カテゴリー別アーカイブ: 図書紹介

地方行財政-図書紹介

柴田先生他『地方自治論入門』

柴田直子・松井望編著『地方自治論入門』(2012年、ミネルヴァ書房)を紹介します。著者から贈って頂いておりながら、紹介するのを怠っていました。すみません、砂原君。
本書の特徴は、「住民の視点」から、地方自治体の仕組みを解説したことでしょう。目次を見ていただくと、それがわかります。
第Ⅰ部、住民(住民と住民組織、選挙と代表、参加と統制)
第Ⅱ部、制度(議会と執行機関、市区町村と都道府県、自治体と国)
第Ⅲ部、経営(地方財政と予算管理、地方公務員制度と人事管理、組織・権限と機構管理)
第Ⅳ部、政策(政策体系と政策過程、政策設計と政策実施・評価、政策法務と条例)
これまでの入門書は、制度の解説が多かった、特に国と地方の関係から始めるものが多かったのに対して、この本は住民から始めています。住民、制度、経営、政策という4つの章立てが、地方自治をバランス良く解説していると思います。良い入門書です。

地方自治や地方行政の解説書も、たくさんの本が出版されています。読者を誰に想定するか、切り口をどのような角度に設定するかによって、違ってきます。
かつて私が書いた『新地方自治入門-行政の現在と未来』も、制度の解説書ではありませんが、日本の地方自治が果たした機能と成果や、果たしていない問題点と課題を論じたものです。地域と自治体の課題が何であり、誰がどのように解決するかといった、問題指向のものでした。
制度設計や政策立案、そして現場での実践に参画している官僚として、単なる解説でなく、成果と課題、そしてその対策を書きました。読者も、主に地方公務員や地方議会の議員を想定していました。先に紹介した本は教科書ですが、私の本は論争のための本という性格も持っていました。
出版してもう10年、古くなりました。時間が経つのは、早いです。この間に、何が変わって、何が変わらなかったか。それを振り返る必要があるのですが。時間がないのと、私の仕事と関心が他に移っていて・・。反省。

地方分権改革の政治学、アイデアの実現過程

木寺元・北海学園大学准教授が、『地方分権改革の政治学―制度・アイデア・官僚制』(2012年、有斐閣)を出版されました。
本書は、2つの視点から、読むことができます。
1つは、地方分権改革です。戦後長らく安定的に(大きな改革なしに)推移してきた日本の自治制度が、1990年代以降、分権改革として変貌しました。その一連の分権改革(機関委任事務制度廃止、三位一体改革、出先機関改革、義務付け枠付けの見直しなど)が、どのような過程で実現したか、またしなかったかが、まとめられています。それぞれの改革については解説書がありますが、これらを一連のものとして、また実現しなかったものも含めて解説したものは少ないと思います。これは地方行財政学の範囲です。
もう1つは、いくつもの改革の中で、なぜあるものは実現し、あるものは不十分なものに終わったのか。これを「アイディア」という概念で説明します。行政学者や財政学者たちが提唱する改革の「青写真」は、それ単独では実際の改革に結びつきません。いくつもの改革案のうち、政府内部の意思決定過程を熟知する「主導アクター」(本書では官僚制)に受け容れられた「アイディア」だけが、実際の制度改革に結びついていくプロセスを、説明します。これは政治学・行政学の範囲です。
改革が実現した場合、あるいはしなかった場合を分析する際には、主体(担いだ人・グループ)、抵抗勢力、世論の支持、検討の場といった「権力(利益を含む)の過程」と、アイデアの善し悪し、時代の要請など「政策からの分析」があるでしょう。本書は、近年注目されている「アイデアの政治」を枠組みに、それを精緻にして、改革実現・失敗過程を分析します。(砂原庸介准教授による紹介

地方自治、行政改革にご関心のある方に、一読をお勧めします。今後、改革を進める際にも参考になります。
ところで、分権改革がこのような検証の対象となるのは、学者、官僚、自治体、マスコミなどの「政策共同体」があって、そこで改革のアイデアが出て、さらに審議会など場を経て、実現・実現しない過程が見えるからです。これらの「場」がない行政分野では、過程が見えにくく、検証しにくいです。
木寺准教授は、私が東大大学院に出講していたときの、塾頭3羽ガラスの一人です。本書あとがきで、過分なお褒めを書いていただき、こちらが恐縮しています。

砂原先生の新著、大阪・大都市論

砂原庸介大阪市大准教授が、『大阪―大都市は国家を超えるか』(2012年、中公新書)を出版されました。ご本人による紹介は、こちら
「大阪」という表題がついていますが、大阪の文化や歴史を紹介したものではありません。大阪(市と府)を対象とした、都市政治論、日本の地方政治行政論です。いくつかの対立軸を立てて、歴史的にそして構造的に大都市論を展開します。
市の中では、都市全体の利益を追求する立場(市長と都市官僚の論理)対個別の利益を追求する立場(議員と納税者の論理)。地方(広域圏)においては、都市の利益を追求する立場対周辺部を含めた全体への均てんを求める立場。それは、国家の立場からは、都市の独自利益追求をどこまで認めるか(分権対集権)という対立になります。これが、副題の「大都市は国家を超えるか」になります。
大阪という、東京に対抗しなければならない宿命を背負った大都市が、どのように発展し、挫折してきたか。丁寧に開発論の歴史を解説し、他方で日本の地方制度論の中に、位置づけています。この流れの中で、橋下市長の「大阪都構想」が分析されています。
新書とは思えない、大きなテーマと重い内容を持った本です。引用文献や注を見ていただくと、学術論文であることが分かります。他方、切れ味よく、歴史と現在を分析することにも成功しています。さらに、市長と議会との対立をどのように乗り越えていくかなど、現実的な提言(学者や扇動家にありがちな抽象論でなく)も書かれています。
事実を丹念に追い、それを大きな流れの中に位置づける。大阪市だけでなく大阪府との関係を見る。そして、日本の地方制度論・分権論の中に位置づける。大変な労作であり、鋭い視角と大きな視野を持った論文です。今後の都市論、地方制度議論に、必須の文献になるでしょう。
この分野において、若きすばらしい研究家が生まれたことを、喜びましょう。
もちろん、大阪と関西の復権のためには、都市制度論だけでなく、その基盤となる経済の復活が必要です。そのためも、制度を運用する行政機構にとどまらない、経済界とともに10年後を見据えた政策を打てる首長と都市官僚が必要です。東京にあっては、この要素を考える必要がありません。大阪の宿命と大阪市・大阪府の課題はそれでしょう。
砂原先生は、大阪だけでなく名古屋などの大都市も含めて、「従来の「国土の均衡ある発展」という理想の実現が難しくなる中で、経済成長のエンジンとなる大都市をどのように扱うべきかを考える」とも述べています。
そこに、国家対大都市、集権対分権を超えて、日本政府(国家)もまた、大都市を生かした日本国家の生き残り戦略を、考えなければなりません。卑俗な言い方をすれば、「金の卵を産む大都市をどのように育てて、世界と勝負させるか。そしてその利益を、国内に均てんさせるか」でしょう。

小西先生の新著

小西砂千夫先生が、『地方財政のヒミツ』(2012年、ぎょうせい)を出版されました。
「ヒミツ」とは刺激的な表題ですが、秘密と思われることがそうではないことを、わかりやすく解説しておられます。
・・書名を「ヒミツ」としましたが、本当はヒミツではありません。それらは全部、法律に書かれていることだからです・・あえて学ぼうとする人が少なかったことで、ヒミツのようにみえてしまうということです・・(pⅰ「スタディガイド」から)。
ここまで、わかりやすく書けるのは、先生が研究者としては希有なくらいに(失礼)、制度を熟知されているからです。
先生は、次のようにも書いておられます。
・・地方交付税制度にはあまりに誤解が多く、その誤解の上で多くの批判がなされ、それが世間的な評価を左右して、いかにも正論のように見えて・・
・・本書が明かそうとする「ヒミツ」は、法律の背景にある地方財政に関する統治の知恵である。一見して複雑すぎるしくみであっても、そうせざるを得ない理由がある。ヒミツのほとんどは、制度運営にかかわる技術的理由、つまり「そうとしか運用できない」に起因することに、どうか気がついていただきたい.わざと複雑にしているという猜疑心をもっていると、理解が十分に深まらずに、制度運用の本当のおもしろさを感じることはできない・・(あとがき)
入門書としてだけでなく、各制度の意義と機能を理解するには、もってこいの本です。
本来、総務省の担当者が書くべき本でしょうが、最近、出版されていませんねえ。私の本も、古くなりました。元担当者として反省するとともに、ここまで書いていただける学者が出てきたことを喜びましょう。

木寺准教授、地方行財政の解説書

木寺元・北海学園大学法学部准教授らの手による『地方自治の法と行財政』(藤巻秀夫編、2012年、八千代出版)が出版されました。
地方行政に関する書物はたくさんあるのですが、この本の特徴は、法・行財政の基本的仕組みと、現在の課題を、あわせて全体を理解できるようにしたことです。たしかに、法制度と現場の実践的課題は、これまで多くの場合、別々の本で解説されていました。大学生、自治体の職員、地方議員には、便利な1冊だと思います。