米国式世界秩序の暮れ方

10月23日の読売新聞、国際政治学者のアミタフ・アチャリアさん「覇権国家の不在 米国式世界秩序の暮れ方」から。
・・・私の言うアメリカ世界秩序はリベラル国際秩序と同義です。第2次大戦後、軍事力と経済力で群を抜いた米国が主導して構築した国連・世界銀行・国際通貨基金(IMF)・北大西洋条約機構(NATO)など様々な多国間機構を土台とした資本主義・自由主義・市場経済の秩序です。民主主義と人権尊重という理念も備えていた。米国は戦後世界の創造主でした。
とはいえ米国式秩序が地球を覆っていたわけではない。40年余り続く米ソ対決の東西冷戦時代、米国式は西欧、そして日本を加えた西側の秩序でした。東側は社会主義のソ連式秩序です。私の母国インドは戦後、英国から独立した民主国家ですが、ソ連の同盟国で社会主義経済でした。共産党が支配する中国も社会主義経済で、米国が関係改善に転じる1971年にようやく国連加盟を果たした。長らく米国式の圏外でした。
米国式について「世界に開かれた包摂的な多国間の枠組み」とする言説が米国で主流ですが、「西側の外」から見れば、米国の覇権の下、富裕な国に成員を絞った会員制クラブのようでした・・・

・・・21世紀に入り米国式に影が差す。米国の没落ではありません。米国の主導する秩序の衰えです。
まず米国式が土台とした多国間機構の不調です。象徴例は自由貿易を新たに推進するはずだった世界貿易機関(WTO)の機能不全。中国が2001年に加盟して始まった、モノとサービスの貿易自由化を巡る交渉は西側と新興国の対立などで頓挫する。IMFは20世紀末のアジア通貨危機以来、途上国から批判を浴び続ける。経済大国に急成長した中国が15年にアジアインフラ投資銀行を設立したのは脱米国式の一歩でした。
次に政治・統治の形としての米国式、つまり民主制の退潮です。冷戦後、民主化は一気に世界に広まりましたが、やがて反動が起き、多くの国が権威主義に染まってゆく。インドでヒンズー至上主義を掲げるナレンドラ・モディ首相が登場したのは14年でした。
そしてグローバル化が勢いを失う。米国発の2008年の世界金融危機の衝撃は大きく、欧州連合(EU)はユーロ危機に沈む。世界貿易の伸び率が鈍る一方、グローバル化は貧富格差拡大の元凶という非難が「本丸」の米欧で高じ、ポピュリズムが反グローバル化の波に乗って伸長する。
16年の本丸の異変、つまり英国がEU離脱を決め、米大統領選でドナルド・トランプ氏が勝ったのは、米国式が衰退した結果であり、原因ではなかったのです・・・