カテゴリーアーカイブ:行政

財務省の陰謀?

2023年8月8日   岡本全勝

7月28日の日経新聞経済コラム「大機小機」、「何でも財務省の陰謀なのか」から。

・・・防衛力強化、異次元の少子化対策。さまざまな施策の財源で増税や国民負担増が取り沙汰されるたび、永田町では「財務省の陰謀」論が飛び交う。いわく財務省は増税のことしか考えていない、岸田文雄首相は財務省の言いなりになっている……。はたして本当にそうなのだろうか。
こうした見方は、いわゆる積極財政派に多い。安倍晋三元首相が回顧録で「彼らは省益のためなら政権を倒すことも辞さない」と記したこともあり、ほんの少しでも増税論を支持する議員がいれば「財務省のお先棒を担いでいる」などの言辞を積極財政派から浴びせられる。

財務省陰謀論は、かつての旧大蔵省が「最強官庁」と呼ばれた名残でもある。その最強官庁は省庁再編と政治主導への統治システム改革によって、とても首相官邸に伍するだけの存在ではなくなってしまっている。
直近の事例でいえば、少子化対策の規模は最後の最後になって3兆円から3兆5千億円へと、いきなり5千億円も官邸の主導で積み増しされた。この時、呆然とした財務官僚は多い。岸田首相が財務省の言いなりならばこんな事態は現出しない。防衛力強化の財源としての増税も、自民党税制調査会があっさりと時期を先送りした。
消費税にしても、3%の税率で導入されたのは1989年。5%になったのが97年で、8%が2014年、10%が19年。7%引き上げるのに30年を要した。本当に財務省の「陰謀」が奏功していたなら、今ごろ消費税率は20%になっていても不思議ではない・・・

・・・岸田首相も財務省の言いなりどころか、その逆を行っている。政治家が財政の健全化を考え、発言するだけで「財務省の陰謀」とされる風潮は、何かがおかしい・・・

子どもに放課後の居場所を

2023年8月4日   岡本全勝

7月25日の日経新聞、平岩国泰・放課後NPOアフタースクール代表理事の「子どもに放課後の居場所を 選べる場、自己肯定感増す」から。

諸外国に比べて低い日本の子どもや若者の自己肯定感をどう高めるか。特定NPO法人「放課後NPOアフタースクール」(東京)の平岩国泰代表理事は学校の取り組みには限界があり、放課後の居場所を充実すべきだと訴える。

小中高の学校現場は夏休みに入った。夏休み明けは子どもの自殺が多い。昨年は小中高生の自殺が年500人を超え、過去最多となった。主要7カ国(G7)で10代の死因の1位が「自殺」なのは日本だけである。
小中高生の自殺の4割は学校・学業起因とされる。若者の数が減る中で、自ら命を絶つ人が増えている現状は胸が苦しくなる。
この問題に関連して指摘されるのが日本人の若者の「自己肯定感」の低さだ。内閣府の国際比較調査(13〜29歳対象、2018年)によると「自分自身に満足している」と答えた人は45%しかおらず、最も高い米国の87%はもとより日本の次に低い韓国74%と比べても極めて差が大きい。

私が代表理事を務めるNPO法人は小学生の放課後を支える活動をしている。その柱が「アフタースクール」の運営だ。放課後の小学校で毎日開校し子どもはいつ、誰でも参加できる。
学校施設を広く活用しスポーツ、音楽、ものづくり、料理、遊びなど多彩な活動から選んで参加できる。地域や社会の大人が「市民先生」として共に活動してくれる。
全国の自治体との協働にも取り組み、兵庫県南あわじ市などアフタースクールを全市的に導入するケースも出てきた。

15年以上活動してきて強く実感するのは「放課後と子どもたちの幸せは相性が良い」ということだ。放課後に自己肯定感を高める子もとても多い。なぜか。キーワードを4つ挙げたい。
1つ目は「居場所」だ。内閣府の子供・若者白書(22年度版)によれば、居場所の数が増えるほど自己肯定感が上がっていくことが分かっている。
2つ目は「余白」だ。今の子どもは生活に余白がなく、生き急ぐように見える。都会では特にスケジュールに追われる子が多く、週末の習い事を含め週に7日予定がある子が少なくない。放課後の活動中に「次にどうしたらいいの?」と聞いてくる子や「どう過ごしたい?」と聞くと「わからない」という子も多い。子どもが試行錯誤する時間がないのだ。
3つ目が「伴走者」だ。自己肯定感は1人で自動的に育まれるものではなく、自分を受け止めてくれる存在があってこそ高まる。
子どもの支え手である親・先生はとても忙しい。そこで私たち市民の出番だ。アフタースクールの市民先生が子どもを支える姿をたくさん見てきた。市民先生は子どもに伴走的に寄り添い、ほかの子と比べない。
4つ目が「貢献感」だ。小学校を卒業する6年生が以前語ってくれた。「アフタースクールには低学年の子がいて自分が相談相手になれた。ここでなら私が役に立つと実感できて、私がいていい居場所があった」
同学年の教室では誰かに貢献できることは少ない。ゆえに異年齢の子がいる環境は重要だ。何かをしてもらうばかりが子どもではない。「自分も誰かに何かができる」ことに気づいた子が成長の一歩を踏み出す。

居場所・余白・伴走者・貢献感、4つのキーワードがまさにそろうのが「放課後」だ。だからこそ子どもたちの幸せと相性がよい。小学校低学年では学校は年1600時間、長期休みを含む放課後は日曜日を除いても年1600時間以上ある。放課後は長いのだ。

毎年変わる目玉政策

2023年8月1日   岡本全勝

7月20日の日経新聞に、「予算特別枠、まるで猫の目」が載っていました。

・・・財務省は2024年度予算の概算要求で、賃上げや脱炭素といった「新しい資本主義」を推進する特別枠を設けて各府省庁から計4兆円超の要求を募る。政府は特定の施策に重点配分するため同様の手法を繰り返してきた。メリハリをつけやすいのは利点だが政権の看板政策の一貫性に欠ける弊害もつきまとう・・・
・・・看板政策を対象に裁量的経費の削減分以上の予算要求を認める手法は恒例となっている。概算要求基準で歳出総額の上限を示さなくなった14年度以降でみると、新型コロナウイルス感染症対策に追われた21年度予算を除くすべての年度で特別枠を設けた。10年間の累計で40兆円規模に及ぶ。

安倍晋三政権下では防災や地方創生、働き方改革や一億総活躍社会の実現、中小企業の生産性向上などが対象となった。菅義偉政権ではコロナ禍を踏まえたデジタル化や脱炭素を掲げた。岸田文雄政権では経済安全保障や少子化対策、防衛力の強化も加わった。
予算編成に政権の意向や技術革新が反映されるのは自然だが、重点施策は「猫の目」のように次々と変わる。重点分野が定まらず長期的な視野で経済成長を促す視点は乏しくなる。与党からは特別枠の対象を増やすよう求める声も強く、総花的になってもいる・・・

記事には、2014年度以降の主な重点政策が、表になって載っています。見てください。懐かしい政策(?)も並んでいます。社会の変化に対応するため、重点政策が変わることは悪いことではありません。しかし、中長期の重点政策、あるいは各政策を統合した政策体系を示して欲しいのです。この点は、連載「公共を創る」でも指摘しています。

権力を預かる畏れ

2023年7月31日   岡本全勝

あるところで、公私混同について聞かれました。発端は、岸田首相の長男で首相秘書官が、昨年末に首相公邸で親族らと忘年会を開いていたことが今年5月に発覚したことです。その後、首相秘書官を辞任しました。
首相公邸には、首相家族が暮らす私的な場所と、公務に使う公的な場所(会議室など)があります。私的な場所は公務員宿舎と同じですから、非常識な使い方以外は自由です。他方で公的場所は官邸の延長ですから、使用目的は限られ、使うには手続きも必要です。
今回の事件も、公的な場所を使って私的な忘年会をしていた、ふざけた写真を撮っていたことが問題になったのでしょう。首相が公的な忘年会をされたのなら、問題はなかったでしょう。

権力を預かる人たちには、庶民より厳しい倫理観が要求されます。国民から疑惑を持たれないことです。国民の信頼がなければ、何を説いても信用されません。
そのような目で見ると、より問題の大きな事案もあり得ます。持っている権力を、公正・公平に行使しないことです。
例えば、補助金のか所付けや許認可です。客観的基準に基づいて優先順位の高い場所から補助金をつける、申請を採択するべきですが、それを無視して特定の人の申請を優先する場合です。
もう一つは、人事です。候補者の能力や適性を無視して、気に入った人を優先し、気に入らない人を遠ざける場合です。

政策の策定は公の場で議論されるので、よほどのことがない限り、私的な好き嫌いは入る余地がありません。しかし、政策の執行や人事権の行使では、すべてが公開されているわけではないので、私的な意向が入る余地があるのです。
そのような誘惑に惑わされないことが、権力を持つ人やその周囲にいる人には要請されます。一言で言うと「権力を預かる畏れ」でしょう。
さらに、権力を持つ人は、その一言が周囲に大きな影響を与えます。本人はそのつもりはなくても、周囲が忖度するのです。綸言汗の如し。

最低賃金千円に思う

2023年7月30日   岡本全勝

7月28日に中央最低賃金審議会が最低賃金の平均を時給千円に決めたことが報道されています。例えば、29日の朝日新聞「最低賃金、1002円に引き上げ
・・・中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)は28日、最低賃金(時給)を全国加重平均で41円(4・3%)引き上げて1002円とする目安をまとめた。過去最大の引き上げ額となり、政府目標でもある1千円を超えた。物価が高騰するなか、実質的な賃金水準を維持するため、物価上昇率を上回る引き上げが必要だと判断した・・・

この報道の問題点を、いくつか指摘しておきます。
1「過去最大の引き上げ額」と書かれ、いかにも高くなったように思えますが、先進国では最低水準です。欧米では多くの国が日本の倍近いです。それを指摘してほしいです。

2 また、この金額は審議会が決めたもので、政府が決めたものではありません。そして、この後、各県の審議会が、県ごとに数字を決めます。政治が責任を持っていないのです。仕事に就けない人の生活保障が「生活保護基準」とすれば、働く人の生活保障が「最低賃金」でしょう。審議会に丸投げせずに、内閣が金額と方向を決めるべきです。
このような重要なことを審議会で決めるのは、政治主導への転換の忘れ物です。審議会の決定では、国会での審議もできません。

3「中小企業が困る」との意見があります。それはもっともですが、賃金の引き上げは、価格に転嫁すべきです。「売り上げに響く」との意見もあります。これも一部には正しいでしょう。しかし、コンビニやファストフード店は、どの店舗も同じように人件費が上がります。競争条件は同じです。そして、そのような店で働いている従業員の賃金が上がり、消費が増えるのです。赤福餅も紅葉饅頭も、同じでしょう。国内の賃金が同じように上がるのですから。
経営者の「値上げするしかない」という声を、困ったことのように伝える記事もあります。(給料が同じなら)物価は上がらない方が良いのでしょうが、物の値段が上がらず、給料が上がらないことが、この30年間の経済停滞を招いた、あるいはその結果だったのです。そして世界に取り残されました。物の値段が上がらないことは、必ずしも生活者の味方ではありません。

4 問題は、海外との競争する製造業です。しかしすでに、日本の賃金はアジアでも高くありません。この欄で時々取り上げるビッグマック指数で、ソウルやバンコクに負けているのです。低賃金で海外との競争で負けるようでは、申し訳ありませんが将来性はありません。「賃金を上げると、安いアジアに負ける」という言説は、過去のものです。

5 急に最低賃金が上がると、企業も困るでしょう。そこで、中長期の見通しも示すべきです。
政府が行うべきは、「今後毎年2%ずつ最低賃金を上げる」という方針を示すことであり(これでも先進各国に追いつくには時間がかかります)、各年度の金額も審議会に投げずに内閣で決めることです。そして、それに耐えられない中小企業に対する支援策です。

事務局の発表資料で記事を書いていては、物事の本質や位置づけは見えませんよ。