マスクの脳や心の発達への影響

3月6日の朝日新聞教育欄「コロナと子ども:4」明和政子・京都大教授の「脳や心の発達、マスクの影響は」から。

――人との接触を避ける生活が続き、子どもたちの脳や心の発達には、どのような影響が出ていると考えられますか

脳が発達する過程では、環境の影響を特に受けやすい「感受性期」という特別な時期があります。この時期の環境や経験は生涯もつことになる脳と心の柱となる重要なものです。
例えば、大脳皮質にある「視覚野」や「聴覚野」の発達の感受性期は、生後数カ月から就学期前くらいまでです。脳の発達のしくみを考えると、視覚野や聴覚野の感受性期にある子どもたちが現在置かれている状況を、軽視することはできません。マスクをした他者とすごす日常では、相手の表情や口元から発せられる声を見聞きし、それをまねしながら学ぶ機会が激減しているからです。
乳幼児期の脳や心の発達を守るために、何をすべきか。幼児にもマスク着用を求めることで、どのくらい感染リスクが下がるのか。そうした議論が十分にないまま、一律に「マスク着用」を求め続けている現状を憂慮しています。

――コロナ禍が子どもの発達に及ぼした影響を示す調査はありますか

米ブラウン大学が昨年8月に出した報告によると、コロナ禍以前に生まれた生後3カ月から3歳の子どもたちの認知発達の平均値を100とした場合、コロナ禍で生まれた同年代の子どもたちは78まで低下しているそうです。マスク生活によるものなのか、身体活動の制約が大きい日常や、親のストレスによるものなのか。原因ははっきりしていません。日本でもこうした調査を公費で早急に行うべきです。

――脳の発達の面では、どうでしょうか

前頭前野の感受性期は、4、5歳くらいから始まります。前頭前野は、相手の心を、自分の心とは異なるものであることを前提に、理解する働きをもちます。それにより、相手の視点で想像したり、相手の置かれた状況に応じて協力したりすることができるのです。
前頭前野の発達にも環境が大きく影響します。共感できてうれしい気持ち。分かり合えず残念に思う気持ち。それを味わえる日常の経験が必要なのです。