カテゴリーアーカイブ:行政

原子力災害伝承館が伝えることと残っていること

2020年9月22日   岡本全勝

朝日新聞ウエッブニュースのアナザーノート、大月規義編集委員の「伝承館に残る故・吉田所長の言葉 そして双葉病院」(9月20日配信)を紹介します。
20日に開館した、東日本大震災・原子力災害伝承館の展示についての解説です。展示を見るだけではわからないことを、解説しています。要点を書き出します。

1 オフサイトセンターが役に立たなかったことと、解体されてしまったこと。
2 原発事故後に避難指示が出た際に、置き去りにされた人たちがいたこと。しかも、病院の入院患者です。また記事には書かれていませんが、避難した人たちも、寝たきりの病人が行き先も決めず、バスで運ばれました。そして、死者が出ました。この運送方法と死者が出たことは、もっと反省されるべきです。
3 吉田所長の責任。記事に書かれていることの他に、NHKの検証では、所長のとった水の注入はほとんど届いていなかったとのことです。
4 経産省のけじめについてです。この記事では、「責任とっていない経産省」と書かれています。

このうち2と4については、このホームページでも取り上げてきました。次回、それを整理して書きましょう。

起業を妨げた認可行政

2020年9月15日   岡本全勝

日経新聞私の履歴書、9月は、寺田千代乃・アートコーポレーション名誉会長です。女性経営者の草分けです。苦労の数々が書かれています。9月10日の「事業免許」から。

・・・もっとも、引っ越し専業という業態が成り立つと考えていた人はほとんどいなかったと思う。1年間で見れば3月末、さらに月末、週末に依頼が集中し、繁閑の差が激しい、などの理由からだ。寺田運輸とは別の会社で運送免許を取る相談を陸運局に持ちかけた時のこと。「お宅は寺田運輸で引っ越しをやってはるんだから、それでいいじゃないですか」と言われた。

当時私は29歳。小柄で童顔なので経営者の娘が思いつきで考えた事業と思われたのだろうか。丁寧な口調で諭すように経営の難しさを指摘され、軽くあしらわれた。その後も「十分に成り立つ裏付け、一定の顧客が引っ越しを依頼することを証明する書類を出して下さい」と求められた。

事業を始める前に実績提示が必要とするような指導には疑問を感じた。どこにいるのか分からない顧客の依頼の確約証明など示せるはずがない。仕方がないので寺田運輸の仕事で取引のあった企業3社にお願いして、社員が引っ越す場合は運送を依頼するという契約書を作って提出した。地場企業で社員の地域間移動、つまり引っ越しがほぼない会社ばかりだったが、ほどなく申請が受理された・・・

北村 亘教授、日本の行政はスリムすぎる

2020年9月13日   岡本全勝

中央公論』10月号は、特集「コロナで見えた公務員「少国」ニッポン」です。よい視点ですね。
そこに、北村 亘・大阪大学教授「日本の行政はスリムすぎる コロナ禍が炙り出す宿痾、意識調査に見る府省間格差」が載っています。10ページの小論ですが、重要な視点からの、深い内容が書かれています。お勧めです。多くの公務員が、納得すると思います。

取り上げられている論点を、いくつか紹介します。
・先進各国に比べ日本は公務員数が少ないことは、既に指摘されていますが。これが災害対応やパンデミック、さらには官邸から指示される新規施策の設計実施に職員が足らなくなっていること。危機時だけでなく、平時においても、職員数不足が露呈しました。
私も、常々問題に思っています。職員数不足は、民間委託で切り抜けています。しかし、新しいことを考える時間がないのです。例えば、公共事業などを民間委託するのは納得できますが、近年では企画立案や国民からの申請交付といった業務まで、設計と実施が企業に委託されています。官庁と自治体に人的余力がなく、他方でノウハウもなくなっています。
・省庁別に予算と定員、幹部職員比率が、二次元のグラフで図示されています。これは面白いです。
・予算額と職員数を比較して、官庁を3つに分類しています。
これまで私たちは、制度官庁・実施官庁と区別していましたが、ここでは、政策助言官庁・移転官庁・政策実施官庁の3区分です。これは納得です。制度官庁・実施官庁の区分は、発展途上社会・昭和までの官僚主導国家での区分でしょう。
官庁がこれからどのように生き延びていくか。この「性格区分」が使えそうです。
・2019年に先生たちが実施した「官僚意識調査」の結果が利用されています。この分析も興味深く、納得します。官僚の皆さんには、ぜひ読んでもらいたいです。

官庁や自治体の構造的問題を、コロナ危機対応という事案から指摘する。久しぶりに、実のある官僚論を読みました。
先生が、この論点をさらに掘り下げられて、論文や書物にされることを期待しています。
ところで、私の連載「公共を創る」も紹介されています。ありがとうございます。

李登輝・元総統の政治哲学

2020年9月8日   岡本全勝

9月5日の読売新聞、橋本五郎・特別編集委員の「誠は物の終始なり」は、台湾の元総統李登輝の評価です。
・・・李登輝さんは私が出会った政治家の中で五指に入る偉大なリーダーでした。なぜなのか。
第一に、李登輝さんには信仰がありました。敬虔けいけんなクリスチャンでした。総統という重責を担った期間は「毎日が闘争だった」と振り返っています。
そんな困難な事態に直面したとき、必ず『聖書』を手にし、まず神に祈りました。そして聖書を開いて自分が指さしたところを一生懸命読み、自らどう対処すべきかを考えました。ただその信仰は決して排他的ではありませんでした。「他の宗教を信仰しているなら、その神に祈ればよい」という立場です。

第二に、李登輝さんには哲学がありました。著書『「武士道」解題 ノーブレス・オブリージュとは』(小学館文庫)には哲学的思索の歩みが綴つづられています。青春時代の魂の遍歴過程で最も大きな影響を受けたのは、ゲーテの『ファウスト』と倉田百三『出家とその弟子』、カーライル『衣装哲学』だそうです。『ファウスト』を読み、この世の真理とは大きな愛であることを知ったといいます。

第三は、良き日本人の精神を持っていたことです。李登輝さんは、台湾でもっとも愛されている日本人の一人、八田與一さんを通して日本精神を説明しています。八田は灌漑かんがい事業で不毛の地を豊かな農地に変え、台湾の農民に希望を与えました・・・

・・・政治的リーダーについて李登輝さんがもっとも強調したのは「誠」でした。中国の古典『中庸』には「誠は物の終始なり。誠ならざれば物なし」とあります。一切は誠から始まり、誠に終わる。誠は一切の根元だという意味です。李登輝さんにとって誠とは「相手にわかる言葉で説く」ということです。
李登輝さんは「私は権力ではない」という権力観の持ち主でした。権力とは困難な問題の解決や理想的な計画を執行するための道具にすぎない。それは一時的に国民から借りたもので、仕事が終われば返還すべきものである。いつでも手放す覚悟がなくてはいけないのです・・・

コロナウィルス対策、強制と自粛

2020年9月4日   岡本全勝

8月27日の日経新聞経済教室、大林啓吾・千葉大学教授の「自由・安全のバランス考慮を コロナと緊急事態法制」から。

・・・では第2波以降に備え、どのような改善が必要だろうか。換言すれば、第1波の対策では何が問題だったのか。第1波に直面した際、政府は新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言を出し、自粛ベースの対策をとった。多くの国民がそれに応じて外出や営業を自粛したので、感染者や重症者の数は減少に転じた。政府が強制力を行使しなくてもうまくいった成功例のようにみえる。

しかし特措法は自粛の結果生じた損失に対する補償規定を置いていなかったこともあり、休業要請に従わない業者が一部存在した。政府は持続化給付金などの対応はとったが、営業損失そのものに対する補償はせず、補償の要否は自治体の対応に委ねられた。また自粛警察の横行や、自粛しなかった業者や県外移動者への嫌がらせなど、同調圧力により事実上服従を強いられたという問題も起きた。

そのため強制的措置と補償を巡る課題が浮上し、全国知事会は強制力と補償をセットで設ける法改正をすべきだと政府に提言した。確かに強制力を行使する代わりに補償をするという制度にすれば、責任の所在がはっきりする。また同調圧力による事実上の強制の問題も回避できるだろう。

他方で、日本のような穏健的対応で強制措置とほぼ同等の効果が得られたのであれば、権利制限の側面が強くなる法改正は必要ないといえる。実際少なくとも第1波についていえば、日本の対応は強制的に対応した国と比べてもそれほど遜色のない効果を得られた。
仮に強制と補償を盛り込まないとしても、緊急事態宣言発令に伴う自治体への支援措置を充実させる必要があろう。実際に強制的対応をとるのは自治体であることが多いからだ。外国でも緊急事態宣言は強制力の行使の発動ではなく、自治体への支援を始動するという仕組みをとる国がある・・・