年別アーカイブ:2019年

連載「公共を創る」第12回

2019年8月2日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第12回「哲学が変わったー成長から成熟へ 東日本大震災が覆した常識」が、発行されました。
今回からは、東日本大震災という個別の災害対処でなく、それを日本社会の変化や行政の役割の変化という、大きな構図の中に位置づけてみます。

大震災は、私たちが持っていたいくつかの「常識」を覆しました。それは、日本社会の基底で起きている変化を、露見させたのです。
日本は災害列島であること。防潮堤で守り切ることはできず、逃げることも必要であること。防災とともに、減災が重要であること。原発が安全だというのは神話であったこと、などです。

「ヒトラーの時代」

2019年8月2日   岡本全勝

池内紀著『ヒトラーの時代 ドイツ国民はなぜ独裁者に熱狂したのか』(2019年、中公新書)を読みました。帯にあるように、政界デビューから人気絶頂期まで、1925年から1939年までの15年間です。

第2次世界大戦を引き起こし、ユダヤ人の大虐殺を行った「希代の悪人」です。それが、20世紀のドイツに、そして当時最も民主的と言われたワイマール憲法の下に現れます。政治と行政の大した経験もなく、「民主的手続き」で独裁者になります。そして驚くべき蛮行を実行します。
どうして、ドイツ国民は彼を選び、熱狂的に支持し、蛮行に手を汚したか。これまでに、多くの研究や書物が出ています。この本は、新書版という小さな、だから読みやすい形で、分析しています。

なんと言っても、第1次世界大戦後の、ドイツの天文学的インフレ、社会の混乱、そして秩序をもたらさない政府が、ヒトラーの出現を許した背景でしょう。
彼が政権に就いてから、次々と良い政策を行います。インフレの沈静、大量の失業者の解消、社会保障、労働者保護などなど。労働者への旅行の提供、フォルクスワーゲン・アウトバーン・国民ラジオ、そして(格好良い)制服などなど。国民に取り入る政策や文化の数々が紹介されます。それらがなくては、独裁だけでは政権は長持ちしなかったでしょう。
国民への宣伝にも、これまでにない新機軸を打ち出しましたが、宣伝だけで国民の支持を得て、そしてつなぎ止めることは難しいでしょう。
4年で政権を退いていたら(死んでいたら)、ドイツ史上最も偉大な人物として歴史に残っただろう、という意見もあります。

しかし、それら新政策と同時に、異論を許さない全体主義国家、ナチス以外を認めない一党独裁、収容所建設を進めていたのです。彼が発案した、あるいは指導したとしても、それを受け入れ実行した多くの国民がいたからこそ、実現したものです。
それらに手を貸した人たち、また見て見ぬふりをした人たち。残念ながら新書版の大きさでは、それらを望むのは、無い物ねだりですね。

「アルプスの少女ハイジ」

2019年8月1日   岡本全勝

「アルプスの少女ハイジ」って、皆さんご存じですよね。かつて、テレビのアニメでも、ヒットしました。小説を読んだことがない人でも、足の悪いクララが、ハイジに助けられて、アルプスの大自然の中で、歩けるようになったということは知っているでしょう。私も実は、その程度しか知らなかったのですが。

NHK番組「100分de名著」6月は、『アルプスの少女ハイジ』だったのです。私は放送は見ずに、テキストを読みました。松永 美穂著『シュピリ「アルプスの少女ハイジ」』(2019年、NHK出版)です。

紹介に、次のようにあります。
「世界的な人気を誇る日本のアニメ作品が、ゲーテによる教養小説の流れを汲み、19世紀のヨーロッパ社会や宗教観を色濃く反映した原作をもとに作られたことは、あまり知られていない。登場人物の心の葛藤や闇、豊かな宗教性・自然観にも焦点を当て、アニメには描かれていない原作の深淵な魅力に迫る」

両親を亡くし、山のお爺さんに育てられるハイジが、経験を積んで成長していくことが、この物語の一つの主題です。
そして、150年後に読む私たちにとっては、当時の社会を理解する、歴史学として読むことができます。19世紀後半の貧しいスイスの山の暮らし、工業化が進むドイツの都市。そこをつなぐ鉄道ができて、この物語が成り立ちます。それにしても、親を亡くした子供の多いこと。かつては、それが当たり前だったのです。
童話と思わずに、お読みください。松永さんの解説を読んでから、原作を読むと、勉強になるでしょう。

曽我謙悟先生、地方政府

2019年8月1日   岡本全勝

読売新聞文化欄「1000字でわかる」で、7月29日から、曽我謙悟・京大教授の「地方政府」が始まりました。

・・・行政を理解するには、行政のことだけを見ていても十分ではない。政治との関係、住民との関わり合い、民間企業と行政組織の比較、行政が実施する政策が社会や経済に与える効果、これらすべてを見ていくことが、行政の理解につながる。行政学とは学際的な学問であり、そこが魅力でもある。
そうした行政学の見方からは、地方政府という捉え方がしっくりくる。都道府県や市区町村の行政機構だけではなく、知事・市区町村長や議会との関係、そして住民との関係、さらに地域社会や経済との関係を理解するには、地方自治体というよりも、より広く地方政府としてこれを見る方がよい。また、地方政府と位置づけることで、中央政府とセットとして捉えることは、近代国民国家の理解にもつながる・・・

・・・そこでは、中央政府と地方政府の違いは、対象とする社会・経済が広いか狭いかだけではない。つまり、地方政府は中央政府の単なるミニチュアではない。他の地方政府へ移動してしまう人や企業を、地方政府は相手にしてきた。中央政府がグローバル化に直面する以前から、自らの基盤となる住民や企業が移動することについて、地方政府は多くの経験を積んできた。
さらに、現在の行政活動の大半は、地方政府が支えている。日本の地方政府による支出はGDP(国内総生産)の1割強を占め、中央政府のそれの2・5倍にのぼる。地方公務員数は約270万人で、こちらは4・7倍にも及ぶ。
質的にも量的にも、地方政府は中央政府と並ぶ存在だ。地方政府を抜きに、現在の政治・行政は語れないのだ・・・

やればできる。女性の就業

2019年7月31日   岡本全勝

7月31日の日経新聞に「女性就業 残る待遇差 初の3000万人、パート多く 正規雇用や昇進に壁」が載っていました。そこに、いわゆるM字カーブのグラフがついていました。
これは、縦軸に女性の労働力率を、横軸に年齢階級を取ります。すると、15歳から立ち上がったカーブが、30代になるとへこみ、40代で再び上がり、60代から下がります。アルファベットの「M」の形になるのです。子育て期にいったん離職し、子育てが一段落した40代で働き始めるからです。

過去はこのMの形が明瞭だったのですが、近年へこみが小さくなり、台形に近づきつつあります。1979年、1999年、2019年の3年を比較してあります。この間の変化がよく分かります。文章より、グラフの方が一目でわかります。
寿退社や、子供ができたら退職するという「常識」が変わってきたのです。また、子育て中の母親も働きやすいように、保育施設も増やしてきました。

さて、記事が指摘しているように、課題は残っています。
1 女性の職場は、非正規が多いのです。55%で、男性に比べ2倍以上です。全体では30%台です。
2 正社員でも、まだ男性と同じような仕事、昇進ではありません。女性の管理職比率は13%です。欧米では3割から4割だそうです。