カテゴリーアーカイブ:行政

諸富徹教授、「嫌税」の時代

2025年7月5日   岡本全勝

6月25日の朝日新聞オピニオン欄、諸富徹・京大教授の「「嫌税」の時代」から。

税金や社会保険料への忌避感が世の中で強まっている。政治家たちも「負担減」や「手取り増」を競い合い、来月の参院選は消費税など減税の是非を問う場にもなりそうだ。「嫌税」の状況が生まれた背景に何があるのか。見落とされていることはないか。税と社会保障に詳しい経済学者の諸富徹さんに聞いた。

――いま、なぜ税金がこうも嫌われるのでしょうか。
「物価上昇で低・中所得層に生活苦が広がっていることが大きいと思います。3年ほど前から賃上げが進んでいますが、物価に追いつかず、実質所得はむしろ下がっている。第2次安倍政権では消費増税が2回ありました。社会保険料はその前から上がり続けています。そこにインフレが重なった。ただ、これは直接の原因にすぎません」

――どういうことですか。
「根本の問題は日本の産業競争力が低下し、1990年代以降、賃金水準が横ばいだったことです。非正規雇用は約4割に拡大、経済格差も広がりました。昨年の衆院選では国民民主党が所得減税を訴え、躍進しました。本来、賃上げの不十分さを提起すべきなのに、いくつもの政党が税負担ばかりに焦点を当てたのはミスリードでした」

――なぜそうなりましたか。
「賃上げは民間のことなので、政策ではなかなか難しい。一方、税制は国会が決められる、というのはあったと思います」

――ネット上では税・社会保障の国民負担率が5割近いことを年貢になぞらえ、「五公五民」と批判する声もあります。
「言い得て妙というか、ある種の実態を表しています。江戸時代の農民のように、お上に搾り取られるばかりだと受け止められている。負担とセットで受益を実感できず、納税者の権利や、税のあり方を決めるプロセスへの参加の感覚を持てない。ここに大きな問題があります」

――権利と参加ですか。
「そもそも近代国家の税とは、国民が公的サービスを政府に委託し、やってもらうために払うものです。欧米では市民革命を通して、納税者は税の集め方と使い方を決める権利を持つという原理が確立されました。一方、日本はその経験がないまま明治時代を迎えた。大日本帝国憲法で納税は臣民の義務とされ、財政民主主義、つまり税負担と権利・参加をめぐる議論は深まりませんでした」

――日本国憲法で国民は主権者となり、選挙で政権を選ぶ営みを重ねてきました。税をめぐる意識も変わったのでは。
「確かに消費税の導入や増税への反発で、内閣がいくつも倒れたことがありました。ただ、財政支出や負担のあり方、国家の姿を考え、代わりのビジョンを示すものにはならなかった。今も負担面ばかりが注目され、成熟した権利や参加の意識は根づいていないと思えます」

――何が必要ですか。
「今の現象や不満を、政府や政治家、研究者が真剣に受け止め、改革を進めることです。具体的には、産業構造の転換や生産性向上を通じて、企業が持続的に賃上げを進められる環境を整える。そして若い人への投資を増やし、非正規労働者の待遇も改善する。これらは経済や産業、雇用のあり方に踏み込む難問ですが、放っておけば社会の分断が進み、民主社会の基盤が揺らぐと危惧しています」

家産制国家の復活?

2025年7月3日   岡本全勝

6月13日の日経新聞経済教室、野口雅弘・成蹊大学教授の「根源に「家産制」の復活」から。

・・・法の支配の反対は人の支配である。このときの「人」は特定の個人の信条、パーソナルな好み、あるいは気まぐれなどを指す。
権力者のパーソナルな命令に従いたくない。少なくとも命令の理由について議論する機会が欲しい。法の支配を支えるのは、理由なき支配を押し付けられたくないという個々人の気持ちである。そしてこうした気持ちが持続的に共有されることで成り立つエートス(倫理的な構え)によって、法の支配は維持される・・・

・・・ところが近年、法の支配の危機がいわれることが増えた。とりわけ大統領に返り咲いたドナルド・トランプ氏の言動を巡っての指摘である。行政機関の縮小・解体のため設置された「政府効率化省」(DOGE)は権限の不明確さや利益相反で批判されている。政権の方針に従わない人々、組織への制裁も露骨だ・・・
・・・トランプ氏の統治について、いま注目されている言葉がある。長らく忘れられていた家産制(パトリモニアリズム)である。ウェーバーが「支配について」で100年前に論じたものだ。父による家族の支配を意味する家父長制を国全体に拡張したシステムが、家産制である。これにより国家は巨大な「ファミリービジネス」になる。政治リーダーは従順なフォロワーをえこひいきし、恭順を引き出す。近代的な意味での法の支配は「人がだれかを問わず」が原則だが、家産制では逆に「人しだい」で対応が変わる。

ウェーバーによれば、家産制は近代的な官僚制以前の伝統的な支配形態である。合法的支配の典型である官僚制では、恣意性が可能なかぎり除去され、計算可能性が高められる。過去、行政課題が増大し、業務が複雑になり、専門性が求められるようになると、権力者のパーソナルな要素に依拠した家産制は行き詰まった。とりわけ財政、軍事、司法の分野で、素人の判断が通用しなくなるからだ。
家産制はしだいに官僚制の論理に席を譲っていった。当時、ウェーバーが危惧したのは恣意的な支配ではなく、むしろ過剰な官僚制化のほうであった。

1970年代にはイスラエルの社会学者S・N・アイゼンシュタット氏らによって「ネオ家産制」の概念が用いられた。アフリカなどの途上国で、形式的には近代国家だが実際には縁故や個人的なネットワークが政治的決定や利益の配分に重要な役割を果たしていることに注意が向けられた。
一方、今日の家産制論の主たる対象は前近代的国家や途上国ではない。米国の比較政治学者スティーブン・E・ハンソン氏とジェフリー・S・コプスタイン氏は共著「国家への攻撃」で、ハンガリー、イスラエル、英国、米国などで進行する家産制化による近代国家の原則の破壊について論じている。親近者やお気に入りを要職に登用すること、司法制度への介入、性的マイノリティーや多様性の否定といった現象を、彼らは家産制の概念と関連づけて説明している。
なぜ21世紀になって家産制がリバイバルしているのだろうか。私がとくに強調したいのは、この体制が、新自由主義以後の状況で可能になっている点である。定期的に繰り返されてきた官僚制批判や公務員バッシングが、えこひいきのない公正な行政という理念をおとしめてきた背景がある・・・

東日本大震災復興予算、2026年度から5年間1.9兆円

2025年7月2日   岡本全勝

6月21日の朝日新聞が「復興予算1.9兆円、政府決定 26年度から5年間 立ち入り制限緩和検討、課題山積」を載せていました。

・・・東日本大震災の復興政策を決める政府の復興推進会議(議長・石破茂首相)は20日、2026年度からの5年間(第3期復興・創生期間)に投じる予算規模を、総額1・9兆円とすることを決めた。
東京電力福島第一原発事故からの復興事業が中心で、福島県への事業に1・6兆円を充てる。ハード面での整備がほぼ完了した岩手・宮城両県にも1千億円ずつを配分するが、「中長期的に取り組むべき課題」としている心のケアや被災した子どもへの支援は「真に必要な範囲」に縮小する。
復興予算は25年度までに33兆円が使われる見通しで、30年度までの20年間では34・9兆円になる。

原発事故の影響で福島県の大熊町や双葉町など7市町村に残る帰還困難区域では、立ち入り制限の緩和も目指す・・・
・・・福島県内には、原則立ち入りが禁じられている帰還困難区域が残る。面積は東京23区の半分ほどで、境界にはバリケードなどが設置されている。中に入れるのは元々住んでいた住民や防犯パトロールなどに限られ、自治体などの許可も必要だ。
国は区域内を除染して人が住めるようにする取り組みを進め、22年6月以降、役場周辺など区域全体の約8%で避難指示を解除。今はそのほかのエリアでも29年までに帰還希望者が戻れるように自宅などの除染を始めている。ただ、除染されずに残る約9割のエリアをどうしていくかの具体的な計画はない。国が基本方針に盛り込んだように、安全確保を前提に自由に活動できるようになれば大きな転換となる・・・

「イクメン」の変化

2025年7月1日   岡本全勝

6月24日の日経新聞夕刊、杉山錠士・総合子育てポータル「パパしるべ」編集長の「摩擦おこしたイクメンブーム 流行語から15年」から。私も、『明るい公務員講座 仕事の達人編』でイクメンパスポートを紹介しました。インターネットで調べると、名前も「ともそだてパスポート」に変わったそうです。内閣人事局のページ

・・・2021年に育児・介護休業法が改正され、22年から「産後パパ育休(出生時育児休業)」制度がスタートした。「ママのワンオペ」が当たり前のように見られた時代から、少しずつ「パパが主体的に育児する」時代へと移りつつある。働き方も見直され、それぞれの家族のあり方を追求するようになった。

筆者の長女は04年に生まれた。当時の男性の育休取得率は0.56%。保育園や平日の公園でパパの姿を見かけることはほとんどなく、先生が保護者に何かを伝えるときの対象はいつも「お母さん」だった。
ぐずる長女をベビーカーに乗せて歩いていると、見知らぬ女性から「やっぱりママがいいわよね」と声をかけられたこともあった。乳幼児健診では、会場にいるパパは自分ひとり。受付の女性からは「お母さんはどうされたのですか?」と聞かれた。
上の世代から「君は出世を諦めたのか?」「仕事と家庭、どっちが大事なんだ?」などと言われたこともあった。オムツ替えスペースに男性が入れないといったハード面も含め、男性には子育てがしにくい環境だった。
変化が起きたのは10年。「イクメン」という言葉が新語・流行語に選ばれ、男性が家事や育児を担うことに注目が集まった。この頃、育児に関わりはじめた人たちは、「イクメン第1世代」と言えるかもしれない。
ただ、あくまで「今はやりだよね」というニュアンスだったので、まだ色物扱いだったと思う・・・

・・・19年度、男性の育休取得率は7.48%。イクメンという言葉が浸透し、家事育児への認識が変わりつつあっても、育休を取る男性は10人に1人もいなかった。
まったく変化がなかったわけではなかった。スイミングスクールなど週末の習い事ではパパの姿が増えた。運動会など週末に開かれる学校行事には、パパが出席するのが当たり前になった。
この時期に家事育児に積極的に関わるようになったのが「イクメン第2世代」。変化は主に週末に起きた。「平日は仕事がメイン」という価値観は残しつつ、少しでも子育てに参加しようとする意識の表れだったのだろう・・・

・・・20年4月、コロナ感染拡大を受けて緊急事態宣言が発令され、働き方が大きく変わった。リモートワークの普及により、働き盛りの男性が平日の自宅にいるのが珍しくなくなった。
20年度の男性の育休取得率は12.65%と初めて1割を超えた。コロナ禍で取得率は一気に上昇し、23年度には30.1%と、ついに3割を突破した。働き方を見直し、家庭との向き合い方を変えたこの世代は、「イクメン第3世代」と言える。
ただし、取得率が3割に達したとはいえ、残る7割は取得しておらず、マジョリティーとは言えない。子育て講座などでも、「ママをしっかりサポートしましょう」という声かけがされる場面がある。「育児はママが主体で、パパはサポート役」という前提が、いまだに根強い。
実際、ママたちからは「受け身ではなく、もっと主体的に家事育児をしてほしい」という声をよく聞く。これからの課題は、「ママに従う」形ではなく、「自らの意思で育児に向き合う」パパをどう増やしていくか。社会もまた、そんなパパたちの働き方や生き方を受け入れ、支える方向に進んでいく必要がある・・・

威勢が良いけど・・・

2025年6月25日   岡本全勝

6月20日の朝日新聞に「不信任案、関税理由に回避 野田氏、首相会談後に表明」が載っていました。政治には駆け引きがつきものですが、威勢がいいだけではねえ・・・。詳しくは記事をお読みください。

・・・立憲民主党の野田佳彦代表が19日、内閣不信任決議案の提出を見送った。早い段階から意向を固めていたが、提出見送りは22日投開票の東京都議選や7月の参院選を控え、「弱腰批判」を招きかねない。日米関税交渉を理由にダメージをかわせると踏み、石破茂首相から交渉状況の説明を受けた直後のタイミングを選んだ。

「不信任案を出すなら、国民民主党や日本維新の会に共同提出を求め、一緒に政権を担おうと言う。彼らは乗れるわけがないだろう」。野田氏は今月に入り、側近議員から「維新や国民民主に瀬踏みをさせたらいい」と進言される中、こんな言葉を漏らした。
6日の記者会見でそれを実行に移し、「他の野党も不信任を通したいなら、共同提案するつもりはあるのか」と言及。それまで、国民民主の玉木雄一郎代表が「政権交代を目指す野田氏として出すべきではないか」、維新の前原誠司共同代表も「『首』は取れるときに取りに行かなければ」などと挑発的な言動をしてきたが、野田氏の発言で両党はトーンダウン。立憲幹部は「瀬踏みがうまくいった」とほくそ笑んだ。

野田氏は19日の会見で提出見送りの理由に「政治空白の回避」を挙げた。だが、実際には不信任案を出せる状況にはなかった・・・