年別アーカイブ:2022年

やめる勇気、スポーツを楽しむ

2022年4月9日   岡本全勝

3月30日の朝日新聞スポーツ面「勝利ばかり評価、日本社会の問題 山下会長が語る、小学生の柔道全国大会廃止」から。

・・・行き過ぎた勝利至上主義が散見される――。そんな理由で、小学生の柔道の全国大会が廃止されることになった。大会を主催する全日本柔道連盟(全柔連)の山下泰裕会長(64)に決断の理由を聞いた・・・

――大会にはどのような問題があったのですか。
「柔道の楽しみは、練習した技で相手を投げること。この大会では、勝つために組み手争いばかりしている試合もある、と聞いていた。そうすると、柔道の試合で勝つことだけが好きになってしまう」
「強いチームにもしっかり基礎を固め、子どもの自主性、安全に配慮しているところはある。だが、全体的には勝利志向が強すぎる。これは指導者の問題だけではない。試合に勝つことばかりを評価する日本社会の問題でもある。子どもたちにはのびのびと柔道をやってもらい、魅力を実感してもらいたい。柔道を好きになってもらいたい」
――全国大会の問題点はどこですか。
「トーナメントでは、勝者は優勝者1人。あとはみんな敗者となる。体が丈夫になった、友達ができた、新しい技を覚えた、と柔道をしたことがその子の人生にプラスになれば、全員が勝者になれる。小学生の全国大会があまりにも勝利にフォーカスされている状況はマイナスだ」
「苦しさを克服してトップを目指すのもスポーツの一部。もっと高みに挑戦したいと希望する人は、自らチャレンジすればいい。ただ、それは小学生のころに決める必要はない」

――廃止の決断は、他競技からも賛同の声が上がっています。
「同じような問題意識を共有しているのでしょう。世の中にスポーツ嫌いの人はいる。勝ち負けで、常に優劣をつける。それがスポーツ嫌いになる理由の一つではないだろうか」
「日本スポーツ界では、スポーツは若い人がやるもの、勝ち負けが大事、きつく苦しいもの、というイメージが強い。それを打破していかないといけない。スポーツは楽しいもの、自らやるもの、人生を豊かにするものになっていってほしい」

――そうした考えになるきっかけはありましたか。
「現役引退後にイギリスに留学した経験が大きかった。イギリスではスポーツが人々にとって身近だった。当時、私はまだ20代後半。時々通っていた柔道場には様々な人が来ていた」
「ある日、50歳くらいの方に練習の相手を頼まれた。軽く襟をつかんで、技をかけないでいると、『もっと真剣にやってくれ』と言う。けがをしないように足払いや腰技で軽く投げると、『きょうは最高の日だ。世界チャンピオンの技を体で感じることができた。受け身が気持ち良かった』と言われた」
「練習が終われば、パブ(酒場)でいろんな話をした。『なぜ、柔道をしているのか』と聞くと、『終わった後のパブが楽しいからだ』と。彼らのほとんどは、試合に勝つためにやっていない。だけど、みんなお金を払ってクラブに行く。それぞれの感覚で、スポーツを楽しんでいた」

――日本と欧州の違いを感じますか。
「日本ではコロナ下で『スポーツは不要不急』と言われた。我々のこれまでの努力不足、力のなさが原因だ。人はスポーツで人生の勝者になれる。そのために、まず楽しむことを知ってほしい。今回の廃止の決定が、その第一歩になってほしい」

連載「公共を創る」113回

2022年4月8日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第113回「生活への介入」が、発行されました。前回まで、政府の社会(コミュニティ)への介入について説明しました。今回から、個人の生活への介入について説明します。

社会は個人の集まりですから、政府による個人への介入は、社会への介入と重複することが多いです。ただし異なることは、社会はみんなに開かれた空間ですが、個人には秘密にしてほしいこともあります。プライバシー(私事権)です。
そこには2つのものがあります。一つは、私生活や家庭内のことを知られたくないことです。もう一つは、自分のことは、他人に指図されず自分で決めたいことです。
すると、政府による個人への介入は、次の2点で問題になります。一つは、家庭に入ってよいのか、入る場合はどのような場合かです。もう一つは、「放っておいてくれ」という人に、どこまで関与できるかです。

生活保護など社会保障は、本人が求めるので、関与しても大丈夫でしょう。しかし、家庭内暴力など虐待の場合は、家族は介入を求めておらず、さらに拒否する場合もあります。
自立支援も、難しいです。本人が望んでいない場合に、どこまで支援ができるでしょうか。すべきでしょうか。本人の行動と意思に関与することは、手法も難しいのです。
また、社会的自立への支援と言うことの原点には、子どもを一人前の社会人に育てるということがあります。これについてはほぼすべての人が同意するでしょう。では、現在社会で「一人前にする」とはどのようなことでしょうか。ここに、成熟社会での行政の役割転換が求められています。

経済格差の意識調査

2022年4月8日   岡本全勝

3月27日の読売新聞社が、格差に関する全国世論調査結果を伝えていました。

・・・日本の経済格差について、全体として「深刻だ」と答えた人は、「ある程度」を含めて88%に上った。「深刻ではない」は11%だった。
具体的な格差7項目について、それぞれ今の日本で深刻だと思うかを聞くと、「深刻だ」との割合が最も多かったのは「職業や職種による格差」と「正規雇用と非正規雇用の格差」の各84%だった。岸田首相は「新しい資本主義」を掲げ、これまで市場に依存し過ぎたことで格差や貧困が拡大したと繰り返してきた。調査からも、格差への問題意識が広く共有されていることが明らかになった。

自分自身が不満を感じたことがある格差(複数回答)としては、「正規雇用と非正規雇用の格差」の47%が最も多く、「職業や職種による格差」42%、「都市と地方の格差」33%などが続いた。格差縮小のため、政府が優先的に取り組むべき対策(三つまで)は、「賃金の底上げを促す」51%、「大企業や富裕層への課税強化など税制の見直し」50%、「教育の無償化」45%などの順で多かった。
日本の経済格差が今後どうなると思うかを聞くと、「拡大する」が50%で、半数が悲観的だった。「変わらない」は42%で、「縮小する」は7%にとどまった・・・

またその分析では
・・・経済格差が広がるのは誰の責任が最も大きいと思うかを聞くと、「政府」49%、「個人」24%、「企業」20%の順だった。「政府」は全ての年代で最多だったが、高齢層ほど「政府」の割合が高く、若年層ほど「個人」の割合が高い傾向がみられた。
経済格差を縮小するために、政府が優先的に取り組むべき対策を8項目の中から3つまで選んでもらうと、「賃金の底上げを促す」51%、「大企業や富裕層への課税強化など税制の見直し」50%、「教育の無償化」45%、「社会保障の充実」43%などの順だった・・・

新副知事二人

2022年4月7日   岡本全勝

4月は人事異動の時期です。うれしいことがありました。かつて一緒に仕事をした人が2人も、県の副知事になったのです。一人は岩手県の八重樫幸治・副知事、もう1人は沖縄県の池田竹州・副知事です。

八重樫君は平成2年秋から1年間、池田君は平成3年秋から1年間、当時の自治省財政局交付税課に派遣され、仕事をしてくれました。私は、平成2年春から4年末まで交付税課課長補佐でした。
当時は「昭和の働き方」が最盛期でした。深夜残業や休日出勤も、季節によっては普通でした。ふるさと1億円事業の続きなど、交付税の算定もどんどん増えていきました。岡本課長補佐は新しい物好きで、それらの仕事を次々と引き受けてきたのです。岡本補佐は当時35歳。ばりばり仕事をして、職員にもそれを求める「悪い上司」でした。反省しています。
そのかたわら、彼らを含め関係者に制度と動向を知ってもらうために『地方交付税 仕組と機能』の元となる原稿を書き、彼らが悩まないように執務参考の「涙なしの交付税課勤務」も作っていました。忙しい時期を終えると、「日本の頂上で交付税を考えよう」と、職員たちを富士登山に誘いました。

ともに苦労をした(正確には苦労をかけた)職員が出世するのは、うれしいですね。副知事という職も苦労が多い職ですが、かれらなら上手にやってくれるでしょう。
がんばれ八重樫君、池田君。

第二の「危機の30年」

2022年4月7日   岡本全勝

3月28日の朝日新聞オピニオン欄「記者解説」、三浦俊章・編集委員の「危機の30年とロシアの侵攻 冷戦後の失敗教訓に、秩序再構築を」から。

・・・政治と外交を取材してきた過去30年を振り返ると、行き先不明のジェットコースターに乗り続けてきたような気がする。
1989年にベルリンの壁が崩壊した後に東ドイツに入った。歓喜と未来への楽観があふれていた。西側は冷戦の「勝利」に酔い、市場経済と民主主義が世界を覆うと信じた。しかし、グローバル化は貧富の差を広げ、国家間対立は深まり、専制主義とポピュリズムが台頭した。そのあげくのウクライナ侵攻である。プーチン大統領は核の使用をちらつかせる。米ロの全面対決になりかねない。
20世紀には二つの世界大戦があった。両者の間はわずか20年。当初は平和な世界をつくろうと理想主義が盛り上がったが、経済恐慌を機に暗転、破局へと落ちていった。この時代は歴史家E・H・カーの名著にちなんで「危機の20年」と呼ばれる。我々もまた、冷戦終結以来の歩みを「危機の30年」としてとらえ直す必要がある・・・

・・・今日に至る「危機の30年」は三つの時期に分けられるだろう。
第1は、壁崩壊から世紀の変わり目までの「おごりと油断の時代」である。唯一の超大国となった米国の関心は経済に集中し、市場万能の新自由主義が全盛となった。第2次大戦の敗戦国ドイツ(西独)と日本は、米国の手厚い援助を得て、経済復興と民主化を実現した。しかしソ連の共産党体制が崩れたとき、民主化は既定路線だと米国は安心した。ロシアは過酷な市場原理に委ねられ、富が新興財閥に集中し、経済は崩壊した。民主化にも失敗し、旧ソ連の保安機関KGB出身のプーチン氏の体制が生まれた。

第2の時期への転機には、ワシントン特派員として遭遇した。2001年の同時多発テロで、米外交の優先課題は一変した。だがそれは「一極崩壊の時代」の始まりだった。力で世界をつくりかえられると過信したブッシュ政権は、アフガニスタン、イラクへの戦争を始め、泥沼に陥った。市場原理万能の経済は08年のリーマン危機を引き起こし、こちらも壁にぶつかった。

第3の時期は、10年代以降の「専制と分断の時代」である。米国の混迷とグローバル化の失敗を見たロシアと中国の指導者は、専制的支配を強めた。西側民主主義国でも、移民への敵意や格差の拡大から、ポピュリズムが広まった。英国は欧州連合(EU)離脱を決め、米国には社会の分断をあおるトランプ大統領が生まれた・・・