三位一体改革49

7日の読売新聞には、青山彰久解説部次長が「中教審、議論迷走」「義務教育国庫負担金で対立、公立校活性化の視点必要」を書いておられました。
「これまでの審議で見ると、論点の一つは『全国的な教育の水準と質をどう確保するか』であり、もう一つは『確実な財源保障をどうするか』になってきた」「だが、この(財源)論点だけでは、『財政再建に迫られる国の負担金制度と、改革が必要な地方交付税制度のどちらが安定的か』という水掛け論になる可能性もある」
「多くの国民が知りたいのは、どちらの方法なら、学力低下や不登校などの様々な問題を抱える公立小中学校がよくなり、現場の学校が活気づくか、という点だろう」
「地方側にしても、分権を言うなら、国庫負担金を地方税に変えるとどんな教育が今以上に実現するのか、最終的に市町村や学校の権限拡大につながる『都道府県内の分権』の制度設計案まで示されなければ、観念的な主張になりかねない」
指摘の通りです。
1 財源議論なら、一般財源化しても問題ない。いいえ、一般財源化すべきです。
負担金護持派の主張は、「交付税総額の先行きが不安」ということです。でも、かつて解説したように、地方財政より国家財政の方が赤字である=国家財政(国庫負担金)の方が心配なのです。
この主張なら、もし水掛け論になっても、国庫負担金を廃止した方がよいのです。なぜなら、国庫負担金をもらうために、あるいは配るために、膨大な人件費と事務費がかかっているのです。負担金制度を廃止すれば、それだけで大幅な経費削減になるのです。
もっとも、文科省は「職員がいらなくなる」から、一般財源化に反対しているのすが。
2 負担金がなくても、教育水準は変わらない。
どうやら、この点は理解されてきたようです。国庫負担金がない高等学校が、問題なく運営されていることについて、中教審の委員の方々は反論されませんね。
3 地方は、国庫負担金がなくなったら、今以上に教育がよくなることを示すべき。
そうです。一般の人が、三位一体改革を理解しにくいのは、「教育がこれだけよくなりますよ」という、説明が足らないからでしょう。
もっとも、1で述べたように、教育が今まで通りであっても、事務費と人件費が減って、日本にとってはプラスなんです。(6月7日)
月刊「地方財政」(地方財務協会)6月号に、遠藤安彦元自治事務次官の講演録が載っています。前に紹介した矢野浩一郎さんの講演の続きです。バブル期前後から現在までの交付税の歴史を語っておられます。交付税に関心のある方は、必読です。議論のある事業費補正についても、拡大のいきさつなどを知ることができます。私は、交付税課補佐として、財政担当審議官である遠藤さんにお仕えしました。
また、同号には、青木宗明神奈川大学教授が、フランスの地方分権を日本と比較して考察しておられます。「ともに単一制の国家形態をとりつつ、中央集権と官僚主導の代表国家、ワールド・チャンピオンとして名を馳せた末に、今や地方分権に向けた改革を進めている」「ところが、内面を凝視すると、両国の状況はまったくといって良いほど異なっている」「フランスからみて、昨年夏に我が国で繰り広げられた補助金削減をめぐる騒動はまったく理解できない。一国の総理大臣から要請され、地方が苦労の末に削減案を取りまとめたにもかかわらず、最終的には地方の意に反した政府決定がなされるというのは、フランスでは想像すらできない事態なのである」。
その他、井手英策横浜国大助教授の「義務教育費国庫負担金制度をめぐる政策論争史」、平嶋彰英地方債課長による「最近における憲法論議と地方自治、地方財政」なども載っていて、内容が濃いです。(6月13日)
「骨太の方針2005」の策定作業が、行われています。昨年この時期には、「3兆円税源移譲目標を書き込むか」が大争点になりました。また「補助金削減案は地方団体に考えてもらう」という「小泉・麻生ウルトラC」が提案され、すごく盛り上がりました。去年と違い、今年は地方財政・三位一体改革については、争点になっていません。
記者さんたちが、残念そうに「今年は静かですね」と、愚痴を言いに来ます。彼らは「記事を書いてなんぼ」ですから、活躍した去年が懐かしく、今年は力のふるいようがないのです。
今年が静かなのは、三位一体改革の目標数値は昨年すべて決めたこと、また18年度までの「全体像」を去年11月に政府与党で決め、実行中だからです。もちろん、全体像には積み残し(残る6,000億円の補助金廃止、義務教育国庫負担金の扱い)がありますが、これも別途作業がされているので、今回は新しく書き込むことがありません。
もっとも、三位一体改革は、地方団体が「口やかましく騒がないと」前に進みません。静かになって、先送りできたら、守旧派の勝ちですから。その点について、記者さんたちはみんな心配してくれています。「こんなに静かだと、火が消えますよ」。「6団体は何をしているんでしょうか」と。(6月14日)