岡、鹿児島、満州。

愛媛の3人は大健闘ではないか。対して東北は唯一ブロックでゼロ。田中耕一さんが東北大OBだが、東北生まれのローリエイトはいない。女性もまだゼロ。経済学賞とあわせ、この3大空白を埋められるかが、今後の日本の焦点である・・・

文化、政治、経済の新しい古典

2025年10月14日   岡本全勝

雑誌『中央公論』2025年11月号の特集は「令和の読書と知的生産術」です。
そこに、大澤聡・砂原庸介・安田洋祐さんの座談会「文化、政治、経済......いま読むべき本は平成以降の「新しい古典」を決めよう」が載っています。3人は、1978年と1980年生まれの研究者です。

これは勉強になります。3人が、それぞれの分野で10冊ずつ挙げておられます。
政治、経済、文化の「新古典」にはこのような本が選ばれるのだと、勉強になりました。どのような基準で選ぶか、難しいところです。

古典と言われる本は、概説書や教科書に載っていて、かつて読んだか読んでなくても知っていることが多いです。しかし、近年の研究でどのようなものが必須のものなのか、学者でないとわかりません。このような記事は、研究者でない者にとって貴重な資料です。
知らない本が多かったです。みなさんは、どうですか。

自民党総裁選での議論

2025年10月14日   岡本全勝

10月5日の朝日新聞オピニオン欄「高市新総裁、政治の行方は」から。少し古くなりましたが、まだ10日も経っていません。

境家史郎・東大教授
・・・戦後の日本政治は、「保守」と「革新」のイデオロギー対立のもとで動いてきました。それはいまでも変わりませんが、対立の最大の争点だった憲法問題は、表面には出てこなくなっています。代わりにクローズアップされているのが「外国人問題」です。憲法や安全保障について保守的な立場の政治家は、外国人や移民に厳しく、リベラルな立場の政治家は共生を志向します。日本政治の底流にある保革対立が、外国人政策で顕在化しつつあるといえます。
高市氏は、総裁選でも「外国人問題」に重点を置いて言及したように、外国人や移民に厳しい姿勢をとるでしょう。外国人政策が今後の政治の焦点になるかもしれません・・・

中空麻奈さん(エコノミスト)
・・・経済政策でもっとも求められたのは、安定的な成長をどう実現するかを深掘りした議論だと思います。生産性や賃金を上げる重要性は、みな分かっているわけですが、じゃあどうしたらそれを達成、継続できるのかを考えないといけないし、成長や賃金上昇に必要な雇用の流動化についても、正面から考えることが必要でした。それを通して、国民や世界に向けて日本の前向きな変化を打ち出すことを期待したのですが、残念ながら議論は深まらず、小手先の話が多かったように思えます。
主要テーマになった物価高対策も、不満が出ないよう目先の分配をどううまくやるか、という話が中心でした。本当の意味での対策は財政でやることではなく、日本銀行の利上げや民間の賃上げが進むことであり、政府の役回りはそのサポートです。もちろん家計支援も必要ですが、救うべきは本当に生活が苦しい低所得者です。
野党が主張するガソリン減税に各候補が同調し、所得税の基礎控除拡大も、高市早苗氏や小泉進次郎氏が賛成しましたが、一律の減税は適切ではありません。責任政党を自任するなら、財源の議論から逃げてはいけないはずですが、あやふやなままです。財政負担が膨らみ、将来の人たちに跳ね返ることになります。

高市氏は大胆な積極財政を唱え、総裁選でも赤字国債を増発する可能性に言及しました。この姿勢は気がかりです。政権を誰が担うにせよ、財政の健全化は避けて通れない課題です。南海トラフ地震のような将来のリスクに備え、財政の余力を確保しておかないと、いざというときに困るのは国民です。国の借金が膨らみ続ければ、将来の政策の自由度も狭まります。
日本の公的債務の水準は主要国の中で際立って高い。格付け機関は国のトップに立つ人の姿勢を注視しています。財政のたがが外れれば、国債の格付けがさらに下がりかねません。総裁選で「経済あっての財政」という常套句が語られましたが、経済成長と財政健全化の二兎を追うべきです。リーダーには、そのバランス感覚が求められます。

新政権の重要課題は、ほかにも社会保障の立て直しなどいろいろありますが、日本にとっての成功体験を持てるよう、優先的に取り組むテーマを真剣に考えてほしい。
私が一つ挙げるなら、産業の競争力強化です。「日本がいないと成り立たない」と世界で言われる得意分野をいくつ作れるかが、成長のカギを握ります。この先10年、20年、日本がどの分野で食べていくのか、勝ち筋を見極め、お金や人材を積極的に投じていく。担うのは民間ですが、投資の予見可能性を高めるための国際ルールづくりや、投資の呼び水となる資金を出すなど、政府の役割は大きい。人口減少が進むいま、日本が本当に変われるか、ラストチャンスに近いのではないかと思っています・・・