ライバルたちの正体判明する

金属の盾まで齧ってしまうオソろしい食欲。ニンゲンわざではない地仙ちゃんの能力を見咎めたのは、地仙ちゃんと最後まで争っていた金陵代表の元青霞女史でした。
表彰式の最中に寄ってきまして、じっと地仙ちゃんを見つめていたのですが、やがて、「なんだ、よく見たら精霊の地仙ちゃんだったのね。それなら勝てなくて当然だわいな」と言ったのです。
それを聞いた先生は大慌てです。(注:「読書人」はひとを批判することは得意ですけど、批判されることには弱いのです。)
「あわわ、地仙ちゃん、ニンゲンでないことがバレちゃったよ・・・」
「うふふ。ちんぱい要らないの」
優勝盾を抱えた地仙ちゃんは余裕綽々でして、元女史もにこやかに、
「ダイジョウブよ、わちきは大食いができるので変装して参加しているけど、泰山にまつられている道教の女神「碧霞元君」なのでありんすわいな」と答えたのです。なんとメガミさまだったのです。
「それに三位の能大黒もニンゲンではないのでわいな」
能大黒が元君サマに勧められて、地仙ちゃんにアイサツしました。
「そうでがす。おいらは秦嶺のクマなのでさあ。ほかに唐老人もニンゲンのふりしてますけど、もともとは三百歳のフルダヌキ。参加者の中にニンゲンはほとんどいやせん」
 なるほど。みなさんの回りでもニンゲンとは思えないほど食べるひとがいると思うのですが、そういうひとはニンゲンではないと思った方がいいかも知れません。
先生もなんだか納得しています。
「さすがですね、①「能」は、水中の貝類とか虎だとかの説もあり、またクマという説もありますが、いずれにせよすごい能力を持つドウブツのことだったようで、「能力」とか「可能」とか「(ナニかが)できる」ことを現す文字になったのです。

現在「クマ」のためには、下に四点のついた②「熊」という字を使いますけど、コレも「能」というすごいドウブツに「火」を加えた字で、何か呪術的なモノが背景にあるのかも知れません。
クマは左手で身体を支えて、右手でいろんなモノを持って舐めるので、クマの右のてのひらは色んな味が染みついてとてもおいしいらしく、「熊 」(ユウバン)と言って中華料理の最高の食材とされています。
「春秋左伝」に、楚の王様が謀反を起こした太子に監禁され、「最期にナニかひとつだけ希望を聞いてあげましょう」と言われて、「それでは「熊 」を食べさせてくれ」と言ったというハナシが載っています。王様は結局、食わせてもらえずに自殺してしまうのでして、それほど貴重なモノだったようですね。
ちなみに「状態」「態度」の「態」の字も「能」を使っていて、「ワザと」と訓じるが、これは「能」というドウブツが内面ではワルなのに外面だけは飾っていたためだといいます」
紹介された能大黒は、奥山育ちで根が純朴なタイプなのでしょう、「へへへ、内面がワルで外面を飾っているなんて、まるで都会のコギレイな方のような・・・おホメに預かりまして光栄でございやす」とアタマを掻いて照れています。
しかし地仙ちゃんは、その能大黒の右手を興味深そうにじっと見つめています。これはナニかおいしそうなモノを見つけたときの目です。キケンですよ~。