年別アーカイブ:2022年

大学の評価

2022年3月22日   岡本全勝

ある大学の法学部と大学院の、外部評価委員を引き受けています。先日オンラインの委員会に出席し、意見を述べる機会がありました。その際に考えたことです。

外部評価委員の役割は、学校が行っている自己評価を確認することと、外部から見た大学教育の評価です。
1 大学による自己評価
自己評価については、報告をきくと、きちんとなされていました。

2 学生の満足
その際の評価基準の一つは、学生の満足度です。学生アンケートもしっかり取られています。
アンケートの役割は、どの程度満足されているかの傾向を見ることと、不満と感じている点を改善することです。満足度が高いならば喜ばしいことであり、必要なのは不満とされた点を改善することです。学生の声を拾い上げ、改善を続けることが重要です。

3 社会での評価は
評価のもう一つは、卒業生が社会で活躍することです。教育機関の目的は、ここにあります。
外部から見た大学教育については、卒業生と、卒業生を受け入れた会社さらには社会が大学をどのように評価しているかを見る必要があります。
この学校では、卒業生および受け入れ企業へのアンケートがなされているので、それを今後の改善に生かすことでしょう。卒業後の進路には、法曹関係とそのほか一般企業などがあると思います。すると、その二つで教育の内容が異なってくると考えます。
社会での評価は、財界などの人たちが、学校に何を求めているのでしょうか。
また、同じような法学教育を行っている他大学関係者(業界内)では、本学はどのような評価になっているのでしょうか。それも、参考になると思います。

うまくいかない産業振興政策

2022年3月22日   岡本全勝

3月9日の日経新聞経済教室「経済安全保障の焦点」、戸堂康之・早稲田大学教授の「過度な国内回帰、供給網弱く」から。

・・・第2に生産拠点の誘致で国内の半導体産業が再興するかは疑問だ。似た政策に、地方にハイテク産業を誘致するための補助金があった。だが大久保敏弘・慶大教授らによると、1980~90年代に実施された頭脳立地などの政策は、ローテクな企業を誘致することが多かった。革新的な企業は補助金をもらっても、技術と情報の集まる産業集積地を離れたくはないからだ。
同じことがTSMCの生産拠点誘致で起きている。TSMCが熊本に設立するのは、最先端の工場ではなく、汎用レベルのものだという。それでは高度な産業の発展には結びつかない。

第3に半導体など特定の産業を重点的に支援する、狭義の「産業政策」の効果にも疑問がある。産業政策は世界的に見直されつつある。大規模な産業支援をする中国の急激な成長も一因だ。だが丸川知雄・東大教授によると、中国の産業政策は失敗の連続で、半導体産業の支援ですら国産化比率の目標を大幅に下回り、必ずしも成功していない。
中国企業のデータを用いた欧州経営大学院のフィリペ・アジオン氏らの研究によれば、産業政策は産業内での競争が維持されている場合にのみ、企業の生産性を向上させた。つまり中国ハイテク産業の急激な成長は、政策の一定の貢献はあるとしても、本質的には民間企業の激しい競争により達成されてきたといえる。
だからダニ・ロドリック米ハーバード大教授が言うように、これからの産業政策は特定産業に限定せず、幅広い産業での競争を促進し、民間の創意工夫を促すようなものとすべきだ・・・

高松塚古墳壁画発見50年

2022年3月21日   岡本全勝

1972年3月21日に高松塚古墳の極彩色壁画が発見されて、50年になります。「朝日新聞の特集
そのとき私は、高校の修学旅行で南九州に行っていました。ニュースを旅先で聞いて興奮しました。その頃は古墳が好きで、村内の古墳はたくさん見ていました。今は入ることができない古墳も、当時は自由に立ち入ることができました。でも、高松塚古墳なんて聞いたことがなかったので、どこかなと思いました。
旅行から帰ると、伯父が実物を見ることができたとのことで、残念な思いをしたことを覚えています。古墳は、わが家からは3キロほど離れた、小山が続く畑の中にあります。ふだん、行くことがない場所です。

昨日20日に、有楽町朝日ホールで「高松塚古墳壁画発見50周年記念シンポジウム 高松塚が目覚めた日―極彩色壁画の発見」が開かれたので、行ってきました。内容の濃い催し物でした。
陶板で複製された壁画が展示され、間近に見ることも、触ることもできました。漆喰がはげ落ちている状況も、再現されています。これは優れものでした。
次は、はげ落ちた部分や雨水で汚れた部分を(一部想像して)補って、1300年前の状態を再現してほしいです。

1300年間(途中盗掘にあいましたが)、ほぼそのままの状態の鮮やかさを保っていたことは驚きです。でも、突然起こされて、あっという間にカビが生えて、絵が劣化しました。文化財保護の大失態でした。
保護しようとして大失敗したもう一つの代表例は、法隆寺金堂壁画模写です。模写作業中に、これまた1300年間保たれていた壁画を焼いてしまいました。

マスクの脳や心の発達への影響

2022年3月21日   岡本全勝

3月6日の朝日新聞教育欄「コロナと子ども:4」明和政子・京都大教授の「脳や心の発達、マスクの影響は」から。

――人との接触を避ける生活が続き、子どもたちの脳や心の発達には、どのような影響が出ていると考えられますか

脳が発達する過程では、環境の影響を特に受けやすい「感受性期」という特別な時期があります。この時期の環境や経験は生涯もつことになる脳と心の柱となる重要なものです。
例えば、大脳皮質にある「視覚野」や「聴覚野」の発達の感受性期は、生後数カ月から就学期前くらいまでです。脳の発達のしくみを考えると、視覚野や聴覚野の感受性期にある子どもたちが現在置かれている状況を、軽視することはできません。マスクをした他者とすごす日常では、相手の表情や口元から発せられる声を見聞きし、それをまねしながら学ぶ機会が激減しているからです。
乳幼児期の脳や心の発達を守るために、何をすべきか。幼児にもマスク着用を求めることで、どのくらい感染リスクが下がるのか。そうした議論が十分にないまま、一律に「マスク着用」を求め続けている現状を憂慮しています。

――コロナ禍が子どもの発達に及ぼした影響を示す調査はありますか

米ブラウン大学が昨年8月に出した報告によると、コロナ禍以前に生まれた生後3カ月から3歳の子どもたちの認知発達の平均値を100とした場合、コロナ禍で生まれた同年代の子どもたちは78まで低下しているそうです。マスク生活によるものなのか、身体活動の制約が大きい日常や、親のストレスによるものなのか。原因ははっきりしていません。日本でもこうした調査を公費で早急に行うべきです。

――脳の発達の面では、どうでしょうか

前頭前野の感受性期は、4、5歳くらいから始まります。前頭前野は、相手の心を、自分の心とは異なるものであることを前提に、理解する働きをもちます。それにより、相手の視点で想像したり、相手の置かれた状況に応じて協力したりすることができるのです。
前頭前野の発達にも環境が大きく影響します。共感できてうれしい気持ち。分かり合えず残念に思う気持ち。それを味わえる日常の経験が必要なのです。

小西砂千夫著『地方財政学』

2022年3月20日   岡本全勝

小西砂千夫先生が『地方財政学: 機能・制度・歴史』(2022年、有斐閣)を出版されました。500ページ近い大著です。これまでも先生はたくさんの地方財政の本を出版されていますが、それら研究成果の集大成でしょうか。

歳入と歳出の概要、国と地方の財政関係、財政調整制度の仕組みなど、日本の地方財政制度と実態を説明するだけでなく、次のような項目もあります。
 序章「統治」の学としての地方財政学
 第1部 地方財政をめぐる枠組み
  第1章 地方財政制度の起点
  第2章 地方財政をめぐる法的な枠組み
すなわち、制度の沿革にさかのぼり、なぜこのような制度ができているのか、政策制度の意図まで書かれています。学者による分析だけでなく、制度を設計した政府の側に立っての説明もあるのです。
これだけのことを書ける人は、なかなかいません。この本が定番になるでしょう。

冒頭のはしがきに、先生が、地方財政の制度運営(自治省)と研究(学界)との狭間を埋めることを任務とされた、いきさつが書かれています。私との対談(2004年)だそうです。光栄なことです。対談「地方交付税制度50年:三位一体改革とその先の分権へ」(月刊『地方財務』2005年1月号。対談の写真
先生は、総務省地方財政審議会会長に就任されました。