カテゴリーアーカイブ:行政

政党、密室での政策形成

2024年6月2日   岡本全勝

5月18日の読売新聞解説欄に、若江雅子編集委員の「個人情報保護法 見直し デジタル政策作り「密室化」」が載っていました。少々込み入っているので、原文をお読みください。

・・・個人情報保護法の3年ごと見直しを巡り、IT業界のロビー活動が激しさを増している。これに呼応するように自民党デジタル社会推進本部や霞が関のデジタル庁も規制強化への警戒を強め、同党が近く政府に提出する「デジタル・ニッポン2024」の素案には個人情報保護委員会の執行と政策立案の権限を分離させる提案まで盛り込まれた。国民には見えにくい「密室」での政策形成について考えた・・・

・・・「経済界が望まない課徴金の話が、なぜ出てきたのか」
4月4日、東京・永田町の自民党本部。デジタル社会推進本部の会議で、個情委の幹部らは同席した経済団体の関係者の前で議員から問い詰められていた。
経済団体は数か月前から、個情法見直しに絡む不安を議員らに訴えてきたという・・・

・・・「どのくらいの規模感を想定しているのか。個情委の腹の中が知りたいのに、彼らは我々と対話をしない。これが一番不満だった」。業界側のあるロビイストはこう打ち明ける。「党のデジタル本部の方がよく聞いてくれる」
彼らの声を代弁するかのように、議員らは「民間と対話をしないのは良くない」と繰り返した。同席していたデジタル庁の幹部も、「前はもっと経済団体と議論を重ねた」「今の個情委は『保護』に振れすぎ」と同調したという。
ただ、今回の見直し作業では、個情委は昨年11月以降12回にわたり関係団体や有識者のヒアリングを行っており、経済団体は13団体が呼ばれ、このうち経団連や新経済連盟など4団体は2度も呼ばれている。消費者団体はたった1団体で一度きりだ。
それでも先のロビイストは「正式なヒアリングはこちらが意見を述べるだけ。非公式の場で腹を割って話し合いたいのに」と訴える。
だが、長年、情報通信分野の消費者問題に取り組んできた長田三紀・情報通信消費者ネットワーク代表はこう嘆く。「日本の目指すデジタル改革は『経済界のためのデジタル改革』なのか。せめてオープンな場でやってもらわないと消費者側の意見がどこからも出てこない」・・・

・・・憲法が専門の東大教授、宍戸常寿氏は「法律の執行機関がその執行を踏まえて法律を見直すのは当然で、個情法の立案と執行は個情委が所管すべきだ」と指摘する。その上で「内閣のデジタル政策全般の調整は、デジタル版の経済財政諮問会議のような会議体を作って公開の場で行ってはどうか」と提案する。意図するのは議論の可視化だ。
自民党のデジタル社会推進本部は、20年10月に特別委員会から昇格して本部になったばかりだが、企業や団体、有識者や官僚を頻繁に呼んで情報収集し、近年、急速に影響力を増している。ただ、そこは交わされた会話の記録さえ情報開示の対象にならない非公式な空間だ。国民の目の届かない「密室」にデジタル政策の形成の場が設けられることには危うさを感じる。
宍戸氏は「いまは与党と民間事業者と行政機関の間で、我々市民には見えない形で政策の調整がなされている。『非公式な影響力』が肥大化しすぎないよう、政策調整を公のプロセスの中に組み入れ、透明化をはかる必要がある」と話す・・・

地方自治法改正は政権の暴走への歯止め

2024年5月31日   岡本全勝

5月18日の朝日新聞オピニオン欄「地方自治法改正は必要か」から。
・・・地方自治法の改正案が国会で審議されている。大規模災害や感染症など「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」で、国が自治体に指示できる内容だ。国と自治体の関係は変わるのか・・・

牧原出・東大教授の「地方自治法改正は政権の暴走への歯止め」
・・・国の指示権拡大を答申した地方制度調査会(地制調、首相の諮問機関)の委員として議論に関わりました。2020年2月、安倍晋三首相(当時)が全国に一斉休校を要請しましたが、私は、国がああいう法的根拠のない指示を二度としてはいけないと問題意識を持っていました。
要請は木曜で、4日後の月曜から一斉休校する内容でしたが、科学的根拠も現場への配慮もなかった。

大災害やパンデミックなど非常時に直面すると、人間の判断は危うくなる。非常時の政権は、世論やメディアから「もっと強く対応するべきだ」と迫られ、焦りがちです。世の中が冷静さを失うと、官民挙げて暴走する危ない状況が生まれます。現行制度では、個別法の想定を超える事態が起きた時、国の指示に関する規定がない。それが、制約のない非合理的な判断につながることが、コロナ禍で明らかになりました。

今回の地方自治法改正案の指示権は、非常時の政権に歯止めをかける規定です。行使には「必要最低限」や「国民の生命等を保護する」といった要件がある。一斉休校の時にこの規定があれば、官邸内で「やりすぎじゃないか」と考え直す根拠になったと思います。
もちろん、強権的な政権が地方に指示を出す懸念はあります。だとしても、今回の規定を踏まえて「間違った判断では」と事前か事後に政権を問いただすことはできる。それが政権を縛ることにつながります・・・

官僚で身につく技能

2024年5月30日   岡本全勝

5月23日の朝日新聞「霞が関にこだわらない?3」「社会課題解決、ロビー活動でもう一度」から。

・・・民泊参入の「壁」が昨年7月、見直された。仕掛けたのは、「ロビー活動」を支援する会社「ポリフレクト」を経営する宮田洋輔さん(41)だ・・・
・・・企業が政府や議員に働きかける「ロビー活動」は欧米ではさかんだ。米企業がロビー活動に投じる費用は年間6千億円超とされ、「ロビイスト」も1万人を超える。「市場ルールをゆがめる」との批判があるが、ルール形成に当事者の企業が関わるのは当然でもある。
役所任せの日本企業の姿勢を目の当たりにし、「ならば、自分がやる」と思いが膨らみ、13年12月、IT企業に転職した。

転職して気づいたのは、官僚経験の「価値」だった。仕事の日程や進め方を事前に作り込む「ロジ業務」は、官僚時代は「無駄が多い」とうんざりしていたが、民間では「効率的な仕事の進め方」と評された。業界や政治家など様々な関係者の利害を調整する「根回し」も、典型的な官僚の手法だ。しかし、この作業を通じて、物事を様々な立場から考える視座が身についていた。「自分がいかに成長していたか、霞が関の外に出て初めてわかった」

民間企業に5年弱在籍し、より幅広い社会課題に関わりたいとの思いが強まり、18年7月に独立し「ポリフレクト」を立ち上げた。政府側が「一企業の利益」と判断しがちな要望も、広い視座で捉えれば社会課題の解決につながる。手がけるのは、そんな案件だ。
企業だけでなく古巣の経産省関係者からも「政策の意見を聞きたい」と声がかかる。ロビー活動は、企業と官僚の間の「垣根」を下げることができる。今はそんな思いで、霞が関を奔走している・・・

霞が関官僚のやりがい

2024年5月29日   岡本全勝

5月22日の朝日新聞「霞が関にこだわらない?2」「幸福運ぶミツバチ、地域のために」で井上貴至さん(38)が取り上げられていました。
井上君は総務省官僚で、現在は山形市の副市長です。鹿児島県長島町の副町長のとき、様々な企画を打ち出し、スーパー公務員とも呼ばれています。

・・・井上さんは「これだけの挑戦ができるのは、自分が霞が関の官僚だからこそ」と言う。「長島の副町長になったのが29歳。いま38歳で、中核市である山形市の副市長をやらせてもらえる。官僚でなければ、こんなポストは任せてもらえない」
長時間勤務が原因で離職する人がいるなど、霞が関が直面する課題も理解している。
それでも、霞が関に希望はある、と思う。国の看板を背負って、誰とでも会える。そこで受けた刺激を仕事に生かせば、日本の将来を良い方向に変えられると信じる。

「企業はまず従業員や株主の利益を考えるが、行政はすべての住民がステークホルダー(利害関係者)。全員の幸福を考えながら青臭く理想を論じられることが、官僚の最大の魅力です」
やれることはまだまだある。だから、霞が関を諦めない。そう決めている・・・

角野然生著『経営の力と伴走支援』

2024年5月28日   岡本全勝

角野然生著『経営の力と伴走支援 「対話と傾聴」が組織を変える』(2024年、光文社新書)を紹介します。
東日本大震災の原発事故対応で、経済産業省は、被災した約8000の事業者の事業再開に向けて個別支援を行いました。そのための組織として、福島相双復興官民合同チーム(後に福島相双復興推進機構)がつくられました。事務局長として組織を立ち上げ、仕事の進め方を編み出したのが、角野君です。

公務員と会社員で組織したので、官民合同チームと呼ばれました。この組織の職員が、避難先の各事業者のもとに出かけていって、事情を聞き、相談に乗って、事業の再開に向けて支援するのです。経産省は原発事故の責任者であり、当初は被災事業者に会ってももらえない、話を聞いてもらえない状態でした。通い続けることで、少しずつ意思疎通ができるようになりました。
従来の行政の手法は、補助金など支援の手法をつくり事業者から申請してくるのを待つものでしたが、この伴走支援では役所側が支援対象に出かけていき、話を聞き、問題点を一緒に考え、解決に向かって継続的に支援するのです。これが、「伴走支援」です。

補助金を交付するのは作業としては簡単です。それに対しこの伴走支援は、役所側から問題点を指摘して解決策を提示するのではなく、支援先が自分でも問題点を考え、解決方法を一緒に考えます。自分で気づき、考える。自立への支援をするのです。行政としては、手間暇がかかります。
復興庁では、被災地の小規模事業者の事業再開支援として、地域復興マッチング「結の場」をつくりました。これは、悩んでいる被災事業者と、相談に乗って対策を考える支援をしてくれる企業とをつなげる企画です。これも、補助金を交付するだけでは補助金が終わると事業が継続しないので、自立への支援を行うものです。

連載「公共を創る」の第76回「再チャレンジ政策で考える行政のあり方」で、行政の手法がこれまでは窓口で待つことでよかったのが、これからは出かけていく必要があるこへとの変化を指摘しました。その一つの事例と見ることもできます。
角野君はその後、関東経産局長、経済産業省中小企業庁長官を務め、この手法を被災地以外にも広めます。
現場の実情から編み出された行政手法で、従来の哲学を変えました。そして成功したのです。役所から出かけていって、相手の相談に乗り、自立への支援をする。この行政手法は、他の分野でも拡大できるしょう。