5か月間の成果取りまとめ、今後の作業計画

今朝、官邸で、復興本部会合を開きました(概要)。緊急災害本部や原発事故対策本部と合同です。
これまで5か月あまりの間の、復旧の状況、現在取り組んでいる課題、これからの作業計画を、わかりやすい資料(資料1-1)として報告しました。 基礎数字などは、別冊にしてあります(資料1-1別冊①)。我ながら、よくまとまった資料だと思います。ご利用ください。
私たちの仕事は、国民の皆さんに理解してもらうことが重要です。難しい資料を大量に示しても、読んでもらえませんよね。この資料は、項目を絞り、かつ1ページごとに最初に2~3行でポイントを書いてあります。そこさえ読めば、概要が分かるようになっています。工夫してくれた森参事官、ありがとう。

また今回は、各府省が作成しつつある「事業計画」と「工程表」も、発表しました。港湾や堤防など、インフラの復旧計画です(資料1-1別冊②)。これも、各省が大車輪で作ってくれました。それぞれ、かなり具体的な目標が、示されています。まだ熟度の低い事業は、順次具体化します。
当初、「8月中に取りまとめ、9月に発表する」と言っていましたが、今回の会議に間に合わせました。協力いただいた各省と、取りまとめてもらった上田次長、ありがとうございました。目標より遅れると批判されるのですが、目標より早く達成しても、褒めてくれる人はいませんねえ。

資料1-1のp9には、復興本部の今後の作業計画=何をいつまでにするかを、図にして示しました。これが、私たちがこれから取り組む主な作業一覧です。こうして見えるようにすると、目標による管理になります。今後この図で進行管理するとともに、達成度を評価することになります。復興本部内だけでなく、政府各府省、県や市町村にも共有してもらうことも重要です。もちろん、マスコミや国民の皆さんにも理解していただき、評価してもらえます。

被災地で考える公共哲学・その2

被災地でいろいろ見聞きして、考えたジレンマを、紹介します。既に、新聞などでも、取り上げられている事例です。

(支援物資と地元商店)
被災地には、全国や世界から、たくさんの支援物資が届けられました。これはありがたいことです。ところが、児童生徒に、ノートや鉛筆がたくさん配られたので、地元の文房具屋さんは、商売あがったりになりました。同様に、スポーツ用品店や衣料品店も、売上げが大きく落ち込んでいるところもあるとのことです。
さて、このような場合、あなたが、まだたくさんの支援物資を保管している市役所やNPOの責任者だったら、どうしますか。

(被災者と支援ボランティア)
まだ初期の頃の話です。体育館に避難された人たちを支援するために、たくさんのボランティアが駆けつけました。避難所での物資の搬送と配分、炊き出しなどの作業をしてくれました。一生懸命汗を流しているボランティアの横で、避難者の何人かは、暇をもてあましていたという例が、あったそうです。もちろん、避難者の多くは、心身ともに疲れておられます。しかし、日が経つと元気な避難者もおられ、支援に行った人の中には、釈然としない人もいたとのことです。
さて、あなたがその場にいる支援者なら、どうしますか。

各県の復興計画

国では、7月末に「復興の基本方針」を決めました。東北3県も、復興計画を作成しています。被災市町村も、復興計画の策定を進めています。しかし、国や県の復興方針・計画が考え方や事業の一覧であるのに対し、市町村の計画は、どこまで堤防を作るか、道路はどこに引くか、どの地域は住宅を建てないようにするか、住宅はどこに移転するかなど、具体的に場所と事業を決めなければなりません。
県や国の計画は文章が多くなるのに対し、市町村の計画は地図や事業計画の数字が必要になります。また、市町村が計画を決める際には、住民の同意が必要です。それで、少し時間がかかるのです。
復興本部のホームページでは、このような関係地方団体の情報も、見やすいように提供していきます。田中君ありがとう。

被災地で考える公共哲学

古くなりましたが、8月9日の朝日新聞オピニオン欄で、多田欣一岩手県住田町長のインタビューが載っていました。6月下旬から、被災者を対象とした東北地方の高速道路無料化が実施されました。無料通行には、被災証明書が必要です。住民の求めに応じて、停電や断水だけでも被災証明を出し、全世帯に発行する市町村もでました。その中で、住田町は岩手県内で唯一、「停電だけでは被災証明を出さない」方針を貫きました。以下、町長の発言です。

・・停電は被災ではない、という認識ではありません。ハウス栽培の農家などでは大きな物的被害がでますから当然、被災したことになる。ただ、停電が物的な被害に直結するとは限りません。住田町では、物的な被害があった場合は被災証明や罹災証明を出しますが、それ以外は基本的に証明書は発行しないという立場です。
国が東北の高速道路無料化を制度化したのは、大きな被害を受けた人の復興支援という趣旨のはずです。津波ですべてを流された人と、半日停電しただけで物的被害もない人が、同じレベルで復興支援の恩恵を受けるのは、本当に正しいのかと考えました・・

(同じように停電したのに、住田町だけ出さないのは不公平ではないですか、との問いに対して)
・・今回、無料化された区間は、東北自動車道をはじめ大半が内陸部です。大きな被害を受けた沿岸部の人は、あまり利用することがない。私が公務で高速道路を利用する回数は、1年に3~5回くらいですよ。本当に被災して困っている人は、ほとんど利用せず、わずかな被害しかなかった内陸部の人たちが無料で頻繁に利用している。それはかえって不公平ではないのか・・

(被災証明によく似たものに、罹災証明書があります。これは内閣府に基準があります。これによって、支援が受けられる場合もあります。しかし、被災証明書は、各自治体の裁量に任せられていて、それぞれの市町村で基準が違います。
被災証明にも、国の指針があった方がいいと考えますか、という問いに対しては)
・・それは違うと思います。こんなときこそ、自治体がそれぞれの良識で判断すべきでした。右へならえで全世帯に被災証明を出せば、国の役人に「やはり市町村には任せられない」と言われてしまう。もう少し頑張ってほしかったという思いはあります・・

ごく一部を紹介しました。あなたは、どう考えますか。マイケル・サンデル教授になって、考えてみてください。

日本社会、信頼感の欠如?

8月17日の日経新聞経済教室、ビル・エモットさんの「信頼と連帯感取り戻せ」から。
・・経済学とは、単に統計や方程式を扱う学問ではなく、根本的には人間の行動を研究する学問である。そして人間の行動では、心理的な要素が重要な役割を果たす・・
日本経済、いや東北の経済でさえ、東日本大震災で長期的に影響を被ると予想すべき理由は何もない。問題は、この「長期的」という概念である。この言葉は漠然としているが、重要な意味をはらんでいる。
英国が生んだ20世紀で最も著名な経済学者ケインズは、英国経済は30年代の大恐慌から「長期的には」立ち直るだろうと述べた批判論者に対し、「長期的にはわれわれは皆死んでいる」と答えた。言い換えれば、人の一生は短期間で終わると述べたのである。人間にとっては、数年かせいぜい10年の単位で短期的に起きることの方が、長期的に起きることよりも重要になる・・
(経済の回復について)ともかくそれは、人間心理と、そして国から市町村にいたる共同体の両方にまつわる問題となるだろう。
なぜ心理的かと言えば、震災後初の景気回復を経てから日本がたどる道のりでは、信頼感が決定的な要因となるからである。投資に対する企業の信頼感、将来に対する家計の信頼感である。そしてなぜ共同体かといえば、望ましい未来の実現に向けて何をすべきかの決定は、国か地方かを問わず、共同体全体で醸成されるコンセンサス(合意)の度合いに左右されるからである。そしてこの決定は、信頼感にも影響を及ぼす。
日本で政治が混迷しているのは、このコンセンサスと共同体の連帯感の欠如が原因である・・
大震災に関しては、国民は深い同情の念を共有している。だが、これから何をすべきかについて、何らかの強い感情が共有されているようには見えない・・

ごく一部を紹介しました。原文をお読みください。
私は、日本社会全体の信頼感が薄くなったとは、考えません。政治と経済について、うまく行っている時は国民は信頼する、うまく行っていない時は信頼しない、ということでしょう。学校や教師に対しても、同じです。古人曰く「金の切れ目が縁の切れ目」「苦しい時に分かる真の友」・・。
しかし、その信頼が薄くなると、社会や経済がうまく回らなくなり、さらに信頼がなくなるという悪循環に陥ります。もっとも、「信頼していない」という質問と答が成り立つのは、一定の信頼があるからです。全く信頼していないなら、そのような問いと答は成り立ちません。