スポーツ選手の緊張への対処方法

2月25日の朝日新聞スポーツ欄、スポーツ心理学者の荒木香織さんと、バレーボール日本代表主将の柳田将洋さんとの対談「柳田将洋の不安、五郎丸のルーティーン発案者が導く答え」から。

〈柳田は2017年に欧州に挑戦した。荒木さんの指導を受けたのは渡欧直前だった〉
柳田 当時は2年目で、いろいろチャレンジしようという時。不安や悩みがいっぱいあった・・・
柳田 「しんどかったら、普通に帰ってきたらいいやん」と言われた。「そうか。自分のやりたいこと、やればいいんじゃん」と腑に落ちた。自分がやりたいようにやって、楽しんでいったら一番プラスと、海外に行けた。楽しいと思えたのは、きつかったら帰ればいい、とりあえず今年やってみるかぐらいの感覚でできたから。3シーズン、ガッツリできた。得るものも大きかった。
荒木 人は、先が明確でない状態が一番不安にはなる。行ってダメだったら、通用しなかったらどうしようと。心理学的には、不明瞭なことをどれだけ取り除いていくか。
「頑張れ、頑張れ」と言っても、不安を増すだけ。心理的に帰る場所があると思っていたら、そんなに不安にはならない。別に無理して海外でプレーしなくても、日本でもいろんなチャンスはある。励ましの意味も込めて、「ダメだったら帰ってくるのもいいんだし、問題ないと思うよ」という声かけをした。
柳田 「自分の好きなようにしたらいいや」と、今の環境をどう楽しむかにフォーカスを当てられるようになった。大事なのは自分が何をするか、どういうマインドで試合に臨むか。その癖や習慣がついた。

〈五輪のプレッシャーや不安に対処できず、パフォーマンスが悪くなることがある。「オリンピックの魔物」にどう立ち向かえばいいのか〉
荒木 対処法の一つに変わりない。ダメっぽい顔を伝えておく。「これ、今やばい時」というサインを作って、伝えておくのは一つ。パニックになって、サインも分からなくて、「ヤバイです」と言われたら、声かけに行く。
五郎丸選手も、W杯の最初のゲームの前、国歌斉唱の後は、気持ちが高ぶりすぎているはずだから、「みんな俺に声をかけてくれ、体を当ててくれ」とお願いしていた。実際、号泣してしまって。自分が予想していた通りになったから、みんなが声をかけ、体を当てに行って。それでも、落ち着ききれなくて、最初のプレーでタックルされるのにも気付かず、体当たりした。すごくいい突進で。そこからやっぱり、あの試合は変わった。本人も「お!」と目が覚めた。
いくら想定していても、対処しきれないことも出てくるかもしれない。それが「オリンピックの魔物」といわれるところ。みんなで協力して、越えられないことは絶対ない。みんなでいつも通りにコミュニケーションを取って。ただ、準備を怠るとダメ。たぶんこんな感じだからできるかな、ではたぶんいけない。あらゆるシナリオを持って準備しておく。指導者が想像できないことも、選手はたくさん想像できる。シチュエーションを考えつつ、話し合っておく。練習の前後に時間をもらってやってみる。そういう工夫をする。

〈荒木さんは眠れないという選手には、不安を書き出してもらったという〉
荒木 前々から、困りそうなことを言ってしまうのはあり。なかったことにしない。あることにして対処する。お互いを頼ってやっていくのもあり。寝られない、食べられない、あんまり体が動かない。息が浅くなって、深呼吸しなさいと言われる人もいる。いろんな現象が起きます。すごいことになります。でもそんなものです・・・