年別アーカイブ:2020年

「自己責任の時代」

2020年5月14日   岡本全勝

ヤシャ・モンク著『自己責任の時代 その先に構想する、支えあう福祉国家』(2019年、みすず書房)を読み終えました。連載「公共を創る」で、現代の自由と孤独を考えています。また別途、原発事故後の責任を考えていて、この本を見つけました。
この本は、政治哲学として自己責任を考えます。副題にあるように、福祉国家での自己責任の問題です。門外漢の私には、やや難解でした。前半は私なりに、理解しました。

社会福祉の対象になったときに、このような支援を求める状態になったのには、学校時代に勉強をサボったから、まじめに働いていないから、生活能力が不十分なのに子どもをつくったからとか、本人に責任があるのではないか。生活保護などの対象となる際に、本人の帰責事由のあるなしが問われるのです。
お互いが助け合おうとして始まった福祉制度が、困っている人の責任を問うのです。自業自得、身から出たさびと、突き放すのです。

かつて、困った人がいる場合に使われた「責任」は、その人を救う責任が国や周囲の人にあるという意味においてでした。社会の側に責任がありました。ところが、社会保障制度が完備されると、国や周囲は責任を果たしたので、問題があるならその本人に責任があると、責任の主体が反転しました。
これは、社会福祉制度の逆説です。恵まれない人への「施し」から、社会保障制度による「支援を受ける権利」へと転換し、さらにその受給権の水準が高くなると、このような反転が起きました。

マイナンバーを利用した住民サービス拡大

2020年5月14日   岡本全勝

5月11日の日経新聞オピニオン欄、大林 尚・上級論説委員の「個人データ把握は怖くない マイナンバー、安心の利器」から。

・・・公権力による個人データの把握をどこまで認めるかという、日本人が議論を先送りしてきた問題をコロナ禍が浮かび上がらせた。二つ挙げる。
まず、一部でようやく始まった10万円の給付。年金生活者や休業補償がある会社員など、収入の途絶と無縁な人にも配るのは、本当に困っている人の特定に多大な労力と時間を要するからだ。各人の雇用形態や所得を公権力がマイナンバーで把握し、番号からそれぞれの預金口座情報をたぐり寄せられれば、真に助けが必要な人はとっくの昔に現金を手にしていた。

次に、マスクの配布を台湾と比べる。日本は厚生労働省が巨額の公費を使って郵送するアナログ方式。台湾はスマホのアプリで在庫データをネット上の地図に公開し、事実上の配給制によって混乱を鎮めるデジタル方式だ。アナログ方式が膨大な無駄を生んだのは、言わずもがなだ。

公権力による個人データの把握をどう考えるかは、人権のとらえ方にあらわれる。人権を自由権、社会権、参政権に分けると、自由権は「公権力からの自由」、社会権は「公権力による自由」に換言できる。カメラの例にあてはめれば、日々の行動を監視されるのはご免だというのが自由権、犯罪やテロを抑止するためにくまなく見張ってほしいというのが社会権である・・・

正規非正規の格差をなくす

2020年5月13日   岡本全勝

5月12日の日経新聞「正社員って何だろう(3)」は「りそなが崩した「正規」の壁 社員区分、事情に合わせ転換」でした。

・・・正社員には支給されるのに非正規の従業員はもらえない。正社員の恵まれた立場を象徴していた様々な手当が「同一労働同一賃金」の名の下に見直されている。それでも正社員と非正規を隔てる溝は容易には埋まらない。りそなグループは過去の危機を契機に、社員の区分を越えて人材を活用する制度を模索してきた・・・
・・・りそなグループの社員は、業務範囲や勤務時間の条件によって▽限定なしの正社員▽どちらかを限定した「スマート社員(限定正社員)」▽どちらも限定したパートナー社員――の3つに分かれる。この春、正社員だけを対象としていた子育て支援手当が他の区分にも拡大され、大学生の息子がいる飯島さんも恩恵を受けることになった・・・
・・・働き方改革関連法の施行に伴い、4月1日から同一労働同一賃金のルールが大企業に適用された。厚生労働省が示した指針を踏まえ、多くの企業はこの春、正社員と非正規の待遇差の見直しに追われた。
りそなグループも社員3区分で差があった手当や休暇制度を見直し、年間20日の有給休暇を「最大80日積み立て可」と統一するなどした。りそなホールディングス人材サービス部の安達茂弘さんは「うちはもともと手当を極力なくしていた。給与明細の項目の多い会社は一つ一つ検討が必要で大変だと思う」と話す・・・

・・・りそなグループでは、スマート社員制度が始まった16年以降、試験と面接を経てパートナー社員300人弱をスマート社員や正社員に登用してきた。育児や介護などの事情で、正社員がスマート社員などに転換することも可能だ。
グループ内の職務等級は一本化されており、社員区分にかかわらず「グレード1の仕事は時給○円、グレード2は○円」という形で給与水準が決まる。この「同一労働同一賃金」の仕組みがスムーズな社員区分の転換を可能にしている。

こうした制度改革の原点は金融危機の中で実質国有化された03年の「りそなショック」に遡る。総合職の男性が大量に退職してしまい、残った社員の能力を引き出すために制度の見直しを迫られた。人材サービス部の安達さんは「長く安心して働いてもらえる制度をつくるということが根本にある」と強調する。グループ内で「非正規」という言葉は使わないという・・・

参考「正社員って何だろう(2)

「感染症と文明」

2020年5月13日   岡本全勝

山本太郎著『感染症と文明ー共生への道』(2011年、岩波新書)と、村上陽一郎著『ペスト大流行ーヨーロッパ中世の崩壊』(1983年、岩波新書)を読みました。
コロナウィルス流行で、関連する書物がたくさん紹介されています。この2冊を選んだのは、村上先生の本はかつて読んで、内容を忘れたので。山本先生の本は、わかりやすそうだからです。

私の関心は、医学的なことより、社会への影響です。その点で、2冊とも概説書、入門書としてはよかったです。
人類の生活の変化がウイルスとの共存を変化させ、疫病の流行をもたらすこと。それが、社会に大きな影響を与えること。戦争では、闘いで死ぬより感染症で死ぬ人の方が多かったことなど。大きな枠組みで、病原体と人類との関係を理解することができます。
ペストの流行がキリスト教への信頼を低下させ、中世が終わりに入ったこと。新大陸になかった感染症を持ち込んだことで、戦う前にインカ文明やアステカ文明が崩壊したこと。新大陸の住民がいなくなったのでアフリカ大陸から奴隷を持ち込んだこと・・・。歴史を変えたことがよくわかります。

しかし、まだわからないことも多いのです。なぜ流行した感染症が消えてしまったのかとか。

9月入学移行

2020年5月12日   岡本全勝

9月入学に移行する案が、議論されています。先進諸国がほぼ9月入学なので、私も賛成です。長所と短所、移行への手続きが取り上げられています。しかし、議論の第一歩は、現行の4月入学を5か月繰り下げるのか、7か月繰り上げるのかです。

今回のコロナウィルスによる休校から、9月入学の議論が始まったようですが、それは5か月繰り下げることを想定しているのでしょう。7か月繰り上げて6歳から小学校に行くのか、5か月繰り下げて7歳から小学校に行くのかは、決めの問題でしょう。
しかし、ようやく新聞でも書かれ始めましたが、先進諸国に合わせるなら、7か月繰り上げる必要があります。5か月繰り下げでは、大学を卒業した際に、就職するにしても大学院に留学するにしても、外国の卒業生に比べ1年遅れになります。

7か月繰り上げるとすると、初年度は新1年生が1.5倍くらいになります。この初年度の教室と教員をどのように確保するかが、課題です。5か月繰り下げても、同様の問題があります。

例えば、5月11日日経新聞、田中愛治・早稲田大学総長の「9月入学課題多く 現場の声聞き、戦略緻密に」。