とても丈夫な歯のコは何でも食べられる

手に汗握る熱戦の末、ついに、「も、もうダメじゃわいな。降参ですわいな」と前年優勝者の元青霞さんがおハシを投げ出しまして、「おお」と観衆から声にならない声があがります。元女史は四十四杯めの親子丼を食べ終わったところでの降参です。食べ残しをしなかったところがさすがというカンジです。
「いや、これはすごかった」「あのコドモが勝つとは」
みんながすごい闘いの余韻に浸っている中、地仙ちゃんが四十五杯目を食べ終えて、「お代わり~」とドンブリを差し出しました。
「あ、あの、もう食べなくてもいいのですが・・・」
「もっとクイたいのー」と言いながらドンブリをお箸でチンチンと叩いていますが、お代わりはもらえません。
「まだ食べられるのに~。・・・ではコレでも食べてちまいます」とドンブリをがじがじと五分の一ぐらいかじってしまいまして、「これは硬いタベモノなの」と言っています。
「ああー、高価なドンブリを歯でかじってしまうとはー!」大会役員はびっくりして付き添いの先生の方を見ました。
「な、なんてコなのですか・・・」
「ホントひどいんですよ。この間は船板もカジってしまったし、わたしの大事な骨董品や書物もあちこちカジられているのです。よっぽど歯が丈夫なんでしょうね。
えー、「歯」という文字は、今はハコの中に「米」が入ってますけど、むかしの字①はハコの中に「人」字形のマークがいくつも入っていたのです」と先生は、勝手に解説にスリカエました。地仙ちゃんも耳ざとく聞きつけまして、「やはりニンゲンを食べていたころのナゴリと申セルの?」と興味深そうです。

「いや、残念なことにニンゲンではなくて、(ア)を見ればわかるように、もともとは歯の形をかたどったと思われる山型が並んでいたんだ。この点線の中の文字は(ウ)から(イ)(ア)、そして①へと新しくなってくるのだけど、(ウ)の字を見ると、歯の象形文字であることがよくわかるね。なんだかスカスカになっていていわゆる「抜歯風俗」(健康な「歯」を抜いて一定の年「齢」になった証拠にする風俗)のせいかも知れないし、ムシバのせいかも知れない。
②の文字は「ウ」と読んでムシバのことなんだけど、これも大昔の(オ)まで遡ることができ、ニンゲンがムカシからムシバに苦しんでいたことがわかる。(オ)は(ウ)の歯の上にニョロニョロしたムシがいて歯を傷めているスガタだね」
もう会場では表彰台が準備されています。どーん、と花火が打ち上げられ、表彰のセレモニーが始まりました。
「これは食べられるの?」地仙ちゃんは並べられていた優勝賞品の盾にもガブリと噛み付いて大会役員を慌てさせています。