年別アーカイブ:2021年

政策の検証

2021年4月8日   岡本全勝

4月3日の日経新聞夕刊に「福島沖の洋上風力発電 撤去、消える復興の夢」が載っていました。
・・・東日本大震災から10年、この間おこなわれた「復興事業」のひとつに、福島沖洋上風力発電実証事業がある。目的は、世界初の複数基による浮体式洋上風力発電システムの安全性・信頼性・経済性を明らかにすること、福島沖での実証と事業化により風力発電関連産業の集積を期待することなど。
楢葉町沖合20キロメートルには3基の浮体式洋上風力発電施設と1基の変電機が設置された。ところが昨年12月、政府は不採算を理由に、設置した施設を2021年度に全て撤去すると決めた・・・

・・・では、肝心の技術開発はどうなったのか。事業は大手の重電・海洋・造船・素材メーカー、商社など10社、1大学からなるコンソーシアム(共同事業体)が請け負った。コンソーシアムのパンフレットには「東日本大震災の被害からの復興に向けて,再生可能エネルギーを中心とした新たな産業の集積・雇用の創出を行い、福島が風車産業の一大集積地となることを目指しています」とある。
だが、早くから機器の不具合や稼働率の低さが報じられていた。特に世界最大級の風車(7メガワット機)については、経産省が委託した専門家委員会が18年に「商用運転の実現は困難であり、早急に発電を停止し、撤去の準備を進めるべきだ」と提言した。残った2基も、実用化に向けて引き継ごうとする事業者はいなかった。
投じられた国費は約600億円。データは取れたというものの、県や自治体が切望した自然エネルギーも地元の雇用も産業も生み出すことなく、洋上風力は福島の海から姿を消そうとしている。洋上風力による復興という福島の大いなる夢を深い失望に変えて、事業にかかわった方々は今、どのような思いをお持ちなのだろうか。復興の文脈における事業の検証を望みたい・・・

この3基の風車は楢葉町の岬からよく見え、私も期待していました。残念です。新しい技術の開発ですから、失敗することもあるでしょう。でも、欧米ではたくさんの風力発電が稼働しています。日本を代表する企業が参加していても、こんなに簡単に失敗するのでしょうか。
600億円と聞くと、考え込みます。起きたことは仕方ないとして、何が原因だったのか、検証が必要です。

「東日本大震災 復興の教訓・ノウハウ集」

2021年4月7日   岡本全勝

復興庁が「東日本大震災 復興の教訓・ノウハウ集」を取りまとめ、発表しました。「教訓・ノウハウ編」(238ページ)と「事例集」(285ページ)の2冊です。いずれも大部です。
まず「教訓・ノウハウ編」冒頭のマトリックス(p4~p7、pdfでは9枚目から12枚目)をご覧ください。
・「被災者支援」「住まいとまちの復興」「産業・生業の再生」「協働と継承」の4つの分野で、
・時系列(応急期、復旧期、復興前期、復興後期)に分けて、
項目を整理してあります。これは見やすいです。
そして本文(各項目)では、
・課題を提示し、状況と取り組みを説明し、教訓・ノウハウを示してあります。

東日本大震災(津波被害)では、被災者支援から始まり、住まいとまちの復興、産業・生業の再生、コミュニティ再建にまで支援を広げました。施設の復旧だけでなく、町や暮らしの復興にまで及んだのです。そして、行政だけでなく、企業やNPO、住民などとも協働しました。冒頭のマトリックスを見ていただくと、それが一目瞭然になっています。
後輩たちが、良い資料をまとめてくれました。

各府省や各局も、1つの仕事を終えたら、このような成果物をまとめて欲しいですね。特に内閣官房に置かれる各種本部は、使命を終えると廃止されるので、記録を残す、それも次に役立つ資料をまとめることが重要です。今の時代は、それをインターネットで簡単に調べることができるのです。

政策の体系化

2021年4月7日   岡本全勝

4月4日の読売新聞、伊藤俊行・編集委員「中国を囲む四角形 強さはしなやかさ」に次のような指摘があります。
・・・安倍晋三・前首相のもとで構想された「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)を進める日米豪印の「クアッド」は、中国の反発を気にして慎重だったインドの姿勢が、昨年のカシミール地方での中国軍との衝突を経て変わり、ようやく四つの角が整った・・・
・・・FOIPの原型は、第1次安倍政権で麻生太郎外相(当時)が提唱した「自由と繁栄の弧」にある。
東南アジアから東欧に至る、中国を囲むように弧状に分布する不安定な国々の発展と民主化を、日本が支援する構想だった。
当時、外務省幹部が部下に、「既にある政策や援助案件でいいんだ。『自由と繁栄の弧』のシールを貼れるものを探せ」と指示していた場面を思い出す。
なんだか粉飾のようだなとも思えたやり方には、大事な含意があった。一見バラバラに見える政策でも、共通する理念を掲げることで点が線になり、メッセージもはっきりする。
名前を与えることが、大切だ・・・
参考「優先順位を体系で示す

新型コロナ対策、自治体向け文書

2021年4月6日   岡本全勝

新型コロナウイルス感染症対策で、国から自治体に次々と事務連絡が出されています。厚労省のホームページに、載っています。
自治体・医療機関向けの情報一覧(事務連絡等)(新型コロナウイルス感染症)2020年
自治体・医療機関向けの情報一覧(事務連絡等)(新型コロナウイルス感染症)2021年
すごい量です。どなたか、数を数えてもらえませんか。

ある人がこれを見て、「大変な仕事ですね」と感想を漏らしました。いえ、出す方も大変なのですが、受ける方はもっと大変なのです。
去年末に会ったある自治体幹部が、「届いた文書を積み上げると30センチを超えるでしょう」と笑っていました。「そうなると、読みませんわ」とも。
出す方も受ける方も、全体像を把握している人はいないのではないでしょうか。それも心配です。何らかの基準で、分類することが必要です。検索する際にも、大変でしょう。

しかも、地方財政関係の文書なら、受け手は、県庁の財政課と市町村課、市町村の財政課とはっきりしています。しかし、コロナ関連だと、自治体の受け手がどの課かわからないときもあると思います。そして、小さな村役場では、これを数人でやっています。もちろん、専門家はいないでしょう。

東日本大震災の当初に、被災者生活支援本部に、いろんな指示や依頼が来ました。それに対して「それを、いまあの県庁や市役所に行っても無駄です」と止めるのも、私の仕事でした。すべて受け止めると、職員が何人いても足りません。もちろん緊急を要する案件は直ちに対応し、そうでない案件は後回しにすると言うことです。

うつ病患者の増加

2021年4月6日   岡本全勝

奥田祥子著「社会的うつ―うつ病休職者はなぜ増加しているのか」(2020年、晃洋書房)が、勉強になりました。
職場では、うつ病が増えています。報道でも伝えられ、厚生労働省もストレスチェックを義務づけるなど、対策も取られています。一方で、うつ病の診断が以前より広くなされるようになったとか、病気まではいかない人が申し出るなどの指摘もあります。
「明るい公務員講座」や連載「公共を創る」の項目としても、関心を持っているのですが、なかなか簡潔に説明した書物を見つけることができません。この本は、去年、本屋で見つけて買ってありました。

新聞記者の経験がある研究者(現在は大学教授)が、患者や専門医の協力を得て、うつ病休職者の急増を分析した本です。
うつ病で休職したことがある50人にインタビューして、その詳細な自覚症状を国際的診断基準に照らし合わせると、43人(86%)が該当しません。
さらに、うつ病休職者の10例を取り上げ、6人の専門家に「うつ病」と診断するか再診断してもらうのです。すると、6人全員がうつ病と診断する1例を除いて、残り9例については、6人の医者が「うつ病と診断しない」としたのが平均7.5事例、診断しない率は83%でした。

詳しくは本を読んでいただくとして。著者は、医者が(国際基準に該当しないと思われる患者を)うつ病だと診断するかの理由を、次のようにまとめています。
1 患者の要望。うつ病と診断してもらって、休職したい。職場から離れたい。
2 企業内制度。うつ病診断によって休職しやすい企業内制度が整っている。
3 主治医の意図。患者の要望を診断に反映させたい。抗うつ剤による治療を行いたい。