政治家の資質を語る

10月29日の朝日新聞オピニオン欄、曽我部真裕・京都大学教授の「政治家の資質を語ろう」から。
・・・アメリカ大統領選挙が佳境を迎えている。先月から今月にかけて、大統領候補者同士のほか、副大統領候補者同士のディベートも行われた。その様子は日本でも大きく報じられ、様々にコメントされた。この機会に限らず、大統領候補者は、予備選挙の段階から長期間にわたり、実に多くの機会に国民の視線にさらされ、自らの資質を明らかにすることが求められる。

翻って日本ではどうか。先ごろ行われた自民党総裁選挙で圧勝し、その後首相に就任した菅義偉氏は、就任早々、日本学術会議会員任命問題が生じても記者会見を開かず、その代わりに開かれたと思しき異例の「グループインタビュー」では、下を向いて原稿を読むことに終始する様子が批判された。そもそも首相になってから「たたき上げ」かどうかが論議される有り様であり、要するに新首相は、国民がその来歴や人物像、政治観などをたいして知らないまま最高権力者の座に就いたのである。
直接選挙による選出ではないとはいえ、民主主義国家において、これは戦慄すべきことではないだろうか。

考えてみれば、新聞やテレビ報道で、政治家の資質に関わる情報が伝達されることは少ない。広く視聴される番組で取り上げられるのは、アイドル的人気を博して興味が寄せられる場合のほか、耳目を引く過激な発言をしたり、不祥事を起こしたりした政治家のことなどである。他方、しっかりした討論番組も確かに存在するが、視聴者層に広がりを欠く。
また、新聞ではそもそも政治家、とりわけ今後のリーダーと目される人物にフォーカスした記事が掲載されること自体が稀であるようである。

企業経営者に関しては、ビジネス雑誌等が盛んにインタビューを行い、その来歴、経営哲学、愛読書等々が数多く記事化されるのとは対照的である。もっとも、インタビューは難しい。熟練の聞き手がしっかり準備した上でないと、単なる宣伝の場と化してしまうからだ。
メディア以外に目を向けると、もちろん政党は、人材の発掘・育成、リーダーの選抜に大きな責任を負っている。メディアを含め、外部の目にはどうしても行き届かないところがあり、政党内部の同僚議員からの評価は非常に重要である。多角的で公正、かつ長い目で政治家を育てる姿勢が政党には求められる・・・

参考「最高裁判事の任命

連載「公共を創る」執筆状況

連載「公共を創る 新たな行政の役割」、定例の執筆状況報告です。
第3章1(2)その3の2を、ほぼ書き上げました。今回も、いろんな人の助けを借りました。ありがとうございます。

「その3」では、成熟社会の問題のうち、私生活の変化を取り上げています。「その3の1」で家族の形を書きました。「その3の2」は、自由時間の増加と居場所を議論しました。
成熟社会になって、自由な時間が増えました。それをどのように使うのか、ということです。他方で、地縁、血縁、社縁などの、世間の縛りが緩くなりました。町内会や同業団体に属する人も減り、付き合いも減っています。しがらみから自由になった人は、自分から付き合いをつくらないと孤立します。そして、高齢者の孤独は、大きな問題になります。

書きためた原稿の貯金が、底を突きそうになり、せっせと書きました。
今回も、過去にかじったさまざまな知識を集めました。大村敦志著「フランスの社交と法」、山崎正和著「社交する人間」、パットナム著「孤独なボウリング」など、買ってあった本を引っ張り出しました。忘れていますねえ。買ったとき、読んだときは、このような原稿に使うとは考えていなかったので。でも今回は、本棚からすぐに見つかりました。