持田先生・続き

3 小さな政府・大きな政府論
GDP比で測ると、日本は国民負担では小さな政府、歳出では中規模の政府になります(差は、借金)。大きい小さいは、国際比較です。(財務省の資料をご覧ください)
でも、子供のいる家庭に給付金を出せば、それだけ全体の財政がふくらみます。同じ金額を各家庭に減税すれば、全体の財政規模は小さくなります。効果は同じでも、手法によって、財政規模は変わるのです。
もう一つの例を、出しましょう。自賠責保険です。自動車事故に備えて、強制加入になっています。でも、実際の保険は、民間会社に任せています。政府がしているのは、法律で強制することと、無保険者が起こした事故についての補償です。国が保険を直営するより、はるかに歳出規模は小さくなります。
それはさておき、行政学にこの議論を広げれば、単に財政規模の大小ではなく、「範囲」と「程度」と「効率」の議論になります。
政府がどのような問題まで引き受けるかが、「範囲」の問題です。かつて、高齢者の介護は、家庭の仕事でした。その後、福祉として介護サービスを導入し、さらに2000年には公的保険制度にしました。これで、政府の仕事は増えました。以前より、大きな政府になったのです。
次に、どの程度まで介護サービスを提供するか、これが「程度」の問題です。もちろん、サービスを手厚くすれば、負担も増えます。そして、大きな政府になります。
さらに、「効率」の問題があります。同じサービスをするのに、自治体が直営するのか、民間委託にして、安くあげるのかです。ごみ収集や学校給食など、市町村の直営と民間委託とでは、コストに2倍の差があると報告されていました。
もう一度介護を例に出すと、昔は行政が直営し、ホームヘルパーは公務員が多かったのです。しかし、介護保険導入に際し、介護される人が、民間サービスを選ぶ形にしました。
かつての「小さな政府論」は、行政改革としての効率化、多くは民間委託の推進でした。しかし、それは、今の議論で言うと、最後の「効率」の話です。
私は、これからの政府と自治体は、「引き受ける範囲は広いが、効率的でスリムな政府」になるべきと考えています。
4 地方交付税制度による「所得再分配」機能
先生は、次のように書いておられます。
「・・日本では、大都市と地域、また近代部門と農業などの伝統部門との格差が大きい。このため所得階層間ではなく、むしろ地域間、産業間を基準にした再分配のウェートが高い。地方財政調整制度によって、ナショナル・スタンダードでのサービス供給の財源が保障されている・・」
指摘の通りだと思います。
地方交付税制度は、自治体間格差だけでなく、結果として個人間の格差も調整してきました。生活保護などは直接、学校教育などは現物給付として、公共事業産業振興は雇用を通して間接的にです。
この点に関して、私はかつて、地方財政制度(補助金と交付税)の機能として、「地域間再配分と国民間再配分を分けて議論すべき」と発言したことがあります。(パネルディスカッション「都市対地方:財政、公共事業、一極集中の是非をめぐって」日本経済学会2004年度秋季大会)
(この項続く)