カテゴリーアーカイブ:行政

首相指示の失敗事例?その2

2024年6月18日   岡本全勝

首相指示の失敗事例?その1」の続きです。首相の指示がうまくいかなかった例として、新型コロナ感染初期の対応を挙げましょう。
感染拡大を防ぐために、2020年2月に、安倍首相が学校の休校を打ち出しました。この判断は正しかったと思われますが、その唐突さが問題を生じました。首相が記者会見をしたのが木曜日の夕方で、休校は翌月曜日からでした。

この記者会見の途中から、私の携帯電話に女性記者二人から電話が入りました。彼女たちは、子どもが保育園と小学校低学年です。「木曜日の夜に言われて、月曜日から保育園や学校が休みになると、私はどうしたらよいのですか」との抗議です。
保育園や学校、さらには学童保育が休みになると、この子どもたちの面倒を見る必要があります。この女性記者だけでなく、働いているお父さんとお母さんが、同じ状況になります。どちらかが、仕事を休んで面倒を見ることになります。月曜日の仕事の予定が入っていたでしょう。
せめて1週間時間をおいてもらえれば、対応策を講じることもできたでしょう。

官邸幹部は、そこまで気が回らなかったのでしょう。文科省と厚労省は事前に官邸が相談がなかったと発言しているようです。この記者会見は、総理の指導力を示す意図があったのでしょうが、休校・休園した後の対応を忘れていたようです。
文科省と厚労省が検討を命じられたなら、この点について指摘したでしょう。そして、休校・休園するにしても、準備期間をおいたと思います。

いなくなった官庁のエコノミスト

2024年6月16日   岡本全勝

日経新聞夕刊連載「人間発見」、小峰隆夫さん「日本経済と歩む人生」、6月7日の記事から。

「小峰さんの後を継ぐような官庁出身のエコノミストは多くない。」
大きな理由が省庁再編です。経済企画庁は内閣府の一部局になりました。男女共同参画や少子化など幅広い分野を担当する官庁になったため、経済を専門に仕事をしたいと思う人がなかなか来なくなりました。エコノミストとしての専門職採用や、外部人材の登用などを進めてほしいと感じます。

現役の官僚も、自分の考えを役所の外に発信するリスクを幾分、気にしているようです。原稿執筆や外部の講演、場合によっては兼業も自由に認める取り組みは大事です。
日本経済について何を書くべきなのか。次に自分は何を論じるか。役人だったときも民間に転じた後も、何十年にわたって毎日考えています。エコノミストは発信することで磨かれます。私は企画庁にいたときから、2年に1冊は本を出し、連載も続けてきました。

エコノミストは本を書くことで成長します。本を書くと必ず行き詰まる。これは苦しい。しかし、抜けると新しい世界が開ける。
当面は、私の代表作である「平成の経済」と「人口負荷社会」の続編を書けないか、構想を練っています。企画庁で働く中で、自分の〝比較優位〟は書くことにあると気付きました。日本経済について、書きたいことはたくさんあります。

高度成長と平成経済

2024年6月13日   岡本全勝

日経新聞夕刊連載「人間発見」、小峰隆夫さん「日本経済と歩む人生」、6月6日の記事から

・・・官庁エコノミストの先輩である香西泰さんは「高度成長の時代」という本を書いています。敗戦から1970年代まで、日本経済がどのように歩んできたかを分析したものです。
香西さんは高度成長について官僚などの一部エリートが主導したわけでないと分析し、市場メカニズムをベースに発展したと説明します。世界平和や自由貿易、海外からの技術移転がその支えになったとも強調しました。

香西さんのエコノミストとしての歩みは高度成長と共にありました。私もそのような本を記したいと思い「平成の経済」をまとめました。
昭和の経済は驚くほどうまく諸問題を切り抜けました。他方、平成の経済は「予想外に厳しかった時代」と言えます。バブル崩壊と不良債権、アジア通貨危機と金融危機、デフレ、人口減少など、経験したことのない課題が次々現れた。その対応も決して満足すべきものでは無かった。
私は悲観派のエコノミストではないですが、高度成長を終えた後の日本経済は、これでもかというほどに解決困難な問題が次々と出てくる。それも、誰かの責任ではなく国全体の課題として生じてくる。先進国に追いつく過程であるキャッチアップを達成した後の経済における宿命なのかもしれません。

急成長を遂げた後の現在の中国経済をみても、日本に似た問題が今起きているように見えます。不動産部門は過剰債務を抱えて苦しんでいます。高齢化や少子化も中国社会に影を落としています・・・

首相指示の失敗事例?その1の2

2024年6月12日   岡本全勝

首相指示の失敗事例?その1」の続きです。

朝日新聞によると、満額減税を受けられる人は約6300万人、納税額が少なく減税とともに調整給付を受ける人が約3200万人です。そもそも住民税や所得税を納めていない世帯が、約1740万世帯あります。「定額減税「穴埋め」自治体実務ずしり 減税しきれない人 3200万人に調整給付

一番の問題は、給与支払担当者の事務負担です。減税の計算をしなければなりません。給与計算は、ほとんどの事業所でコンピュータを使っています。一度きりの減税のために、計算ソフトを入れなければなりません。そして1度で減税せず、これから毎月に分けて減税します。それを、一人ずつ確認する作業が必要になるでしょう。
次に、減税しきれない(納税額が多くない人)と納税額がない人は、その結果をもらって、市町村役場が差額を給付します。
いかに事務負担をかけるかが、分かってもらえると思います。これらの作業をする人に聞けば、恨みの声がでるでしょう。

さらに記事では、次のようなことも指摘されています。
・・・自治体を苦しめているのが、対象者を絞り込み、給付額を算定する作業だ。さらに政府が給付のスピードを重視したことも、混乱に拍車をかける。今年の所得税額が確定するのを待たずに、穴埋め額を推計して給付するルールにしているからだ。夏以降に給付を始めるが、それでも足りなかった場合は、来年、納めた税額が確定した後に対象者を特定し、追加で給付することになる。
ある自治体の担当者は言う。「算定の前提になる数字が推計値なので、『うちの額は本当にこれで合っているのか』と問い合わせがあっても『わかりません』としか答えられない」・・・

岸田首相がこの減税を指示したとのことですが、自民党、財務省、総務省の関係者が、この事情を首相に説明できなかったのでしょうか。あるいは、説明しても聞いてもらえなかったのでしょうか。
私なら首相に、給付金の方が国民に実感してもらえること、事務作業が格段に軽くなることを説明します。そして、デジタル庁や総務省と相談して、マイナンバーに銀行口座を紐付けた人には直ちに払い込み、紐付けていない人には遅れて支払う仕組みにします。「早く4万円欲しかったら、マイナンバーに銀行口座を紐付けてください」と広報します。「首相に直言 秘書官の役割

経企庁報告書に大蔵省からの抗議

2024年6月12日   岡本全勝

日経新聞夕刊連載「人間発見」、小峰隆夫さん「日本経済と歩む人生」、6月5日の記事から。

「年間回顧の報告書をまとめた時は、不良債権問題を巡り大蔵省から激しい抗議を受ける。」
白書とは別に、企画庁は年間回顧という報告書を作っていました。93年は不良債権問題を取り上げようとしたところ、大蔵省が猛烈な勢いで公表を取りやめるよう抗議をしてくる。「企画庁が金融業を分析する法的根拠はない」「市場に影響が出た場合、どう責任を取るか」など、ものすごいけんまくでした。
彼らも銀行の経営の深刻さは知っており、神経質になっていたのです。調整と修正を経て分析は公表できました。一連の調整は役人人生で最も不愉快な経験でした。

この分析も、いま振り返れば警鐘としては不十分でした。不良債権問題は後に金融危機をもたらし、2000年代前半まで解決しませんでした。このときにやり合った相手とは最近、オンライン会議の勉強会で顔を合わせ、向こうから「あのときは迷惑をかけました」と言われました。