トニー・ジャット著『記憶の山荘』

トニー・ジャット著『記憶の山荘 私の戦後史』(2011年、みすず書房)を読みました。著者は、『ヨーロッパ戦後史』で有名です。読みたいと思いつつ、大部な本なので先送りしています。どのような人が書いたのか、気がかりだったので、『記憶の山荘』を見つけて、読みました。

この本は回想録ですが、体験、それもいくつかの物から記憶が広がります。プルーストの『失われた時を求めて』のマドレーヌのようにです。
1948年、ロンドンのユダヤ人家庭に生まれます。物資の乏しかったイギリスの戦後生活から、話が始まります。奨学金を得てケンブリッジ大学へ。ケンブリッジ大学とオックスフォード大学で教鞭を執った後、ニューヨーク大学に移り、アメリカで暮らします。
ヨーロッパ戦後史を書くには、西側だけでなく東側の知識も必要です。その背景が、この本を読むとわかります。

晩年、筋萎縮性側索硬化症にかかり、『記憶の山荘』は、人工呼吸器をつけ、口述筆記されたとのことです。
碩学の回想録、エッセイを、寝る前の布団で読むのは、至福の時です。先達の経験、苦労、考えたことを、(すみません)寝転びながら読めるのです。もちろん、翻訳の場合は、訳文がこなれている必要はあります。