カテゴリーアーカイブ:行政

基準値も決められぬ国

2023年6月30日   岡本全勝

朝日新聞に連載された「語る 人生の贈りもの」、環境工学者・中西準子さんの第13回は「情けない、基準値も決められぬ国」でした。第7回は「助手の研究と発言を止めようとする教授」。

リスク管理には二つの異なる考え方が同居しています。ある許容値(閾値〈いきち〉)以下なら安全だとする考え方と、許容値がなくリスクをゼロにしなければならないという考え方です。前者は食品の安全性など、後者は事故や災害、病気などにつながる放射線や発がん性物質に適用されます。ただ、リスクをゼロにしようとすると社会経済活動が止まってしまう場合があり、リスクに対するベネフィット(利益)を見極め、この程度のリスクは仕方がないと決める必要がある。でも、国がその基準値を決められずにいるのが事故後の日本です。

除染作業は長期化し、費用もかさみました。残念ながら帰還者は限られ、うまくいったとは言えません。失敗の原因は私が見るところ、数値目標の議論が迷走したことにあります。国は当時、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告を根拠に、当面は年間追加被曝線量20ミリシーベルトが目標で、長期的には1ミリシーベルトを目指すと説明しました。私は、20ミリよりも低く1ミリより高い現実的な目標値を設定すべきだと考え、13年に日本学術会議のシンポジウムで5ミリシーベルトを提案しました。

住民の多くが早く帰還し、新しい生活を始めるという大きなメリットが得られるなら、ある程度のリスクは我慢した方がいいのではないか。2年以内に帰還できるのは、例えば2・5ミリシーベルトを目指せば約8万6千人(2010年国勢調査)中3万人でしかないが、5ミリシーベルトなら約7万人になる。リスクがさほど大きくない範囲で避難者の「時間」を少しでも取り戻したいと考えました。でも、誰も声を上げませんでした。「勇気がありますね」と言うだけ。がっかりしました。
海外の基準に頼り、日本独自で決めて国民にリスクを説明することができない。しみじみ情けない国です。

自治体のツボ

2023年6月24日   岡本全勝

久しぶりに、ブログ「自治体のツボ」を紹介します。「2020年自治体のツボ

相変わらず精力的に書き続けています。全国各地の地方行財政に関する話題を、丹念に拾っています。これは、かなり労力が必要でしょう。
話題に対する意見も、積極的で、辛口なものも多いです。かなりの専門家とお見受けします。自治体関係者には、役に立つことがあると思います。

記事についている写真も、楽しみです。記事とはほとんど関係なく、食べ物が多いようです。

子供の付き添い入院、過酷な環境

2023年6月24日   岡本全勝

6月6日の日経新聞医療・健康欄が「子供の付き添い入院、過酷な環境 保護者の実態調査」を報じていました。

・・・子どもが入院する際、保護者が病室に泊まり込んで世話をする「付き添い入院」をめぐり、支援団体が調査したところ、食事や睡眠が十分に取れないなど、負担が重い環境に置かれている実態が浮き彫りになった。体調を崩したり、離職を余儀なくされたりする懸念があるが、対策は進んでいない。子どもの治療や療養に影響が出かねないとして、家族を心身両面で支える仕組みづくりを求める声が上がっている。

「ただ耐えるしかなかった」。6歳の息子が白血病を患った東京都の40代女性は2020年4月以降、計約2年にわたった付き添い入院をこう振り返る。
新型コロナウイルスの感染対策が強化された時期と重なり、病院側のルールで外出だけでなく、家族と交代することが禁止に。食事は院内でおにぎりなどを購入することがほとんどで、「満足に取れず、気がめいった」という・・・

・・・「孤独だ」「疲れている」。入院した子どもを抱える家族を支援する東京都のNPO法人キープ・ママ・スマイリングには切実な声が相次ぐ。
自身の経験から支援している理事長の光原ゆきさんは「子どものつらい状況を目の当たりにして苦しいなか、過酷な環境に置かれている」と強調。実態を明らかにするため、22年11〜12月にアンケート調査を実施し、経験者約3600人から回答を得た。
1日公表した調査結果は、寝食がままならないなど疲弊している実情が浮かび上がった。
世話やケアに費やした1日あたりの時間は「21〜24時間」が25.5%で最多。「15〜18時間」(12.7%)と続いた。
睡眠は不足しがちで、寝床は「子どもと同じベッド」が51.8%、「レンタルの簡易ベッド」が32.9%。約8割の人が熟睡できなかったとした。
病院では付き添う家族には食事が提供されないことが一般的だ。調達方法は限られ、「院内のコンビニや売店」が65.1%で最も多かった・・・

増田リポートから10年

2023年6月23日   岡本全勝

6月7日の読売新聞が「「増田リポート」10年 人口減 地方雇用創出が急務 格差是正で女性定着カギ」を解説していました。

・・・増田寛也・元総務相(現在は日本郵政社長)らがまとめ、人口減少問題に警鐘を鳴らした「増田リポート」の公表から、今年で10年となる。少子化の要因の一つとして、若い女性が東京圏(東京、埼玉、千葉、神奈川)に流出する動きに着目したが、国の対策の効果は限定的で、「一極集中」に歯止めはかかっていない。地方で若い女性が魅力を感じる雇用の場を確保していくことが急務だ。

2040年までに全国の自治体の約半数が消滅する可能性がある——。13年11月から順次、公表されたリポートが示す将来像は衝撃をもって受け止められた。
リポートでは、人口減少対策には、次世代の子どもを産む、人口の「再生産力」が重要だと指摘し、20〜39歳の女性人口に着目した。都市部への人口流入が収束しない前提で将来人口を試算し、10年〜40年の間に若い女性が5割以下に減る自治体が、896自治体に上ると指摘。「消滅可能性都市」と呼びリスト化した。
896自治体のうち40年時点で人口が1万人を割り込む523自治体については、「このままでは消滅の可能性が高い」と踏み込み、「若年女性が減少し続ける限り、総人口の減少に歯止めがかからない」と訴えた。
増田リポートは、地方創生など、政府が取り組みを強化するきっかけとなったが、コロナ禍などを経て状況は悪化している・・・

・・・若い女性が職を求めて東京圏に流入しているとみられている。22年の女性の転入超過は約5万4000人。年齢別では、「20〜24歳」が約3万9000人にのぼった。公益財団法人「東北活性化研究センター」(仙台市)が20年、18〜29歳の女性を対象にした調査によると、東京圏への就職理由として「希望する就職先がその場所にあった」が53・4%でトップだった。
ニッセイ基礎研究所の天野馨南子(かなこ)・人口動態シニアリサーチャーは、「女性流出によって、地方では若い男女のバランスが崩れている。地元で結婚するカップルが少なくなれば人口減少は激しく進む」と指摘する。その上で「地方では子育て支援だけでなく、男女の賃金格差の是正によって女性定着に注力する必要がある」と強調している・・・

原発事故除染土壌の受け入れ

2023年6月22日   岡本全勝

6月12日の朝日新聞夕刊、大月規義・編集委員の「福島から550キロの本州最北の村、除染土受け入れに揺れる」から。

・・・青森県の下北半島にある風間浦村。津軽海峡の向こうに北海道が見える、本州最北の村だ。
5月下旬、東京電力福島第一原発に近い高速道の双葉インター(福島県双葉町)から車で550キロ離れた同村を訪れた。
双葉町から出発したのは、約3カ月前のニュースがきっかけだった。風間浦の冨岡宏村長(61)が、原発事故の除染で集められた土を再利用する実証事業について、受け入れの検討を明らかにした。どんな村なのか・・・
・・・2000年代後半、東隣のむつ市との合併構想があった。大きな市にのみ込まれる警戒心から、村民は住民投票で反対した。次に、西隣の大間町などとの合併を模索した。今度は大間町に拒否された。電源開発(Jパワー)の大間原発が立つ同町は、多額の原発交付金を独占し続けたかった。
むつ市にも、原発の使用済み燃料を一時保管する施設がある。風間浦村は、原発マネーで潤う2市町に挟まれる。
冨岡村長は一昨年の村議会で「(村内に)原発関連施設などの誘致の可能性を調査する」と答弁した。それが除染土を使った実証事業の検討につながった。

除染の土砂は15年から、第一原発がある双葉、大熊両町の「中間貯蔵施設」に集められている。4月末時点で東京ドーム11個分の1347万立方メートルに達した。除染土は30年後までに福島県外に運び出し、最終処分する。2町はそれを条件に施設を受け入れた。
処分量を減らすため、環境省は「除去土壌の再生利用」を考えた。土砂を放射能の濃さでふるい分け、「1キロ当たり8千ベクレル以下」の危険性が低い土を全国の公共事業などで利用してもらう事業だ。
試算では再利用できる土は全体の約4分の3。昨年末、東京の新宿御苑や埼玉県所沢市で実証事業をしようと試みた。だが、周辺住民や自治体が反対し、計画は凍結している。約5年前は福島県の南相馬市や二本松市で検討した。そのときも地元の反対で撤回した。
唯一、実証事業を受け入れたのが福島県飯舘村だ。これには事情がある。飯舘村の帰還困難区域について、政府はほとんど避難指示を解除するつもりはなかった。困った村は、除染土の実証事業の受け入れを「交換条件」に、避難指示の解除エリアを広げた。
一方、再生できない4分の1の危険な土については、受け入れ先の議論はまったくされていない・・・

・・・一番問題なのは、お金やリスク管理だ。除染と中間貯蔵施設の建設・管理にはすでに4兆円超が投じられた。除染土を同施設に閉じ込めている今の状態から、新たに巨額の費用をかけ、遠方へ拡散させる方法が賢明なのだろうか。
実は除染を始める際、環境省は福島県内に「最終処分場」を造るつもりだった。しかし、経済産業省が急きょ「中間貯蔵施設」と言い換え、「将来は県外搬出」と付け加えた。地元の了承が得やすいと考えたためだった。だが、経産省は県外搬出の責任を負おうとせず、環境省に押しつけたままだ。

5月下旬、避難指示が解除されたばかりの飯舘村長泥地区で、田植えが始まった。地下1メートルに再生利用の除染土が埋められ、地表に普通の土が敷かれる。これまで再生土で育てた野菜や花の試験栽培では、放射能はすべて安全基準を満たした。
地元復興組合の組合長、鴫原(しぎはら)清三さん(68)は「安全なのだから、使っても大丈夫だ」と言う。避難先の福島市から、長泥地区に週に3日ほど通って農作業をする。風間浦村のこともニュースで知っていた。
「そんな遠くへ持って行かなくても……」。長泥地区でもまだ東京ドーム約2個分の土砂を入れる余地はあるという。こう語った。
「将来にツケを回す前に、自分たちの世代で問題は片付けないといけない」
原発事故の問題や責任を押しつけ合う行政の人たちに、聞いてほしい言葉だった・・・

大月記者は「その場しのぎの繰り返し」など、長期に取材していなければ書けない記事を書いています。