三位一体改革8

16年度の動き
麻生プラン
4月26日 麻生大臣「三位一体改革のプラン」麻生プランを発表。
17年度と18年度のポイントは、
①所得税から個人住民税への税源移譲(3兆円)の先行決定
②残り3兆円の国庫補助負担金改革
③17年度の一般財源(地方税・地方交付税等)総額を前年度と同水準に、です。
基本的方向は、「地方が元気になる改革」「地方の自由度を拡大する改革」「自主財源(地方税等)を拡充する改革」です。政府案になるには、紆余曲折があると思います。しかし、改革は止まることなく進むと思います。新聞報道、特に反対派の論議を、注目していてください。
財務省の反対
今日の各紙朝刊に、麻生プランと昨日の諮問会議概要が大きく載っていました。諮問会議のHPにも、資料が載りました。私の見た限り、財務大臣だけが反論されたそうです。
①税源移譲は、既に16年度対策で決定されたことです。3兆円を18年度までに決定することに、なぜ財務省は反対するのでしょうか。もし、その金額に達しなかったら、地方税を国にお返しするとまで言っているのに。
②17年度の一般財源総額を、16年度並みにするということについて。財務省は、「それでは地方行革が進まない」と言っているようです。
では、質問します。16年度の改革に地方から不満が出たのはなぜでしょうか。それは、今回の地方歳出削減が厳しかったからです。麻生大臣は、「日本の財政は危機的状況にある」と言っています。また、民間経営者出身です。歳出カットは、今後とも続けると表明しています。来年度も、カットは続くでしょう。その場合、一般財源は減らさず、借金である地方債が減ることになるでしょう。
16年度予算において、麻生大臣と地方団体はこれだけ歳出カット・財政再建に貢献しました。財務省と国家予算は、何をどれだけ削減されたのでしょうか?(10年前のバブルで税収が増えた時も、地方はそれまでの特例借金を返済し、大蔵省は赤字国債を返済しなかったんですよね。それで今になって、「国の方が借金が多い」と言っておられます。)
新聞記事では、「総務省と財務省の戦い」と、いつものように議論を「矮小化」する記事もありました。記者さんもデスクも、もう少し勉強して欲しいですね。地方分権を進めたいのか、そうでないのか。もし、このHPが健在なら、2~3年後に、もう一度記事を読み返して検証しましょう。そのためにも、記事は署名入りで書いて欲しいですね。(4月27日)
改革の評価
麻生プラン」について、の続きです。私は、次のように考えています。
改革が評価されるためには、もちろんその内容が良いものである必要があります。しかし、それだけでは十分ではありません。
①まず、スピード感が重要です。時間をかけていては、国民の支持を受けることは困難です。決めたら、さっさと実行すべきです。
②もう一つは、シンプルであること=わかりやすいことです。骨太である方が、わかりやすいですよね。変な小細工や妥協をしないことも重要です。
もちろん、改革が国民に理解され、支持されることが必要です(しかし、改革は多くの場合痛みを伴うので、全員の賛成を得ることは難しいです)。その他に、これらが欠けていると、せっかくの改革も、国民の評価が低くなります。
今回の麻生大臣提案は、①スピード感については、良いと思います。2月に地方団体から不満が出て、4月に対応しています。また、これから「骨太の方針2004」が決まります。早くこれを政府の方針と決定し、地方団体を始めとする関係者を、安心させるべきでしょう。また、7月には参議院選挙もあります。ここからは、政治の世界ですが。
②わかりやすさについても、良いと思います。かつ、かなり骨太だと思います。みなさんはどう思われますか。(4月28・29日)
新聞記者の予想
今日は国会がないので、課長室で資料整理をしました。何人かの記者さんが訪ねて来られて、麻生プランについて議論しました。「麻生大臣は、この案にかなり力が入ってますね」「財務省が反対しているけど、麻生プランは実現するでしょうか?」と尋ねられました。
彼らと議論した結論は、「財務省が代案を出さない限り、これで行くしかない」でした。
「財務省が、『たとえば××補助金を1.5兆円を削減する』と、具体的な補助金名を挙げれば、財務大臣の言うように補助金削減が先行するんですよね」「財務省は、補助金名を挙げないでしょうねえ。それができるのは財務省だけなのに」
「でも、反対だけじゃあ、総理も困るでしょう」「諮問会議で、他に大きな玉がないから、これが進むかは焦点ですよ」
「17年度の一般財源を前年度並みにすることに、財務省は反対しているけど、地方税収が増えれば、赤字地方債と交付税の特例加算分が減って、国も助かるのに」
「それでも、財研(財務省記者クラブ)の記者は、財務省寄りの記事を書くんですよね」「財務省は、強力に根回ししますよ」「麻生プラン実現のために、総務省はさらに汗をかかないと」などなどでした。(4月30日)

自治制度改革の方向

自治研究」5月号(第一法規)に、久元喜造総務省行政課長が、「地方自治制度改革の方向と展望」と題して、論文を書いておられます。今国会に提出している地方自治法改正を中心に、その背景や今後の方向についてつっこんだ議論をしておられます。
課長の視点は、これからの制度改正は、「単なるパッチワーク的な制度改正の寄せ集めではなく、地方自治制度の改革ともいうべき大きな流れになっていく」「小石をいくら積み重ねても岩にはならない」というものです。
私も大賛成です。これまでの自治制度の議論は、改正結果と制度の解説で、将来方向が見えませんでした。関係者の方に、これに続く論文を期待します。

休日

今日は、総理主催の「桜を見る会」(新宿御苑)にお招きを受け、夫婦で出かけました。総理は、ご機嫌よく挨拶をしておられました。大変な「人出」で、とても近くにまでは行けませんでした。八重桜がきれいでした。小生は、知人や先輩ご夫婦の写真機のシャッターを押す係りを務めてきました。

新刊:交付税の資料

平成16年度版「地方交付税のあらまし」(地方財務協会、税込み800円)ができました。地方交付税制度と地方財政の仕組みを解説した図表・資料集です。三位一体改革についても、最新の資料を盛り込んであります。
元々は、10数年前に私が交付税課の課長補佐をしていたとき、講演や講義・国会議員への説明に使う資料を整理して印刷してもらったものです。その後、充実して現在のかたちになりました。毎年度4月の始めに出版しています。「わかりやすい、最新の資料」だと自負しています。ご利用ください。

三位一体改革7

4 これで地方の自由度は高まるのか。
(答)
「地方団体の自由度」には、二つの軸があります。
一つは、お金の自由度(縛り)軸、すなわち、「国庫補助負担金で国の縛りがある」か「一般財源で地方が自由に使える」かです。
二つは、仕事の自由度(縛り)軸、すなわち、「国による法令の縛りがある」か「法令の縛りがなく、地方が自由に仕事ができる」かです。
一般財源化すると、地方団体は国に対して補助金の申請をしなくてよくなり、結果についての国による検査もなくなります。その財源は、地方税か地方交付税あるいは一般財源としての交付金となるので、国の指図無しに自由に使うことができます。
しかし、その事務の仕方が地方団体の自由になるかは、別のことです。義務教育職員給与費の国庫負担金がなくなり、地方税に振り替えられても、教職員を設置する基準を定めた法律がある限りは、地方の仕事の自由度は高まりません。
今回の公立保育所負担金一般財源化の場合は、これまで国庫負担金の対象とならなかった、基準に満たない小規模・駅前保育所も財源措置の対象となり、市町村はやりやすくなります。これは、①の自由度です。
しかし、②については変化ありません。本当に自由に仕事をするためには、法令の縛りをなくす必要があります。三位一体改革その3参照
5 今回の改革で、廃止された補助金に見合うだけの一般財源が与えられない地方団体がある。また、税源移譲が進むと、都会と地方との財政格差は広がるが、どのように対処するのか。
(答)
所得譲与税は、人口で配分します。全国では、廃止する補助金総額と新たな一般財源総額は一致させるとしても、個別の団体では、補助金廃止に見合うだけの所得譲与税等が与えられない地方団体も発生します。これらの団体では、不足する分を交付税が補てんすることになります。
一方、所得譲与税等が、廃止された補助金額以上に来る団体にあっては、その分だけ交付税が減ります。「損得」はない仕組みになっています(法律ができるまで3で麻生大臣がパネルを使って説明しているのは、このことです)。
今後、税源移譲が進むと、地域間の税収格差・財政力の差は広がることがあります。それに対処するためには、
まず、なるべく地域に偏在しない税源を移譲します。現在提唱されている「住民所得課税の一定税率化」は、法人課税に比べ所得課税は偏在度が少ないこと、累進制から比例化にすることによって、偏在度が緩和されます。この他、地方消費税も偏在度が小さいです。法人課税の地方団体間での「分割基準」を見直すことでも、偏在度は小さくできます。
それでも解消されない分は、地方交付税制度で調整します。さらに、地方交付税で財源調整できない不交付団体については、譲与税や国庫補助金の譲与制限・交付制限などが考えられます。
6 歳出削減は、どこまで進むのか。
(答)
今後の地方団体の歳出は、国の基準があるものにあっては、各年度の国の予算編成によって決まります。また、それ以外のものは、地方財政計画の策定を通じて決定されます。
当面、「骨太の方針」では今後3年間で、地方公務員数は4万人削減・一般行政経費は前年度以下・投資単独事業はバブル期前に戻すこととしています。
さらなる予測は、三位一体改革その5参照
7 財源保障機能と財源調整機能は、縮小するのか。特に、財務省は財源保障機能の廃止を主張しているが
(答)
わが国の行政の仕組みを前提とすると、両機能は廃止することができません。すなわち、国が地方団体に多くの事務を義務付けているいること。一方、地方団体には十分な税源が与えられておらず、また地方団体間に税源の偏在・財政力格差があることから、財源保障機能と財源調整機能は、両方とも必要があるのです。
国が地方団体に事務を義務付けておきながら、十分な財源措置をしないことは、許されないのです。「独自課税で賄えばいい」という主張もありますが、現状の税制では、とても十分な額は確保できません。
ただし、地方団体へ義務付けた事務が縮小することによって、財源保障の範囲は縮小します。(4月10日)